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男爵は微笑う  作者: L→R
再会
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再会◆0

◆ ◆ ◆


 辺りはしんと鎮まり返り、足音だけが、甲高い音を響かせている。

 何度も歩いた目的の部屋までの道則は、目を瞑っても歩けるほどに熟知している。考え事をしながら、あっという間に辿り着いた部屋のドアを、二度、ノックする。

 中から返事が聞こえ、名乗らずにドアを開けると、中に居た者()がこちらを向いて、笑っていた。

「こんにちは。」

 すっかり馴染みになってしまった感覚で、挨拶をされた。し返すと、彼は一層笑った。

 狭く、薄暗い部屋の中には、中央に小さな机と二脚の椅子が向かい合って置いてある以外、何もない。壁はコンクリート剥き出しのままで、換気空調以外入れていないにも拘らず、真夏だというのにひんやりと寒い。

 彼に座るよう言うと、素直に従った。背筋を綺麗に伸ばし、無理のない姿勢でありながら、形よく座るその様は、丸で座り方のお手本のようだった。行儀云々を超え、明らかにその恵まれた容姿あっての見栄えだ。そんな彼が、何故ここにいるのだろう。

 理由は知っているが、もっと根本的なところで疑問を持つ。

 だが、無用なやり取りは禁じられている。

 大まかに、とある人物から預かった彼への伝言を告げると、彼はそれまで浮かべていた笑顔の質を変え、笑い直した。

「この国にいるんですか?」

 頷いてそうだと答えると、彼はほんの一瞬、伏し目がちに切ない表情を見せた。

「そうですか。」

 溜め息とともにそんな言葉を吐き出し、ふと壁を見る。そして、一言、

「会いたいな。」

と呟いた。

 無理な相談だが、それを敢えて口に出さずとも、彼はよくよく理解をしている。

「それで…、私は何をすれば?」

 状況すら把握している彼に促され、とある人物から預かっているもう一つの伝言を告げる。

 すると、今度は一転、彼はにやりと口端を上げ、邪悪に哂った。

「それをお望みなんですか? ”彼”が。」

 ”彼”が望んでいる訳ではない。

 だから違うと答えると、彼はつまらなさそうに「ふーん」と言って、少し考え込む素振りを見せ、「じゃあ、誰が?」と問うて来た。

 質問はルール違反ではないが、明確に返答をすると支障を来たす恐れがあるので、肩を竦めるだけにした。

「まぁ、いいです。

 それで、”彼”には会えるんですかね?」

 手配はしている旨を短く答える。彼とは、それについて、約束は出来ないが、尽力はするという約束がある。

「それはどうも。」

 何とも曖昧な回答に対し、彼も曖昧に返答した。こちらの心中は、ほとんど見抜いているだろう。

「とりあえず、依頼はお受けしますよ。約束もありますし。」

 そういうと、彼は立ち上がって、こちらを見てニヤリと嗤った。

 背はこちらより少し高い。丹精な顔立ちで、綺麗なグリーンの瞳をしている。うっすら茶の濁りが見えるが、照明の加減だろうか。その瞳も、瞬く長い睫毛に隠れて見えなくなった。

 瞳を凝視されるのを、嫌っているのだろうか。

 思わず勘繰ると、無意識に見透かそうとしたこちらの視線に対し、彼は強引に視線を交わらせ、今までにない凶暴な微笑を浮かべて言った。

「余り、覗き見しないで下さいね。

 『ラレーブ、エール、アター』…。」

 その言葉に、思わず身震いをする。

 言葉の意味は明らかな脅しであるが、それは『脅し』という言葉単体が与えて来る印象より遥かに強いものだったからだ。

 ”彼”と対峙する時は、用心が必要だ。

 改めて、肝に銘じ、別れた。


『あなたの心は、神の意のままですよ。』


◆ ◆ ◆

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