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オズ  作者: みえさん。
一章 まだ何も終わってはいない
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「起きていたのか」

 部屋にはいるとベッドの脇で少年が身動きをした。アヌルの話では彼の名はヴィズ、妹の方はユマというらしい。

 ヴィズは妹が眠る様子を見守りながら暗がりのなかじっとしていた。

 電気をつければ少女が目を覚ましてしまう気がしてレオはランプ型の電灯を一つつける。仄暗い明かりの中、少年がじっとこちらを見る。

 警戒する様子は少しあるが、怯える風ではない。ただ、観察するようにこちらを見ていた。

「嬢ちゃんの様子はどうだ?」

「先ほど食事をしてから眠りました。今は薬が効いているようです」

 少年の言うように少女は穏やかな寝息を立てている。

(似ている……)

 眠っている少女と今朝死体で発見された少女とが重なってレオは顔を険しくさせた。年格好、髪の色、瞳の色、東洋人混じりの面差し。どれをとっても今朝の少女と似ている。

 本当はすぐにでも叩き出すつもりだった。治安が回復してきているとはいえ、この街には危険が伴う。ましてレオの近くというのは普通とは異なる意味で危険が伴う場合がある。だが、少女の外見のせいで追い出すことが出来なかった。

 もしも犯人が、自分が殺した少女とそっくりな少女を見かけたらどうするだろうか。

「早く治して出て行け。お前らがいたんじゃ女も連れ込めねぇ」

「すみません……あの、お相手しましょうか?」

 少年に言われてレオは苦笑する。

 どいつもこいつも人を少年趣味の変態にしたいらしい。

「お前が俺を満足させられるとは思えないな。それに迂闊にそう言う言葉を口にするモンじゃねぇよ。チェスの話じゃねえし、冗談にもならない」

「冗談で言った訳ではないです」

 はん、と鼻先で笑う。

「じゃあそう言う趣味のガキか。だったら外にいな。てめぇの顔なら黙ってたって寄ってくる」

「そう言う意味ではありません。ユマが原因で不具合が生まれるのであれば、僕が責任を持つって言っているんです」

 少年は真剣に、男は不真面目に返す。

「妹の尻ぬぐいは兄貴の役目って訳か。麗しき兄弟愛だな」

「そうではありません。僕はユマのためなら何でもします」

「何でも、か?」

「はい」

 当然と言ったヴィズの表情に迷いはない。

 このお金持ちの少年がどこまで本当にできるかは知らないが、腹は括っているらしい。品のあるなしはともかくとして昔のレオによく似ている。

 妙な二人連れだと思う。

 兄妹と言っているものの、少年は少女の従者のように見える。どこか似ている風でもあるが、似ていないとも言える。髪の色も瞳の色も違う。考えられるのは兄妹を名乗りながら実際血の繋がりがないか、片親しか接点がないか。妥当なところで少年は妾腹であることを知らず使用人として少女の家に厄介になっていたと言うことだろう。

 それにしても何故こんな街に立ち寄る事態になったのかが不思議だ。

「……早くこの街を出な。俺がそいつに何かする前に」

「……」

 少年が睨み付けてくる。

 笑いもせずにレオは続ける。

「冗談だ」

 レオはランプの明かりを消した。

 シャワーを浴びてソファーで休むつもりだったが、戸口の方へ踵を返す。今日はこの兄妹に部屋を貸しておいてやろう。

「一つ忠告しておくとだな」

 少年が暗がりの中顔をこちらに向けたような気配がした。

「この街でナイフを仕込むなら懐の方がいいぜ」



 廊下を出ると後ろから裾を引かれて立ち止まる。

 驚きもしなかったのは裾を引かれる前に彼の気配に気付いていたからだと思う。

「どうした、ラギ?」

 少年は沈んだような面持ちでレオを見上げた。

「……レオ、あのな、俺……」

 言いかけて、少年は口を噤む。

 レオは膝を折り、少年と目線を合わせた。彼が「オヤジ」ではなく名前で呼ぶ時は何かある時だ。それを証明するようにラギはうろたえたように視線を逸らした。

 普段は歯に衣を着せぬ物言いをする少年だ。本当に言いにくい事なのだろう。

「どうした?」

 頭を鷲づかみにして顔を自分の方に向けさせる。

 戸惑った様子でようやく少年は訴えた。

「俺、昨日、見たんだ」

「見た?」

「アヌルがあの辺りをウロウロしているところを」

 あの辺り、と言われて思い当たるのは一つだった。

「……事件現場か?」

 うん、と少年は頷いた。

 事件現場を見に行った後、ずっとラギの様子がおかしいのは気にかかっていた。アヌルの方はと言うと普段とあまり変わった様子が無かった。もっともあの男が本気で隠し事をしようとしたなら見抜けないだろうが。

「俺、やだよ。アヌルが人殺しだったら俺は嫌だ」

「俺もあいつも人殺しだ」

 この街でこの年まで無事でいられるのは誰かを殺してのし上がってきた証拠。そうでなくても間接的に人を殺して生きてきたのだ。

 そんなことは知っていると、ラギは首を振る。

「そうじゃなくて、俺は……」

「分かってる」

 レオは少年の頭を撫でた。

 今にも泣き出しそうな顔が更に歪む。

 世界も国も見放した場所にあるダクスは人を殺さなくては逆に殺されるような街だ。人殺しは嫌だと駄々をこねても否応なしにその瞬間はやって来る。迷えば死ぬ。意思を固めれば生き延びる。

 そう言う場所で隣にいる人が人殺しだと嫌だ、ということは、その人に死ねと言っているのと同じ事。少年はそう言う意味で言っているわけではない。

 快楽のために人を殺すような人間であってほしくないのだ。

 レオにもアヌルにも、人を殺す時にはそうしなければいけない理由があって欲しいと言っているのだ。

(理由があろうがなかろうが、人殺しは人殺しだけどな)

 だけど、こういうラギの青臭い一面は嫌いではない。

「アヌルの事なら大丈夫だ。お前が心配するようなことはない」

「でも……」

「お前は信じて待ってろ。この事件、出来るだけ早く終わらせるから」

 納得した様子ではなかった。

 しかし、確かにホッとした様子でラギは頷いて返した。


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