サイズを図るのは涼成
「聞いたか? あの望愛って子コスプレ研究会で大暴れして部員を全員のしてしまったんだって」
涼成と望愛が歩く中、ヒソヒソ話がされるのが聞こえる。
部員全員には目立った外傷はなく、傷害にはあたらない事であるとの結論になった。
「ハンマーの事を言ってもみんな信じてくれないし……そう思うなら一発殴られてみればって言っても……」
「それで殴られてみる奴なんて、いないわな……」
そういう事で、部員全員に対する傷害の線は無いと判断され、結局、教師達の望む『校内には暴力事件はありませんでした』と、いう結論にまとめられたのだ。
だが、人の口に戸は立てられないというし、部員全員が、望愛に対して何も禍根を残さないという事もありえない。
今は噂だけが一人歩きしている状態だった。
「そんな素敵兵器をポンポン使うな……いずれ怪しむ人間も出てくるぞ」
涼成が言う。望愛は、それから、おずおずと聞いてきた。
「ところで、涼成は怒って無いの?」
そう言われ、涼成は、ピタリと足を止めた。
「まあ、怒ってはいないかな……」
涼成は、望愛に殴られる直前の事を思い出した。
「いままでのぞきは何度もやったが、生乳を見れたことは一度もなかった……」
望愛が胸をさらけ出して、ハンマーを振り上げる瞬間の事を思い出し、涼成は、生唾を飲んだ。
それを見た、望愛は、ハンマーを取り出した。
「やっぱり、もっと殴っておけば!」
そう言い、望愛は涼成にハンマーを振り下ろす。
「バカ! みんな見てるぞ!」
「うるさい!」
そう言いながら、涼成は望愛のハンマーから逃げ回っていた。
その騒ぎを聞きつけた、教師達がやってきた。望愛と涼成は教師がやって来ると、ペコペコと頭を下げた。
そして、望愛の持っていたハンマーは没収という事になる。
「ただし、高天原くんは、一発だけ当鳥の事を殴るのを許す」
教師の一人がそう言った。その教師は涼成がのぞきをした時、必ずやってくる、風紀委員の顧問の教師である。涼成に対して、思うところがあるのだろう。
当然、涼成自身も、こうなるのは覚悟をしていた。
その教師は、望愛にハンマーを渡すと、ニコリと笑った。そして、望愛はためらいもせずに、涼成の腹に一発を叩き込んだのだった。
「腹が……グチャグチャになった気分だ……」
放課後になると、涼成達はコスプレ研究会の部室に向かった。
昼の弁当は、まったく喉を通らなかった。本来、あんな殴られ方をしたら、肺が破裂でもしているはずである。
「昼飯も食えなかったぞ……」
涼成が、そう文句を言うが、望愛はその言葉を聞き流す。
「大丈夫かな……?」
望愛はそう言いコスプレ研究会のドアの前に立った。そして、おずおずとしながらドアを開けてみる。
望愛がドアを開けると、クラッカーが鳴った。
望愛が、いきなりの事に呆然としていると熏晴が言い出した。
「君の事は話しておいたよ。みんなその話を信じてくれたんだ」
望愛が世界の崩壊させる力を持っているという事を、部員達に話したのだという。
「あんなものを見せられたら、信じるしかないでしょう?」
「そうそう、あのハンマ-ってすごかったよね!」
そう部員達が言うのに、満足そうにした熏晴が言う。
「無理に隠そうとする事なかったんだって。こうやって話してしまえばスッキリするし、動きやすくなるだろう?」
熏晴がメガネを直しながら言った。
だからと言って、無断で周りの人に話すのは勘弁していただきたい。部員達が望愛達の事を見る目は、昨日とはまた違っていた。
「今日こそスリーサイズを測るわよ。神の使徒なんていう、すごい設定を持っているからには、それに見合う衣装を仕立ててあげるわ」
満がそう言う。『昨日の事は懲りていないのだろうか?』と思う涼成。
「では、さっそく更衣室に……」
そう言い、望愛の手を取る満。
だが、望愛はその手を振り払った。
「ダメ! 満は怖い!」
そう言う望愛。そうすると、満は膝を落とした。
「なんで、いつの間にこんなに嫌われていたの……」
『満さんは、やっぱり熏晴の同類だ……』
自分のやった事など、簡単に棚に上げ、自分が望愛に嫌われる理由だって分からないときた。その上、一言言われただけで、海よりも深く落ち込むところも同じである。
満が落ち込んているところに、望愛はあっかんべーをした。
それが、さらに追い討ちになってようで、満は部室の隅っこにまで行って、泣き始めた。
「満さんになんてことを言うんだい!」
これには、熏晴も怒る。これは当然だろうが、望愛はこの件について、謝る気はないようだった。
「満さんは、けっこう面倒な人なんだぞ。人に対して、すぐにちょっかいをかけてくるくせして、なにか一言悪口を言われただけで、海よりも深く落ち込むんだ。満さんが一度こうなったら、一時間はこのままなんだぞ! どうしてくれる?」
それでも、望愛はそっぽを向いたままである。そして、涼成は言葉を飲み込んだ。
『まさにお前みたいじゃないか……熏晴……』
普段の扱いの難しい熏晴の事を思い出し、涼成はそう思った。だがこれを言ってしまうと、熏晴も一緒になって落ち込みかねない。
「まったく相変わらずキミは空気が読めないね」
そう言う熏晴に、涼成はイラッときた。
空気の読めない、傍若無人の奴なんて、まさに熏晴である。
「とにかく、望愛ちゃんは、早くサイズを測って。サイズがわからないと、衣装を作れないよ」
このコスプレ研究会には女子がまだ数人いる。彼女達にサイズを測るのを、お願いをしようと思った涼成だが、なんか、その女子達の目がギラついているのがなんとなく感じられた。
「涼成がサイズを測って」
望愛が唐突に言い出した。
「おいおい、いいのか?」
この中では、涼成が一番安心できそうだと思ったらしい。
「おいおい、この覗きの常習犯が安全そうだとでもいうのかい? そいつにやらせるくらいなら、いっそ僕が……」
熏晴が言うが、たまらず涼成は言う。
「お前、顔がニヤついているんだよ……」
そう言い、涼成は、望愛の肩を持って、更衣室にまで連れて行った。
この変人たちの集団においては、自分が一番まともらしいという事に、涼成は気づいたようである。




