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地味な青年の異世界転生記  作者: 鵜 一文字
外伝 ラキシスとシーリアの出会い
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外伝 プロローグ マリアとシーリア



 懐かしいと感じるほど長い期間、城塞都市カイラルに滞在していたわけでは無かったが、私は久しぶりになるクルト村で、ゆっくりと身体を休めていた。


 今日はケイトとシーリアはジンおじさんの家で暮らしているケイトの姐、エリーの所に挨拶に行っている。

 私が家に来る前に出掛けてしまっていたのは、最近、無駄に明るくなったあの狼女が無理矢理引っ張っていったに違いない。


 私もケイト達を追いかけようと思ったのだが、マリアに捕まってしまった。彼女は私からカイラルでの冒険の話を聞きたかったようだ。


 私は私が来てからのカイラルでの話を包み隠さずマリアに話した。



「ケイトは自爆したってところは言わなかったわね」

「あれは危なかった。ただ、そうでもしないと難しかったのも事実」

「『呪い付き』か……よく勝ったわね」



 私は果実水を、マリアは私にこっそり頼んでいた酒を飲みながら、感心したように息を吐いた。彼女も冒険者時代に『呪い付き』とはよく戦ったらしい。

 その恐ろしさは身をもって知っているのだと思う。


 だけど……と、目を細めたマリアは木のコップをテーブルに置き、困ったような表情をしながら指で弾く。



「何であの子はラキシスをあんなに尊敬出来るのかしら。昔からだけど……」

「どういうこと?」



 意味がわからず私は首を傾げる。ラキシスは確かに気に入らないけど、ケイトの頼みを聞き、サイラルの所属している組織を完全にカイラルから叩き出している。

 直接対決でも私達を助けてくれていた……私としても流石に認めざるを得ない。


 疑問を投げかけた私を見て、マリアはしばらく悩んだ風だったけれど、クルスならいいか……と、苦笑してテーブルに肘を付きながら懐かしそうに話し始めた。



「ラキシスは確かに身内には優しいし、優秀よ。強力な精霊使いで魔法使い。剣技もそれなりに使える。頭の回転も早いわ。だけどね……」

「だけど?」

「長所と同じくらい短所も満載の子なのよ。あの子は『氷の魔女』と呼ばれているみたいだけれど、他にも異名があるの。本人は知らないだろうけど」



 くすくすとマリアは笑う。彼女はラキシスを嫌っているわけではないようだ。

 ケイトの兄、カイルがケイトに向けていたような……仕方がない奴……といったところなのだろうか。駄目な妹を見る感じ……かな?



「『歩く天災』、『衛視泣かせ』、『永遠の反抗期』、『暴発エルフ』、『半殺しマイスター』とまあ、私が現役時代に聞いたのだけでこれくらいね。教育を間違えた私の責任も大きいのだけれど」

「……見た目からは想像できない」



 マリアが並べた凶悪そうな二つ名に眉をひそめる。彼女は頷き、溜息を吐く。



「そうなのよ。一見、優雅で気品がありそうに見えるから厄介なの。きっと親御さんの躾がよかったのね。お陰で馬鹿な男に何度絡まれたか」

「なるほど」



 衛視泣かせや半殺し云々は、その辺りかもしれない。だけど、他の異名はよくわからない。暴発とか天災は……流石に……。



「ラキシスはどんなことをやって天災とか呼ばれるようになったの?」

「そうね。あの子は……うーん、難しいわね。そう、理想の冒険者像があるの」

「理想の冒険者?」

「ええ。何の本を読んだのかわからないけれど、颯爽と現れて圧倒的な力で問題を解決し、格好良く去っていく……そんな感じかしら?」



 マリアが人差し指をさまよわせながら言葉を探しつつ、説明してくれる。彼女には理解できなかったのかもしれない。私も意味がわからないけれど。



「なまじそれが出来る強さがあったのが迷惑だったわ。私が彼女と組み始めた理由は、私の宿敵から逃げなさそうな性格だったからだけど……一ヶ月後には後悔してたわね」

「なんで?」

「危険な仕事ほど喜んで引き受ける奴だったからよ。到底無理そうなものでも」



 その時の冒険の数々を思い出しているのか、マリアは微笑んでいた。

 そんな無茶があったからこそ、ラキシスやマリアの圧倒的な強さがあるのかもしれない。



「まあ、エルフの森は彼女には退屈だったでしょうね。本当に冒険しているときのラキシスは生き生きしていたし。ただ、勤勉というわけでもなかったけれど」

「そういえば、よく昼まで寝てた」



 ケイトは疲れが出たとか好意的に解釈することが多かったけれど、あれは絶対ただの寝坊。シーリアも起こさないからぐーたらしているんだと私は思う。



「独特のなんというかな。エルフ時間……みたいなのがあるのかもしれないわね。何度も起きない彼女を無理矢理着替えさせて、背負って歩いたわ。何度叱ったか」

「それで、帰ってきたとき……信じられないって」



 マリアは首を横に振った。どうやら違うらしい。



「そんなのは些細な欠点よ」

「じゃあ他に?」



 些細なんだ……と、私は苦笑した。マリアも大概、普通じゃないと思う。



「私が冒険者を引退してからも、国が運営している冒険者のギルドから、彼女が起こした問題の相談はよく来ていたわ。シーリアのことには国は関わっていないけれど……」

「ラキシスが原因?」

「ま、そんなところね。彼女は悪くはないけれど後処理は最悪だったわ」



 苦々しい顔でマリアはそう言って、シーリアが来た時の様子を話し始めた。





 日も暮れ、夕食を食べた私たちは食後の団欒を楽しんでいた。


 長男のトマスと次男のカイルがどたどたと暴れ廻り、エリーはまだ一歳のケイトの面倒を見てくれている。私は最愛の旦那と今年の作物の様子について話したりしながら、ゆっくりと過ごしていた。


 冒険者の時代と違い、慌てることは何もない。

 剣を教えてくれとしつこかった二人も今では一人前の冒険者となり、村からは離れて頑張っている。剣を掴むこともない……そんな緩やかな生活。


 目的も果たしたし決して後悔はしていない。

 最近はラキシスも丸くなったのか問題を引き起こすことも少なくなったし、静かなものだと思う。息子達や娘の成長を楽しみに生きていくのは悪くない。


 私はそんな風に考えていた……が、その静けさは一瞬で打ち砕かれてしまう。扉を叩く、大きなノックで。私は立ち上がると玄関へと向い、扉を開ける。



「夜分にすまん! ここはマリア殿の家で間違いないかの?」

「私がマリアだけれど……何か?」



 扉を開けると立っていたのは一人のドワーフだった。背が低く、多くは長く髭を伸ばしており、力が強い。義理堅い種族だとも言われている。


 重そうな鎧を着込んだドワーフを見て私は直感的に理解した。絶対にラキシスが厄介事を運んできたのだと。


 それを証明するように、彼が引いている荷車には可愛らしい狼の耳、尻尾が生えた白い少女が乗っていた。



「じいじ。ついた? ついた?」



 幼いその少女は私に気付くと荷車からドワーフの頭に飛び乗り、好奇心に溢れる目でこちらを見る。何と無くうちに来た理由は理解できていたが、私は頭に白い獣人族の少女を載せたドワーフに理由を聞いてみた。



「ラキシス殿から……拙僧は頼まれての。この子、シーリアはマリア殿がきっと立派に育ててくれる。彼女のところにいるのがシーリアの幸せだからと」

「……ラキシスは?」



 眉間を抑えながら、私は彼に問い掛ける。少し頭が痛い。

 ドワーフは辛そうに顔を伏せた。



「氷の上位精霊『イルファータ』を解放するときに雪崩に巻き込まれ……命を助けられた拙僧達は彼女の遺志を果たすことにしたのじゃ」

「死んだと?」

「流石にあの雪崩で助かるわけが……」



 ドワーフの沈痛の表情を見て、私の頭はさらに痛んだ。

 それくらいで死ぬならラキシスは数十回死んでいると。自然の扱いは彼女が最も得意としているところだし、雪崩の対処も間違いなく考えているだろう。


 そういう冒険者としての強さの意味では彼女を信頼している。



「事情はわかったわ。この子はしばらくうちで預かりましょう」

「おおっ! ありがたい……感謝する!」



 嬉しそうに笑うドワーフを見ながら、私はシーリアをどうしようか真剣に悩んでいた。

 とりあえず、本人にも聞いてみようとドワーフの頭からシーリアを引きはがし、両手で抱えて目線を合わせる。



「シーリアちゃん。ラキシスは……何か言ってた?」

「んー? かぞくっ! ほこりたかく、ゆうがでーえっと、さいきょー!」



 無邪気な笑顔で自信たっぷりに言った彼女の答えに、思わず乾いた笑いが出てしまう。

 これは詳しく聞く必要があるかもしれない。



「ドワーフさん。今日はもう遅いので泊まってください。貴方に詳しい事情を聞かなくてはなりませんし」

「む? わかった。拙僧が話せることであれば話そう」



 こうして、シーリアは私の家にしばらく泊まることになった。

 そしてこの夜、ドワーフから話を聞いた私は久しぶりに本気で怒ることになる。





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