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オズ  作者: みえさん。
一章 まだ何も終わってはいない
3/32

 事は三ヶ月前に遡る。

 中心街から少し外れた路地で少年の死体が発見された。銃弾で一撃頭を射抜かれ側にはバラの花が散っていた。当初その少年がこの辺りに住み着いて間もなく、親もいなかったことから何らかの諍いに巻き込まれただけだと処理された。

 元々この街では死体が発見されることが多い。以前ほどでは無くなったがまだ治安が悪いのは事実。よそから来て死体を置いていくケースもある故に事件はさほど重要視はされていなかった。

 しかし、事件は二度目を迎える。

 今度はこの街で産まれ育った少年が頭を打ち抜かれ死んでいた。手向けのように散っていた花はキク。日本の品種の花が散っていた。

 三度目は少女、そして四度目は少年。一月という短期間で次々と事件は起こった。どれも十歳前後から十代半ば程度の子供を狙い拳銃で射殺した後死体の直ぐ側に花を散らすと言う変わった犯行だ。ここまで頻繁に起こればさすがにレオたちも黙ってみている訳にもいかなかった。‘デス・フラワー’と呼ばれ始めた連続殺人犯を本格的に捜し始めたのだ。

 この辺りで花を手に入れるのは難しい。少し調べれば犯人を捕まえられるはずだった。花を扱う職業、花を育てることに成功している連中。可能な限り調べたが、どれも犯人とは思えない結果だった。

 ついに犯人の目星もつかぬまま三ヶ月が過ぎる。

 四度目の犯行後、レオたちの一団も「フォーカード」も治安強化に努めたがそれを嘲笑うかのように犯行は続きついに今朝七人目の犠牲者が出た。

「見たこともない少女ですね」

 少女の死体を眺めてアヌルが言う。

 この街の全員を把握している訳ではなかったが、少なくとも「SADIE」周辺をうろついている連中の仲間ではなさそうだった。髪は明るい金髪で東洋人混じりの面差しがある。驚いたように見開かれた瞳はライトブルーだ。痛みを感じている余裕もない一瞬だったのだろう。

 レオは無言で少女の側にしゃがみ目を閉じさせた。

「こっちでも調べたが今のところこの嬢ちゃんの素性を知っている奴はいなかった。もう少し調べてはみるが、参考になることは出てこないだろうな」

 そう言った中年男はケイと呼ばれている。フォーカードのリーダーで二十世紀の警察映画に出てきそうな類の男だ。もともとキングと呼ばれていたがレオに憚ってかいつの間にか頭文字の「K」だけになっていた。

 レオは誰が「王」と呼ばれていても気にはとめなかったのだが、街の人間でレオを支持する人々が許さなかったのだろう。事実勝手に自警団を名乗っている彼らを目障りだと言うものもいる。ただ、レオたちには好意的であり、また出しゃばったマネをして治安を乱すわけでもなかったから、レオは放っておいても問題ないだろうと判断した。リーダーが存在を認めているからこそ、街の人間もしぶしぶ納得しているようだ。

 もっともレオたちが長い月日をかけて作り上げたルールを壊すような事があればもちろん容赦はしない。今のところはお互いに協力関係にあるというところだ。

 今のように事件が起こっている間は特に。

「俺の店でも一応は聞いてみる」

「頼んだ。お前んとこのガキも気をつけさせろよ。どう見たってありゃ対象範囲だ」

「ラギの事を言ってるのか? 心配ない。あいつは簡単にやられるタマじゃねぇよ」

「その割に始終側に置いてる気がするが?」

「……うるせぇ」

 簡単にやられないと言ったのは事実。出来る限りレオかアヌルを側に置いているのもまた事実だ。ラギは実年齢ではおそらく対象範囲を超えている。しかし外見はまだ幼く、十代半ばそこそこにしか見えない。おそらく夜中一人で出歩いていれば犯人に狙われることもあるだろう。そして昼も狙われる可能性がある以上は一人で出歩かせたくはなかった。

 護身のためというには凶暴すぎる武術を教え込んであるから、身を守る術の無かった他の子供に比べ安全だろう。拳銃を向けられた時の対処も教えている。

 からかうように笑っていたケイは不意に真顔に戻る。死体の側にしゃがんで銃創を凝視しながら同じようにしゃがんでいるレオに問う。

「なぁ、あんたガキを殺れるか?」

 レオは彼を見返す。

「倫理的にか? それとも技術的に?」

「両方だ」

 表情を変えぬまま淡々と答える。

「答えはYESだ」

「両方?」

「ああ」

 ケイは伺うようにレオの目を見た。凶器か狂気を秘めたような瞳だったが嘘を言っている様子はない。

 実際彼が言った言葉に嘘はない。その辺りを歩いている生意気な子供を手当たり次第に殺すような趣味はないが、自分に牙を向けた子供には容赦をしないだろう。直ぐに殺すようなことはしなくても銃口を向けることにためらいはない。技術面でも然り。銃弾の届く範囲、スコープで対象の見える範囲であれば対象物が例え小さな空き缶であろうと命中させる自信はある。標的が動くものであっても至近距離で急所を外さないのはたやすいだろう。

「ライフルを使えば相当先からでも一撃でやれる。アヌルの奴だって、顔色一つ変えねぇよ」

「否定して欲しいところだったんだがな」

「事実は事実だ」

 やや諦めたように男は笑う。

「そう言うお前はどうだ?」

「わからんよ。やってみなければな」

「お前には出来ない」

「技術的に?」

「いや、精神的にだ」

「俺はそんなにお人好しじゃないが」

「そう言う問題じゃない。お前は人を殺したことがない。そんな奴に一撃で人を殺すなんてマネはできねぇって言ってるんだ」

 何か言いかけてケイは押し黙る。

 レオは続ける。

「技術に関して言うのなら性能の良い拳銃さえあれば誰でも可能だ。むろん射撃をプログラムされたロボットも同じ事だ」

「つまり、精神のいかれた奴や機械なら全員が容疑者って訳か。この街の半分は容疑者だな」

 めまいがする、と彼は天を仰いだ。

 怪しくなくても端から当たっていくローラー作戦はこの街では使えない。人口が何人か、どこに誰が住んでいるかが殆ど把握できていない街だ。その上、隠し通路や地下スペースなど、人が隠れられる場所が山ほどあるのだ。端から当たろうとも当たるに当たれない。

 それに、犯人はこの街の人間とは限らない。

(だが……)

 レオは小さく呟く。

「俺の街でこれ以上好き勝手はさせねぇよ」



 半月振りに‘フラワー’が殺した子供が発見されたその日、彼らは「SADIE」を訪れた。時刻は夕刻。酒場にバラバラとガラの悪い連中が集まり始めた頃だった。



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