サラといっしょに
「コミケってやつを調べてみたけど、なんか面白そうだった」
サラが言う。着ぐるみを着て体を動かしている涼成は、そのまま言った。
「熏晴の奴は、必ず参加をするしな……帰ってきてからは、当分テンションが高めだし……」
涼成が、熏晴の名前を出すと、サラは嫌そうな顔をした。
「あいつの名前は出さないで……」
「名前を出すだけでそう言われるとは、あいつも嫌われたもんだ……」
涼成は言う。きぐるみから腕を着ぐるみの中から片方出してみる。
洗剤を大量につかっただけあって、さすがに汚れは落ちていた。長年の汗で黄ばんだ泡が、涼成の体にまとわりついている。
「サラ。いまから俺は脱ぐぞ」
「ん?」
そう言い、涼成はきぐるみを脱いだ。サラは一瞬意味を理解していない感じであったが、涼成は、かまわずにきぐるみの中から出てきた。
「バカ! いきなりそんなかっこう……」
「だから言ったろう? 脱ぐって……」
そう言いながら、涼成は作業に戻る。水道の蛇口を全開にして、きぐるみをすすぎ始めた。
サラは、顔に手を当てて、恥ずかしがっていたのだが、指の隙間から涼成の事を見ているのが分かる。
『見たいのか? 見たくないのかわかんないな、ああいう女子の行動……』
ホースできぐるみの中に水を流すと、涼成は、その着ぐるみの中に入って、また動き始めた。
「お疲れ様だね」
涼成の事を見て、着ぐるみを洗うのは大変だと感じたサラは言う。
「実際大変だぞ。変わってみるか?」
涼成が言うのに、サラが返す。
「洗い終わったものなら着てみたい」
「それじゃ、意味ないんだが……」
涼成はそう言う。その涼成の事を、さっきからじー……と見ていた凛子は言い出す。
「貧弱くんなんてどうかしら?」
そう言う凛子に、サラと涼成は凛子の続きの言葉を聞く。
「私だけが身体的特徴でバカにされるのは我慢ならない。涼成君! いまから君は貧弱くんよ!」
「おーけー。俺は今日から貧弱くんだな」
「なら、私はおちびちゃんでいいかな? ただし、『金髪幼女』とは、死んでも呼ぶな」
サラも言い出す。涼成とサラはこれを楽しんでいるようなのが凛子には気に入らなかった。
「どうしてよ! あんたたちは、少しは嫌そうな顔をしなさい! 私だけがこんな思いをするなんて、許されるもんですか!」
いきなり、そう大声を上げた凛子。
サラと涼成は、キョトンとした顔をした。
「世界の崩壊なんて知らないわよ! こんなものより、さっさと帰ってドラマの続きでも見ている方が、何倍も楽しいわ! 世界が崩壊するんだったら、死ぬのは私だけって事もないんでしょう? 世界が崩壊するなら崩壊すればいいのよ! こんな腐った世界なんて、なくなったほうがいいに決まっているじゃない!」
凛子が言うのを、涼成とサラは黙って聞いていた。
「世界がいけないのよ! おっぱいがおおきかったら、モテモテになるとか思うなよ! 寄ってくるのは、胸しか見ていないような男ばっかり! 男達は、私と話すと、すぐに離れていくし! いやらしい上司からは、『愛人にならないか?』とか言われるのよ! それを断ったらこんな面倒な仕事に回されるし! もう高望みはしない! 高収入、高身長、高学歴のイケメン彼氏さえいれば! こんな仕事を続けなくてもいいのに!」
そう最後まで言い切ると、凛子は、『ぜーぜー』と肩で息をし始めた。
その言葉を聞いて、サラと涼成か顔を見合わせた。
「凛子って結構ゲスだね」
「うん、清々しいくらいのゲスだ」
サラと涼成はそう言い合う。
「何よ! 私のどこがゲスだっていうのよ!」
「自覚症状が無いところが……」
「うん、さっきの言葉をもう一度聞いたら、自覚できるか?」
涼成もそう言う。
サラと涼成の二人は、それから、作業を続けた。
「まだ臭うな……」
「洗剤を、もっと投下する?」
そう言って、涼成の背中に洗剤を塗り始めるサラ。
涼成とサラは、今では、完全に二人になって、きぐるみを洗う作業に入っている。
「何よ? そんな奴にこなをかけて……どう見ても、将来出世しそうにないじゃない」
この様子を見て、そう言い出す凛子。
「ゲスだな……」
「本当、凛子はゲス……」
涼成とサラは、気分を害してそう言った。
「まあ、勝手にやってなさい。私はもっとグレードの高い男を探すから」
凛子がそう言い、うんざりした顔をしていた。
「ゲスっていうだけじゃ、効果がないみたい」
サラは、涼成と、着ぐるみを洗いながら、そう言い合った。
「ありがとよ、サラ。大分匂いもなくなったし、これで一旦終わりだな」
持ってきたきぐるみは、水でベタベタになっていた。これから、数日かけて、陰干しをして、乾かすことになる。
「それで、問題なのは……」
すぐ横に、次のきぐるみが置いてあるのを見る涼成。これを洗うか? それとも、もうやめるか? を、考える。
「やろう。まだ気力は残っている」
サラが言う。正直疲れている涼成だが、そう言われると、やらないわけにはいかない。
「何よ? 一個やれば十分でしょう? わざわざそんな事までやらなくてもいいじゃない」
涼成がやる気になったところで、水を差してくる凛子。
「やっぱりゲスだな」
涼成が、舌打ちしながらそう言う。凛子はその言葉を全く気にしていないようであった。




