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仕事

俺は単なる一介のコンビニのバイト、ただのフリーター。


そして俺は今職場に向かっている。電車を乗り継ぎ、千代田区へ行く。駅から徒歩で少しばかり歩いたその先は...。"British Embassy"と書かれた看板の横には、大きな門とユニオンジャックが掲揚されている。イギリス大使館である。


警備員に特殊なパスを見せ、門の中へと入る。


見慣れた廊下を歩き、小部屋へ行く。いかにもイギリスらしい一人用の仕事場に、白人の小太りの男が一人座っている。本棚にはたくさんの書物、四角く平坦な机、そして社長椅子っていうやつがある。


「ハロー、例のブツは手に入った?」

一応上司なはずだが実際友達だ。そして相手は日本語が話せないので英語で話すほかない。

「まったく、少しは礼を考えたらどうだね。」

彼は笑いながら、諦め顔で言う。

「例のブツは届いた?」

彼は指を鳴らすと、召使を呼び、金属製の頑丈そうな銀色のアタッシュケースを持ってこさせる。机に置かれた長方形のケースを空ける。まるで小さい子供がクリスマスプレゼントを開けるように。

「これで、いいのかね?」

「サンクスアロット!」

中身には"M14 EBR"という銃と光学機器やカスタムパーツ諸々。設計は古いがいろんな局面で使える良い銃だ。

「ひねくれものだな、今更そんな銃を使うなんて。」

「L85なんていう欠陥品渡す方もひねくれてるけどな。」

L85とは、イギリス軍の主力ライフル。欠陥が多いことで有名で銃として使うより、鈍器として使う方が実用性があると言われるほどである。今は家で新品同然で家のタンスの肥やしとなっている。


「ところで、浮かれてないで気を付けてほしいことがある。」

はっと我に返り、彼の話を聞く。

「最近、日本でのツェントルとラングレーの動きが激しいらしいから、十分に気を付けてくれ。」

"ツェントル"、ロシア語で中央という意味だ。ロシア連邦保安庁、FSBの俗称とでもいうべきか。ラングレーはCIA、アメリカのスパイ組織。

「FSBとCIAが日本で動いて何になるんだよ、まったく。」

「標的は日本じゃない、我々イギリスかもしれない。」

「とりあえず、諜報しとけってことだろ?」

彼は無言でうなずく。こっちだって給料もらっている以上逆らえはしない。というか逆らったらこの場で射殺されるかもわからないわけで。

アタッシュケースをロックし手に持ち、無言で立ち去る。さて、家に帰るか...。


周りからしたら、地味な男がギターでも運んでると思うだろう。


SIS,Secret Intelligence Service、俺の本職だ。英国秘密情報部、俗にいうMI6っていうやつだ。ジェームズポンドかなんかが属しているあ


れである。かくかくしかじかあって、日本にいるわけだが...。別にハーフでも、外国で育ったわけでもない。正真正銘の日本人だ。


そうこう考えて電車に揺られるうち、家の最寄りの駅に到着する。スーパーで買い物しようにも、アタッシュケースが重いし邪魔だ。一回家に置いてくるか...。自室はアパート2階にある。まあ一人暮らしには十分なぐらいの普通のアパートだ。クローゼットの奥にアタッシュケースをねじ込む。そしてまた外出。


早朝から出かけたせいか、まだ午前11時だ。買い出しして、かえって炊事すれば1時までには飯が食えるか...。と思って町を散策中、なんとばったり昨日の割と長身の女性に出くわす。


「ああ、明石さん!昨晩はありがとうございました!」

ええと、名前は...、河部さんか。そういや連絡先もらったまま連絡してなかったなぁ。一応連絡先には入れといたんだけど。

「こんにちは。ここらへんに住んでるんですか?」

「はい。ここから向こうに向かって歩いて10分ぐらいですかね...。」

自分の家とは反対方向を指さすが、それでも近いことには変わりない。

「自分は反対方向ですけどここから徒歩で近いんで、ご近所さんですね。」

と、俺。

「あの...よかったら、これからご食事でもいかがですか?」

彼女の突然のお誘いに、ちょいと戸惑う。なんだこれ、俗にいうデートってやつ?

「いいですよ。」

「では、行きましょう!」

彼女は満面の笑みで言う。別にかまわないんだが、ハニートラップじゃなかろうな...。別に政府がほしがるような情報を持ってるわけでもないんだが...。


もうすこしフォーマルな服装で来ればよかったとつくづく後悔した。

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