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地味な青年の異世界転生記  作者: 鵜 一文字
外伝 ラキシスとシーリアの出会い
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外伝 三話 アルカイン山脈




 翌日、私達は登山用の道具を持ち、獣人族の案内に従って雪山を登り始めた。


 幸い天気は良いため、寒さはまだましと言ったところか。

 雪が日を反射するため、じっとりと汗を掻きそうなくらいである。


 子供のシーリアはゼムドが背負っている。彼の分の荷物はその代わり、他の冒険者が分担して持つことに決まっていた。



「シーリア。これをあげましょう」

「なになにー」

「お守り。ちゃんと首に掛けておくのよ?」

「だから、ラキシス殿……」



 困惑するゼムドを無視し、彼に背負ってもらっているシーリアの首に、紐の付いた袋を掛けてあげる。昨日の夜に作った、私特製、必殺のお守りである。我ながらいい出来の一品だ。



「ラキシスさん、先程のものは?」



 今回の護衛の依頼は私とゼムドの他にも三人の冒険者が依頼を受けていた。

 声を掛けてきたのはそのうちの一人、中年くらいの年頃の男の剣士だ。


 名前は確か……セインとか言ったか。

 茶色の髪の少し神経質そうな顔付き。腕は見た感じそれなりには使えそう。


 顔で性格を判断しては失礼かな……と思う。

 だが、シーリアを空気のように無視している辺り、面白みはなさそうだと私は判断していた。私への質問も何だか咎めているような雰囲気がある。


 護衛対象と交流を持つなと暗に言っているのかもしれない。



「雪除けのお守りよ。自分のために買ったのだけれど、彼女が使う方がいいでしょう」

「そうですか」



 余計なことをするなと言わんばかりの彼に内心で舌を出す。

 彼の相棒らしいもう一人の……こちらは若い剣士、グランも似たような雰囲気を持っている。


 今回の依頼は疲れそうだな……と、私は思っていた。

 冒険者というのは底抜けに明るい者が多くて結構楽しかったりするのだけれど、今回は無口で愛想のない冒険者ばかりだ。


 残り一人は冒険者らしい冒険者なのが救いか。



「ま、まぁ、いいじゃないか。今回は仲間なんだし仲良くやろうぜ。『氷の魔女』の実力が見れるなんて俺はついてるぜ」



 険悪なムードの私達を仲裁するように、残る一人、くすんだ金髪の痩せぎすな体格の魔法剣士のジェイドが間に入って作り笑いしていた。


 私自身は彼等に剣士だと紹介している。

 エルフだしカイラルでは名が通っている気がするから、ばれてはいるだろうが、彼等に手の内を晒す必要はない。何故なら信用をしていないから。



「行こう」



 ドワーフのゼムドが獣人族の案内人に出発を告げる。

 無口な案内の獣人は頷き、目的地に向けて歩き始めた。



 アルカイン山脈は緩やかな傾斜の、標高は雲には届かないがそれなりの高さを持つ山である。麓はなだらかで歩きやすいが頂上に近付くに従って、岩が転がり、地形も複雑になっていく。案内人無しでの登山はかなり難しいだろう。


 私にとって登山は大きな問題ではない。

 もっと危険な山にも私は登ったことがあるからだ。雪山だけではなく、あちこちでマグマが吹き出しているような……何故か実体化した下級精霊、サラマンダーがうようよしている火山とか。


 冬の山は天候が変わりやすいので、油断は出来ないが……。


 日が暮れる前に、早めに風を防いでくれる木々の生えた場所にテントを張っていく。雪崩も今いる場所なら大丈夫だろうと思う。


 幸い、夜まで天候は変わることはなかった。運がいい。



 私は自分の準備を終えると、ゼムドからシーリアを預かる。彼女を背負ったまま作業するのは大変だろうから。

 彼の代わりにシーリアを背負った私に、彼は頭を下げた。



「ラキシス殿。すまぬな」

「構わないわ」



 そして、黙々と作業している彼に近付き、小声で声を掛ける。



「後で話があるわ。他の三人には聞かれたくないわね」

「む……なんじゃ?」

「後でテントに行くから」



 それだけ告げると、私はシーリアをゆっくりと地面に下ろして彼女に笑いかける。

 シーリアは少しだけ眠たそうにしていたが、にへらーと笑った。



「頑張ったわね。疲れたでしょう」

「だいじょぶ! じぃじてつだう~」

「もう出来上がるから、向こうで私のお手伝いをしてもらえるかしら?」

「うん! おねえちゃんてつだう!」



 偉い偉いと頭を撫でると、シーリアは小さな尻尾をぶんぶん振っていた。

 何故かそんな私を見ながら金髪の魔法剣士、ジェイドが変な顔をしている。



「……何か?」

「あ、いや、似合わ……や、あ……えっと……なんでもないっす……」



 しどろもどろになって何故か逃げていった彼は放置し、私はシーリアと一緒に食事を用意するために、自分のテントに向かって歩き始めた。



 食事を終え、皆がそれぞれのテントで眠ったことを確認すると、私は毛布を持ってゼムドのテントへと向かった。彼のテントではシーリアが疲れたのか、小さな寝息を立てている。



「さて、何かの……ラキシス殿」

「悪いわね。聞き忘れたことがあって」



 ゼムドは私を疑うように手元に武器を置いて、髭を撫でている。

 近くに彼女がいる以上、用心をしているのだろうけれど。私は気にせず、寒さを少しでも和らげるために毛布を羽織る。テントがあっても寒いものは寒い。


 地面には毛布を引いているのだが、それでも冷たさを感じるし。

 まあ、それはいい。今、重要なのはゼムドから情報を引き出すことだ。



「貴方はシーリアがやろうとしている儀式を知っているの?」

「知らぬ。だが、行けば彼女が判ると聞いている」



 私はゼムドの表情から真偽を読み取ろうとして……ふぅ……と溜息を吐いた。

 ドワーフの表情の読み方など、私にはわからなかった。


 とりあえず、なかったことにして会話を続ける。



「貴方とシーリアは旧知のようだけれど、知り合いなの?」

「ああ。死んだ友人の娘じゃよ。それが何かあるのかの?」



 シーリアの懐き様を見ている限り、事実に違いない。

 彼もまた、彼女を可愛がっているように思えた。だが……。



「アルカイン山脈の伝説は知ってる?」

「上位精霊が封印されているとかかの? おとぎ話じゃろう」



 ゼムドは質問の意図がわからないらしく、眉をひそめている。

 冒険者は行き当たりばったりの者が多いが彼もそうなのかもしれない。



「……カイラルで依頼を受けたのではないの?」

「いや、拙僧は村長から直接じゃよ。まぁ、元々は別の者が派遣されるはずだったのを、友人の忘れ形見ということで拙僧が無理矢理変わってもらったんじゃが……お主も異種族なら聞いたことがあるのではないかの? 拙僧達は助け合っておるでな」

「なるほどね。依頼料も貴方達が?」

「半分だけの。後は村が出しておるんじゃないか?」



 彼の説明を聞き、頭が痛くなった私は眉間を指で抑えた。

 恐らく本来行くはずだった者は儀式の理由を知っていたのではないだろうか。お金を支払うということは、支払う意味があるということだ。

 出資者としてはゼムドはイレギュラーなのかもしれない。



「本当に馬鹿ね。ドワーフは頭まで筋肉が詰まっているの?」

「なんじゃとっ!」



 素直な気持ちを言葉にした私に、何故かゼムドは激昂して立ち上がった。

 だが、そんな彼を小さな声が引き止める。



「じぃじー、おねえちゃん! けんかだめ!」

「む……起こしてしもうたか。すまぬ」

「ごめんなさい」



 シーリアはいつの間にか目を覚まし、寝袋にくるまって転がって移動し、私とゼムドの間に割って入っていた。そんな彼女を私は自分の方に引き寄せて、膝枕をする。



「ゼムド、貴方はディッシュとレティという人は知っているかしら?」

「……シーリアの父親と母親じゃ。何故知っておる」

「ぱぱとまま?」



 うさんくさげにゼムドは私を見る。どうやら彼は本当に知らないらしい。



「二人が亡くなったのは誰から聞いたの?」

「村長からじゃ。事故と言っておった」

「迷宮で亡くなるのは事故と言えるのかしらね」



 私はシーリアの頭をなるべく優しく撫でながら、驚いているゼムドを見て苦笑した。



「ゼムドのお陰で確信したわ。本当にこそこそと面倒ね」

「……何が起こっているのかの?」

「ろくでもないことよ。貴方は何も知らなくていい。いえ、知らないことにしておいた方がいいわね。シーリアを守っていればいい。後は私がやる。簡単でしょう?」

「ふむ、それは簡単じゃの」



 ゼムドは眠たそうにしているシーリアに優しい表情を向け、いかつい顔を綻ばせた。



「おねえちゃん……ぱぱとままをしっているの?」

「ええ。優しくて私の次に強い、立派な人達だったのよ?」



 冗談めかして私は彼女に笑いかける。



「ぱぱとままに頼まれたの。シーリアを守って欲しいって」

「ぱぱもままも……もうあえないって……」

「そうね。でも村のみんながいるわ」



 泣きそうなシーリアに何を言っていいのかわからず、諭すように彼女に語りかける。だが、彼女はうーっと唸り声を上げながら泣き、顔を私の膝に何度も擦り付けた。



「そんちょきらい。みんなきらい。じぃじとおねえちゃんのほうがいい」

「なるほど……ね」



 困ったような顔をしているゼムドを私は見る。彼もどうやら困惑しているようだ。


 さて、どうしたものだろうか……私はいつの間にか太腿に頭を乗せて眠ってしまったシーリアを見つめながら、頭を悩ませていた。





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