文化部の線
「いつまでくっついているつもりだ?」
涼成が言った。望愛は、涼成と一緒にいれる時間はとことんまで一緒にいた。そして、涼成に飛びついてきた。
まるで、仲のいい小学生の兄妹のような光景であった。
「さて……これから、いろんな部活を巡るわけだが……」
玲一は言った。
「涼成は運動部の女子から嫌われてる。望愛と一緒に入部はできないだろうが……その時は、俺がゴリ押しで何とかする」
玲一の頼もしい言葉を聞いて、涼成は生唾を飲み込んだ。
「ただし……せっかく入部をさせてもらってから、のぞきを繰り返すようなら、俺もキレるからな……」
そう、涼成に、向けて言う玲一。
「オーケー……」
涼成はそれに両手を挙げて答えた。
「体を動かすのは、嫌いなんだけど……私は頭脳労働派なんで」
望愛は、玲一に向けて言う。
「先にいいやがれ……」
玲一は、イラつきながら言った。
今ので、運動部の線は無くなった。なら文化部か、文化部と言ってもいろいろある。
「お菓子を食べれる茶道部か? 料理部とかどうだ……?」
玲一が聞くが、望愛はツンとしてそっぽを向いた。それにイラつきながらも、玲一は続きを話す。
「この学校には文化部もいっぱいある……へたなとこに入らないように考えないと」
涼成が言うと玲一も言う。
「悪い……文化部の事は何も知らん……」
玲一も、申し訳なさそうにして言う。
「文化部といえば、熏晴の方が詳しそうだが……」
涼成は言う。
「だが、あいつに借りを作るのは……」
玲一も言う。
熏晴に借りなんか作ったら、一生恩に着せようとしそうである。
あいつは、『涼成が運動部の女子のデータを集めているなら、俺は、文化部の女子のデータを集める』などと言っているくらいだ。詳しいことは詳しいのだろう。だが、だからといって、頼りたい相手であるか? どうかは別だ。
「だがなぁ……」
玲一は言う、涼成の考えている事も、同じようだ。二人は文化部の方面には全く無知である。多少頼りたくない相手でも、親友の一人だ。
「たまには頼ってやるのも悪くないか……」
渋々と、仕方なしといった感じで言う涼成と玲一。二人は意を決して、熏晴のクラブにまで足を運んでいった。
「この空気は、いつまで経っても慣れねぇな……」
玲一は愚痴る。俺と玲一は、熏晴のいるコスプレ研究会の部室の前だ。
入口にはいくつものアニメのポスターが貼られており、学校の一室に貼るようなものではないようなものまである。
「よく潰れないよな……この部……」
こんな不健全なアニメのポスターを貼っておいて、よく学校から注意をされないもんだと思う。
「そろそろ、ここに来る頃だと思っていたよ」
熏晴は、俺たちがドアの前で立っているのに気づいて、わざわざ向こうの方からやってきた。
ドアを開けると、中には、入口に貼ってあるのとは比べ物にならないほど、キツいポスターも貼ってある。
望愛はそれを見ても何も思っていないようだった。興味深そうにして、ポスターを眺める。
「見ちゃいけません……」
涼成がそう言い望愛の目を両手でふさいだ。
その後、望愛は、その手を触る手の甲を、指でつんつんとつついたりしていた。
「なんか、お似合いカップルって感じだな……」
熏晴は言う。本当に、熏晴は人をイラつかせるのが上手い。
「世界の存亡がかかっているんだぞ! どんだけ危険な恋愛なんだっていうんだ!」
「おいおい……そういう事を大きな声で言うなよ……」
熏晴はこの段階になって落ち着いた表情で言う。いきなり、『自分は落ち着いてますよ? 何を取り乱しているんですか?』などと言わんばかりに、落ち着き始める所も、イラつかせる原因の一つだ。
「おいおい! なんだ今の中二匂の溢れる、素敵なセリフを言ったのは……?」
コスプレ研究会の中から、部員が顔を出してきた。
「『世界の存亡』とか聞こえたよね……どんな設定の妄想なの?」
さらに女子生徒も出てきた。
妄想ではないのだが……こんな事を話すわけにもいかない。
「ごめん、ごめん、こいつ、ちょっと頭がおかしいんだ」
熏晴が言う。この事をごまかすにしても、もうちょっと言いようがあるんじゃないか? とも思う。
「この子は入部希望者かな?」
そう部室の中から聞こえてくる。それに気づいてみると、望愛は、部室の中に入って行っていた。
アニメのポスターを興味深げに見ている。
「それは、子供は見ちゃいけないポスターだ……」
涼成は、望愛の事を引っ張りそのポスターから引きはがす。
「私、ここがいい!」
そう言いだす望愛。
「ここが? もうちょっと他の所を見て回った方が……」
涼成にとっては、熏晴の部活である。と、いうか熏晴はこの部の部長だ。熏晴の下につくような気分になるので、涼成にとっては屈辱的な事だ。
その、あまりものオタクぶりに、一年ですでに部長に選ばれたという。この部のサラブレッドである。その、知識の深さから、この部の内部では、尊敬の念を向けられているらしい。
「ふふふ……この世界の素晴らしさを詰め込んだ、マンガの世界へようこそ」
熏晴は演説を始める。
「マンガってのは、読んだ人を楽しませるために作られている。この世界の素晴らしいものを紙に書き込み、それを表現をするという、他にはない素晴らしらがあるのだ」
それから、あーだこーだ言い出す熏晴。
涼成たちの前では、その事を言わないようにしているが、熏晴はマンガの話を始めたら止まらない。
涼成は、いつの日にか聞いたような言葉を言われて、うんざりした気分になった。熏晴は、会う人間一人一人に、この演説をする。何度も聞かされるのでめんどくさいのだ。
望愛は、熏晴の演説を、興味深そうにして聞いていた。望愛は本気で、この部に入りたいのかもしれない。




