玲一n語るコミケ
「俺は、一度行った事があるぞ」
玲一が言う。涼成は、その声に驚いていた。
「熏晴のようなオタクが行くようなとこだって思っていたが……」
「そうだぞ、俺を懇意にしてくれる女性に、そっちの道の人がいてな……」
玲一が言う。「俺と先輩が隣同士で座っているところになると、やたらと喜ぶ人だった」それを聞くと、涼成は満の事を思い出した。
見た目がどうあれ、オタクであるか? どうか? は、わからないものだ。
「とにかく、人がいっぱいで……薄い本一冊に五、六百円ぐらいの値がついているし、モノによっては千円以上のやつも……」
そう言う玲一。「こんなものが、こんな値段で売られているなんて、ボロいもんだ、としか思わなかったな。俺も描いてみようかとも思ったんだが……」そこまで言う玲一。
「俺に絵心はなかったから諦めたけどな」
それを聞いて、望愛はニヤリと笑う。
「チンピラはチンピラらしく、グレーな仕事でお金を稼いでいればいいのよ」
望愛の嫌味に、玲一は唸る。
それを気にせずに、望愛は先へと歩いて行った。
「まあ、そこで人間の素晴らしさがわかるかどうかは、分からないけどね……」
望愛は他人事のようにして言う。
「まあ、いいじゃないか。望愛が涼成にべったりなら、他に方法もないようだし……」
そこに声をかけてきたのは、サラと凛子だった。
「あ……ゲスおっぱいだ……」
望愛が臆面もなく言う。凛子は、それを聞いて、望愛に殴りかかろうとして、拳を上げたが、後ろからサラに押さえられて、止まる。
「落ち着いて……だから私一人で……」
サラがいつもの言葉を言う。凛子はそれで握っていた拳を外した。
「私の仕事だから……」
いつもやっている問答だし、いまさら、それを面白いと感じる訳もない。涼成は、そんなやりとりなど気にせず、話しだした。
「なにかいい話でも持ってきてくれたのか?」
涼成が聞くと、サラはこくりと頷いた。
「さっき、あのセクハラが入ってきて、言えなかった事がある」
そう言うと、サラは小切手を出した。
「軍資金にするといい。十分に楽しんでもらわないと、いけないからね……」
そう言われ、小切手を見せられる涼成。
「おいおい、そんなものを貰うワケには……」
涼成が言う。コミケで遊ぶ事を考えたら、これくらいのお金は必要のようだ。
「君ねぇ……世界の存亡は、あなたの肩にかかっているのを分かっているの?」
凛子が言い出す。
「こっちは、あなたの綺麗事に付き合って、地球と運命を共にする気なんてないの。このお金は受け取りなさい……でなきゃ、君の口に無理やり突っ込んでやるわよ……」
凛子が言う。
「こういう事を言うと、めちゃくちゃ似合うな、あんたは……」
気分の悪くなった涼成は言う。それに凛子は、少し気を悪くしたようにしたが、それでも言う。
「今回の嫌味は、見逃してあげるわ。だけど、本来はサラがあなたに渡すべきなのに、こんな役に限って、私にやらせてるんじゃないわよ……」
そう言い、凛子は涼成の胸ポケットに小切手を詰め込んだ。
「感謝してます……」
サラは両手を合わせながら言う。それを見た凛子は鼻を鳴らした。
「それじゃ、汚れた大人からの話は、これで終わりよ。コミックマーケットの時は、必ず成功させなさい」
凛子はそう言うと、そのまま去っていった。
「凛子も悩んでいるの、このまま生きてもいい事なんてあるのか? って……」
「あの人の場合は……」
涼成がそこまで言うと、サラは涼成を見て頷く。
「あのゲスな性格が問題だよね……」
その意見については、涼成とサラの二人は同意をしたようだ。
「世界の存亡がかかっているっていうのに、ケチでしょう?」
サラが言う。涼成は小切手に書かれた値段を見てみた。
「十万って……大金じゃないか……」
涼成が言うのに、サラは呆れた顔で言う。
「学生にとっては大金か……」
「まあ、そうだな。こんだけあれば、十分遊べるんじゃないか?」
玲一は言う。
「コミックマーケットに行った事あるって言ってたね」
サラが玲一に向けて言う。
「それじゃ、全然足りないって、言われていたけど……?」
そうサラが言うと、玲一は、うーん……と、唸る。
「確かに、やたらと本を買ってたし……俺は荷物持ちをしていたから、その重さたるや、両手がちぎれるかと思ったくらいだったし……」
そして、イベントのために、やってきていた宅配会社に、本を預けて、家まで送っていたのだという。
「あれは、絶対に十万は超えてたな……」
じみじみとしながら言う玲一。
「そうだよね……コミケは戦場だよ! 弾薬無しではやっていけないんだ!」
そういう声が聞こえる。サラは、粘ついた汗を流しながら、声のした方に、視線を向けるため、振り返った。
「サラたん、また会えて嬉しいよ!」
本当にうれしそうにして、熏晴が言う。
それに、サラは引きつった笑顔をして熏晴を迎えた。
「大げさな事を言わなくてもいいから……」
嫌悪感を感じているのが、まるわかりだ。だが、当の熏晴だけは、それに全く気づいていないようだった。
「サラたんの服のサイズがわからなかったから、ダボダボかもしれないけど、ボキはサラちゃんの分の衣装を、用意していあるんだ。楽しみにしててくれ……」
「私はコスプレは……」
そこまで言ったところに、望愛が言う。
「面白そうじゃない。着てみなよ」
ケラケラ笑いながら言う望愛。サラは、望愛の事を一度見たが、それで、諦めたようにして言う。
「楽しみにしてる……ありがとう熏晴……」
いやいや言っているのがまるわかりの声で言ったサラ。それを聞いて、熏晴は、心底嬉しそうにして言った。
「今からでも、サイズを図らせてもらっていいかい? もう、ほとんど作ってしまったけど、最終調整くらいはできるから」
そう言われ、サラは両腕を広げた。そして、熏晴はサラの体にメジャーを巻いた。




