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第二十八話 主人公になれない者




 夜、俺はラキシスさんから明かりを借り、自分の部屋で故郷から持ち込んだ弓の調子を確かめていた。手元は見えにくいがピィィン……と弦を弾いて張り具合を確認し、正確に調整していく。


 村を出てから数ヶ月弄っていなかったため、弓の使い方の勘を忘れ、弦は緩んでしまっていた。それでも弓を触っているうちに、動物を狩っていた頃を徐々に思い出していく。


 弓の調整を終えると俺は立ち上がり、ゆっくりと矢をつがえずに構えて弦を強く引いた。


 大丈夫そうだ……。


 確認して弓を置く。明日はおそらくこの弓を使うことになる。

 動物ではなく、人を射るために。


 ふぅ、と息を吐く。昔のゴブリンの時ほどの緊張がないのは何故だろうか。

 慣れてしまったからか……それとも、現実感がないのか。


 矢の本数の確認も終えたとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。この叩き方はクルスだろう。俺はそのまま中に入るように促す。



「弓……使うの?」

「相手が近づいたら弓を使いやすい場所に誘導して容赦なく撃つ」

「撃てるの?」



 クルスは部屋の中に入ると、ベッドの上に腰を降ろした。俺は弓を置くと、椅子を彼女の対面に移動させ、座って彼女と向き合う。

 彼女は部屋に入る前に髪を拭いていたらしく、顔にかかる乾き切っていない長い髪を鬱陶しそうに背中の方にどけながらクルスは俺の反応を伺っていた。

 彼女の言葉は疑問……というよりは確認に近い。



「撃つよ。俺も前とは違う」

「本当……かな。それならケイトは何に迷ってるの?」



 本当に隠せないなぁと苦笑いする。それを見たクルスが早く話せといった風に足をバタバタ動かして微笑む。



「今回、サイラルに位置がばれた原因はゼムドの可能性が高い。八割くらいかな」

「後の二割は?」

「俺の能力の有効範囲よりサイラルの能力の有効範囲が広く、俺達を常に追跡できるほど使いこなしている可能性」



 どちらの可能性が高いのかと考えるとやはり前者だ。

 知っているのか知らずに利用されているのかはわからないが……恐らくヘインが俺に渡した物と同じ物を使っているのだろう。


 後者である場合、サイラルの能力は俺を遥かに上回っている可能性が高い。

 俺よりも広い範囲を、特定するだけの精度を持って探し当てることができるのだ。結界という能力も俺のものより汎用性がありそうだし、かなり手強くなるだろう。


 だが、サイラルの見た目の年齢と今のレベルを考えると、そこまで奴の能力は便利とは思えないのだ。転生前の知識がもしあるならば、レベルを上げることが強さに、少なくとも身体能力に関しては関係していることにすぐに気がつくはず。


 能力が強力なら、もっと上げている方が自然な気がするのだ。

 だが、迷っている理由は後者ではない。前者についてだ。



「サイラルを撃つことは出来る。だけど、ゼムドがもし敵になったら……」

「私はあのドワーフが外道に与するとは思えない」



 クルスもこの三週間でゼムドの性格も掴んできているのだろう。

 明るく実直で卑怯なことを嫌う誠実なドワーフ……だが、彼は理想を実現しようとしている組織と板挟みになったとき、果たしてどんな選択を取るのか。

 俺にはその彼の理想への想いの重さを推し量ることが出来ない。



「俺もそうあって欲しい。いや、今日までそう思ってた。自信がないんだ」

「信じられないの?」



 失望させただろうか……と思う。仲間を信じきれない俺に。


 物語の主人公なら当たり前のように信じて、進んでいくのだろう。

 だけど自分はこうだ。自分だけではなく、クルス、マイス、シーリア、そしてラキシスさんの命まで賭かっている今の状況に怯えている。ただでさえ、俺は既に失敗しているのだ。


 だが、彼女は不敵に笑っていた。



「ケイト。心配は要らない。失敗しても私とマイスが助ける。信じるように選んでくれればそれでいい」

「失望させたと思ったんだけど」

「完璧だと困る。安心した。後、私はどんなことがあっても味方」



 そう言って、クルスは微笑んでいた。俺も少しだけ心が楽になる。今日ここに来たのも元気づけるためなのかもしれない。



「ありがとう。だけど、もしゼムドが敵に回ったら……ラキシスさんに任せるんだ」

「どうして?」

「クルスは今レベルが8、ゼムドは……ガイさんより高い21だ。技術はクルスが上だけど、身体能力は比較できないくらい違う。いつもはあれで手を抜いている」



 クルスは頷く。俺も恐らく勝てない。マイスも力負けしてしまう。勝ち目があるのはラキシスさんだけだ。俺達の仕事は彼女が力を発揮できる状況を作ること。

 ゼムドが俺達に協力してくれるなら一番良いのだけれど。



 それより気になるのがクルスの能力だ。さっき久しぶりに確認したが、一般の技術の欄にある『狂化』ってなんだろうか。見るからにやばそうな名前なんだが。


 俺だけが『呪い付き』として目立っているが、クルスも『呪い付き』だ。

 彼女の特殊能力は自覚の出にくい能力だから誰も気付いていないだろうが……出来ればこのまま誰にも知られたくはない。


 彼女に昔の知識が残っているのかは気になるが、昔の会話を思い出すと残っていない可能性が高い気はする。



「ケイト……どうしたの?」

「隠し事はしない。だったな」



 今、この狭い部屋には二人しかいないのだ。

 念のため盗み聞かれていないか能力を使って確認する。



「クルス。多分クルスも俺と同じ……『呪い付き』だ」

「……そうなんだ」

「うーん、全然動揺してないね」



 なんで今頃といった感じに首をかしげた後、こくりとクルスは頷く。



「多分そうと思ってたし。夢の中のもう一人の私が不思議な力持ってた」

「昔、言ってた夢?」

「そう。でも、ケイトとは少し違う感じだからどうなのかな」



 『呪い付き』としてのあり方も人によって違うということか。子供の頃のクルスは俺から文字を学んでいるときも、知っているのを隠している感じではなかったし。



「生まれる前の知識とかは無い……ということかな」

「そんな便利なのあれば、勉強苦労しなかった。頑張ったんだから」



 少し拗ねた感じでクルスは横を向く。子供っぽい仕草に俺は笑った。彼女は彼女だ。

 俺にとってはそれでいい。


 俺は安心して椅子の背もたれにもたれ掛かり……こけそうになって慌てて身体を前に戻した。



「もう隠し事はない……全部話した。これでいい?」

「よろしい」



 くすくすと笑いながらクルスが立ち上がり、扉から出ようとして振り返る。



「あ、ケイト。今日は一緒に寝ていい?」

「良くない。さっさと寝ろ!」



 明らかにからかっている口調と顔だったので、怒鳴るように言い返す。年を追う事に彼女は手強くなっている気がする。

 クルスはふふっ……とおかしそうに笑うと、



「自分のとマイスの弓の調整もしないといけないし、今日は我慢する。おやすみ」



と、そう言い残して去っていった。


 俺ははぁ……と一つため息をつくと、机に置いていたサイラルの能力の仮説が書かれた書類を掴み、ベッドに横になった。


 決着をつける日は近い……本当に俺達を放置して逃げてくれればどれだけいいか……そんな風に思いながら俺は遅くまで書類を読み耽っていた。






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