それは、女神か? 悪魔か?
ノアはこの世界にやってくると、空から地上にまで降りていた。
風を切り、空気が体に叩きつけられる。その感覚を気持ちよく感じていたノアは、目を細めた。
「これが地球……これが人間の世界……」
生まれてこの方、地球は何度も見てきた。だが、このように人間の姿を借りて降り立った事は一度もない、風が体を切りつけ、どんどんと地上が近くなっていく。ノアは背中に羽を発生させた。
その羽は白く輝いている、だがそれを見ることのできる人間は、純粋な心を持つ少数の人間のみである。今やほとんどの人間には、この綺麗な羽を見ることはできない。それは、この世界に生きる人々の心が荒んだからであると、メシアもヤハウェも言っていた。
本当にこの羽を見る事のできる者がそんなに減ったのだろうか? 昔は、一度地上に降り立てばすぐに人に見つかり、「天女」だの、「女神」だのと言われたものであった。
背中の羽が、空気を切る感触が心地よく、大きく羽を広げたノア。
今の自分の姿は、日本の学生の姿なのだという。昔では考えられないくらいに短い下半身のスカートに驚いたが、今の日本ではそれが普通なのであるという。
そういうところに時代の流れを感じたノア。
ノアは地面が近づいてくるのを見ると、背中の羽を羽ばたかせた。
そうすると、ノアが地上にまで降りていく速度が、一気に下がった。
何度か羽を羽ばたかせて、落ちる勢いを殺したノアは、どこに降り立つか? 目星を付けようとして辺りを見回した。
「変なものばっかり……あのカクカクした物は何?」
ビルなどを見て、そう言うノア。この世界に最後に降り立ったのは、江戸時代の頃であった。あの頃は、江戸の街も景気が良く、いくつもの長屋がひしめいていたし、人の往来も多く、活気があったものである。
コンクリートでできた建物をみるのなんて初めてであるノアには、それらは異様なものに映るらしい。
それを避けた場所に降り立とうと考えたノアは近くに人の手がかず木が残っている場所を目指し、降り立っていった。
「よーしよし、この事は忘れるんじゃないぞ。いずれ、鶴の恩返しみたいに、綺麗な女性にでも姿を変えて俺の前にやってきてくれ」
そう意味のわからないことを言いながら、山の動物たちにエサをあげる少年がいた。
彼は、当鳥 涼成という名の、少年だ。彼は、学校一番の変態として周囲から認識されていて、しかも、涼成自身、それを誇っている節がある。
学校で覗きの被害が起こったら、最初に疑われるのは彼だし、大抵は彼が犯人だ。
そのたびに、男らしく観念を見せるところが、また被害者達の癪に障るらしい。
何度も、被害者の女子生徒達から殴られ蹴られ、簀巻きにされて暴行を受けながらも、それでもケロリとして次の日にはまた覗きを始める。
この男に、反省の二文字はなく、更生をさせるのは誰にもできないというのが、周りからの認識である。
女子の部活の着替えの時間には必ずどこかの着替えを覗いているし、部活が終わる前になるまでどこかに行っている。こうやって、学校の裏山にまでやってきて、動物にエサを与えているのだ。
遠くない未来に、美少女の姿になって自分のところにお礼をしに現れる獣耳娘の姿を想像しながら悦に浸っている涼成の上に、ノアは降り立った。
「ああぁぁ!」
涼成は、ノアの事を見つけて指さした。
「こんにちは、君、変なところにいるね」
ノアはそう涼成に挨拶をする。
「その羽! もしかして、この前助けてやった鳩の!」
涼成は言い出す。それから、ノアの事を見ながら言い出す。
「この前、豆をあげた事を覚えているか? オレ! オレだよ! あの時の事を覚えていてくれたんだろう?」
「君の言っている意味はわからない。多分ほかの子と勘違いしているんじゃないかな?」
ノアは首をかしげて言う。涼成は、それでも言ってくる。
「そんな背中に翼を生やした奴がそんなにいてたまるか! ぜぇったいこの前の鳩だろう!」
「この羽が見えるんだ……」
ノアは思う、この少年の言っている言葉の意味は分からないが、この少年は、この羽を見る事のできる、心が純粋な人間なのだろう、そう思うと。ノアは顔を輝かせた。
「やっぱりいるじゃない! 私の羽を見ることのできる人!」
そう言い、ノアは感極まって涼成にまで飛びついていった。
「おおう! スキンシップ! まずはそこからですね! わっかりましたぁ!」
そう言い、飛びついてきたノアの体を抱きしめる涼成。その手は、ノアは涼成の胸にほおずりをし始め、涼成は迷うことなく、ノアのおしりを触った。
これにノアは気付き、驚いた。
「このエロ助!」
そう言い、ノアは涼成に向けて電撃を飛ばした。
「あばっ! 鳩さん! こんな能力アババババ!」
涼成は、そんな悲鳴を上げ、バタリと倒れた。
「エッチな事はいけないんだよ!」
倒れた涼成に向けて、そう声をかけるノア。涼成にその声が届いていたか? どうかは分からなかった。
「女神様だって?」
それから涼成は、電撃のダメージから立ち直ってノアからの話を聞いた。
「そうそう、昔は天女とかとも言われたなぁ」
昔を思い出しながら、そう言うノア。ノアの事を疑いの眼差しで見る涼成。その涼成の周りを、いまだに学校の裏山の動物達が囲んでいた。
「俺って、実際に見た物しか信じねぇ人間だからな、天女だの女神だの言われても……」
「そんなぁ……」
ノアは残念そうにしながらそう言った。
「俺達と何かが違うようにも見えないしな……」
そう、涼成は言いながらノアの事をジロジロと見た。
「羽を見ても信じないの?」
ノアは首をかしげながら言う。そう言うと、涼成は羽を触り始めた。そうすると、ノアの手元に大きなハンマーが現れて、それで涼成を殴りつけた。
頭を殴られ、顏を地面に埋める涼成。
「エッチな事はいけないんだって言っているでしょう!」
「羽を触るのの、どこがエッチなんだよ……」
そうする涼成の事を、山の動物達が囲んで、心配そうにして見つめていた。




