表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

女。

さて、作戦失敗から3日たった。不幸中の幸い、俺は大した怪我もなく、バイトや副業やらと、平穏なのかそうではないのかわからない日々を送っていた。そして、俺は今アクセルをフルスロットルで首都高を華麗に駆け抜けている。憎たらしいぐらいペダルを踏み、ハンドルを急旋回させる。隣の席には河部さん。え? 仲睦まじくドライブ? 違う違う。俺が車なんぞ持ってるはずがない。


「明石さぁん、早いよぉ、もう。」

河部さんが叫ぶ。そう、ここはゲームセンターである。彼女は地団太踏んで膨れた顔をする。なんか可愛い。女の子相手にレーシングゲームで本気を出す俺が悪いのだが。あまりに俺の運転が上手かったらしく、俺の樹脂でできた座席の後ろにはちびっこギャラリーがたくさん。恥ずかしくなったので、ほかのゲームで遊ぶことにした。


何かいいゲームがないか探していると、なかなか懐かしいものを見つけた。

「太鼓の名人か...。」

思わずつぶやいてしまう。高校時代の親友が得意だったっけ。

「これやる!」

彼女は自信満々な様子で主張する。ポケットの長財布から、200円を取り出し、投入する。彼女のご希望通り、対戦モードでやることにした。


「やったぁ、やっと勝てた!」

結果、完敗。俺もこういう音楽系のゲームは人よりできると自負していたのだが...。この女、強すぎる。一番高い難易度でかなり難しい曲をたやすくフルコンボとは...。プレイしている時の彼女が持つばちは神がかっていた。まるで太鼓に吸い付けられるような、とにかくすごかった。

「河部さん、すごい強いですねぇ。勝ち目ないっすよ、これじゃあ。」

「私、リズム感だけは自信ありますから!」

そしてまたギャラリーを呼び込んでしまう。まあ彼女が嬉しそうだしそれでいいか。たしかに、なんか音楽ができそうな雰囲気はある。ピアノを気軽に弾いちゃうような。


次のゲームは、ガンアクション系と言ったらいいだろうか。マシンガンぽい物を持ち、画面上の敵をとにかく撃つやつである。二人協力プレイ。とりあえず操作説明が流れているのできっちり頭に叩き込む。ペダルを踏むと遮蔽物に隠れてリロード(弾薬補充)するのか...。だいぶ現実と違うので戸惑う。


ゲームスタート。現実のくせが出て、2、3発ごとに射撃を一旦やめてしまう。実戦で一気に連射することはまずない。ゲームごときに焦りが出てくる。弾が切れ、急いでペダルを踏む。また射撃。一方、河部さんはかなり落ち着いて連射している。丁寧に、丁寧に。彼女の右手の指は淡々と引き金を引き続けている。リロードするときは、銃のグリップの下に手を当てて、ペダルを踏んでいる。


といっても、俺が足ひぱって結局すぐに終わる。コンティニューするときりがないのでやめる。今回は全くギャラリーは作らなかった。


さて、もう夜遅い。女の子を一人で家に帰らせるわけにはいかない。

「河部さん、俺送っていきますよ。」

「あ、いいです。この後用事あるんで、大丈夫です!」

「そうですか、では、また。」

彼女は、スキップしながら帰っていった。よほど楽しかったのだろう。まあ異性と遊ぶのは新鮮で楽しい。自分自身、あまり経験したことのない体験だからな。


さて、帰るか...。徒歩30分ぐらいかな。歩くのは嫌いじゃない。


...尾行?後ろにいる、サングラスをかけた長身の女からつけられている気がする。歩き方も一般人の歩き方じゃない。歩幅の整った、軍人のような歩き方だ。くそ、国防軍か...?気づいてないふりをし、一気に角を曲がり、裏路地に入りやり過ごそうとするが...。


「章くん、逃げたって無駄よ?」

裏路地に入ってきた女が俺に言う。この声は...!彼女はサングラスを外し、髪を振り回す。

「才花じゃないか!」

思わず大きな声を出してしまう。この長身の女の名は、伊吹才花。長身スレンダーな美人、ただし男は寄ってこない。目つき怖いそして厳しい。かつての、国防軍時代の同僚だ。旧友との突然の再会に、かなり戸惑う。

「どうした、国防軍さんよぉ、俺を殺しに来たのか...?」

汗がにじみ出てきた。心拍数が上がる。

「殺すぅ?何抜かしてんの?あんたはもう死んでるじゃない。」

「やっぱり...、そうなっていたか...!」

そう、俺は死亡扱いになっている。国防軍を辞めたんじゃない、辞めさせられたのだ。

「とにかく、場所を変えて話さない?」

「いいだろう。」

気が付けば、俺は息が上がっていた。とりあえず、近くの公園へ。夜なのでひと気もない。中心の大木の前で、立って向き合って話す。


「まだ、国防軍はやっているのか?」

「うーん、今は教官やってるわよ。最近の男はだらしない。で、さっそく聞きたいんだけど。零中隊はあの時どうなったの?」

冷たい物言いは才花の特徴だ。明らかに手汗がにじみ出ている。

「全...滅。」

震えも止まらない。

「まあ書類上はそうなってるわよ。一人残らず死んだことになってる。でさ、この前東京の倉庫でドンパチやったのアンタ?」

「勘がいいな...相変わらずお前の勘の良さには身震いする。」

正直、話題を変えてもらって落ち着いた。思い出したくもない。思い出せば、気がくるってしまう。

「どーせ"カチューシャ"にやられたんでしょ?」

「...!どこで知った!?」

国防軍の情報能力もずいぶん上がったというのか...!

「知ったもなにも、その情報について提供したのは日本陸軍だから。FSBのコードネームは、"鷹”らしいわよ。使ってる銃は、PTRD1941らしいわね。」

だいぶ震えも収まってきて、ようやくまともに喋れるようになる。


ビッターン、思いっきり左ほほに強烈なびんたが飛んでくる。激烈な痛みが走る。

「私がどんだけ心配したと思ってるのよ、バカっ!」

彼女は俺の胸に飛びつき、すすり泣く。


そう、何を隠そう俺は出兵する前こいつと付き合っていた。だが、出兵するとき嫌な予感がし、一方的に別れを告げたのだ。

そして、俺は死んだ。いや、死んだことにされた。

「勝手に別れようって言って、戦争行ったまま、帰ってこなくって...!死んだって言われて...!でももう戻れなくて。」

「...すまん。」

彼女はそっと俺の胸から離れる。袖で涙を拭き、だいぶ泣き止んだようだ。悪いとは思っている。ただ、軍人である彼女が俺とよりを戻せば、確実にお互い国防軍に殺される。彼女も承知しているだろう、俺が今どんな状況に置かれているかを。大切だからこそ、一緒にいられない。


そう、大切だからこそ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ