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第二十二話 個人の力、社会の力




 雑談をしばらく続けていると、金色の髪を後ろでくるくると巻いた女性がヘインを迎えに来た。確か前に会ったユーニティアという名の貴族だろう。

 学院に用事があるらしいシーリアも彼等と一緒に行ってしまったため、特にやることが無くなってしまった。家に戻るのも何なのでクルスに何処か行きたい場所があるかを確認すると、



「西側の職人街を歩いてみたい」



と、少し考えてから答えたため、俺達は街の西側を見てまわることにした。クルスも来たばかりで、色々と興味があるらしい。時間があれば商人達の集まる北側も回って見ようと思う。


 ただ、現状はやはり人通りの少ない場所は行きにくい。その辺りは不便だ。改めて自分を狙う連中に文句の一つも言いたくなる。

 学院関係の施設が立ち並ぶ内壁の中の西側を歩きながら、クルスは俺の隣を歩いている。二人だけでこうして並んで歩くのも思えば久しぶりだ。

 半年くらいしか経っていないのに随分前のことのように感じる。



「ケイト。ヘインに何を頼んだの?」

「え、あの時の話の通りだけど」

「なんだか難しくて意味が全然わからなかった。みんなわかってるのにずるい」



 突然のクルスの問いに一瞬どういうことか判らずに立ち止まってクルスの顔を見る。少し考えて……ああ、と、理解する。クルスは前に会った時の会話を知らないのを忘れていた。

 どう説明すればわかってもらえるかを考えながら言葉を選ぶ。



「ヘインが俺に会う前に異種族や呪い付きに関わる事件に巻き込まれてたんだよね」

「うん、それは聞いてた」



 わかりやすい場所から説明する。これはヘインが話していた通りだ。



「あいつはどうやったかわからないけど、事件解決寸前まで動いていた」

「でも、失敗した」



 失敗というのはどうだろう。ヘインが……まあ自分から動くタイプではないから、多分成り行きだったんだろうが……動いたからこそ事件は減った可能性はある。



「まあ、それは一旦置いておいて、ヘインは貴族から仕事を受けてるんだ」

「仕事?」

「そう、薬に関する仕事。さっきヘインを呼びに来た女性の父親から」



 背が低くて同世代くらいの幼い感じの女性……迫力があるのは人の上に立つための教育を受けているからなんだろうか。



「さて、ヘインは自分とその女性が巻き込まれたと言ったよね?」

「待って…………うん、言ってた」

「にも関わらず彼女はヘインと仲がいい。ということはヘインは信頼されてるんだ」



 クルスがそれに何の関係が? と言いたげに首を傾げる。この辺りは村での生活しかしていないクルスには……ちょっとわからないのかもしれない。

 人間関係の恐ろしさというか、権力の恐ろしさというか、その辺りの重要さは。



「例えばさ。クルスのお母さんが意味無く殴られたとしよう。どうする?」

「……半殺し」

「貴族さんもそう思うと思わないかい?」



 クルスが上目遣いで俺を見て、こくりと頷く。理解してくれているようだ。

 なんだか、幼い頃に二人で勉強していた時を思い出す。



「だとすれば、ヘインを通じて協力することも出来るかもしれないよね」

「うん。同じ目的がある……ということ?」



 自信なさげに答えるクルスに正解。と俺は頷く。

 村で育ち、知識に関しては俺から殆どを学んでいるクルスは身分関係については疎い。

 自分ではわかっているけど、この世界では……貴族とそれ以外の身分というものに関してはよく学んでおかなければならない必須の知識だったかもしれない。今となっては後の祭りだが。

 今話しておいて損はないだろう。



「クルスも冒険者になるなら覚えておいた方がいいけど、貴族っていうのは強いんだ」

「……戦いに強いの?」



 俺は首を横に振る。素朴な答えで俺は好きだけど……今の調子で貴族に失礼なことをしてしまうとまずい。彼女は誰であろうと喧嘩を売りかねない。



「貴族はたくさん知り合いがいるし、お金をいっぱい持ってる。人を雇うことも出来る。この街の有力な貴族なら街の役人を動かすこともできる」

「なるほど……あ……ま、大丈夫かな……何でもない」



 クルスは何かを思い出したらしく声を上げる……すでに何かやったのか?

 気になるけど……追求するべきかどうか。とりあえず話を進めよう。



「……続けていいかな? ヘインは賢い方だと思うけど十六歳だし、こういう難しい事件に手を出したときにはいろんな人の力を借りているはずなんだよ。彼だけじゃ無理なんだ」

「ケイトなら……いける?」



 期待のこもった目でクルスはこちらを見たが、俺は苦笑して首を横に振る。



「俺も無理だよ。一人で何でも出来る訳じゃないから」

「だから、ラキシスやヘインの力を借りて……そこからさらに色々な人に力を借りて行く……そういうこと?」



 あってる? と嬉しそうに見上げてくるクルスに俺は笑って頷いた。



「普通なら力を借りても隠れてる犯罪者の尻尾を掴むのは大変だけど……今回は俺が犯人を知っているからね。そこまで難しくないはず」

「……そんなやり方、全然思い付きもしなかった。戦えばそれでいいと思ってた」

「上手く行くかはわからないし、絶対正しいなんてことないし、それに……」



 そんなやり方を理解していても困る気がする。殴れば解決というのは女の子としてはどうだろうか。まあ、クルスはクルスだからそれもいいのかもしれない。

 それに俺のやり方も華がないというかなんというか……自分でもどうだろうとは思う。俺は苦笑いしながら言葉の先を続ける。



「自分の力ではないから……物語みたいに格好良くはないけどね」

「そんなことない。私もそういうのも覚えてく」

「出来れば俺に出来ること残して欲しいなぁ。クルスはただでさえ強いんだし」



 やれやれと頭を掻くと、クルスはくすくすと笑った。



 西の門を超えて外に出ると、南とはまた違った賑わいを見せている。

 南は食堂や酒場の呼び込みなどが多いが、こちらは職人が作った商品を売るために露店を出して声を上げていたり、学院の生徒らしき人間が占いを出していたり……祭りのような雰囲気というのだろうか。


 店も剣のマークの看板や杖のマークの看板、それぞれの家に特徴的な看板が掛かっている。この看板が掛かっているのはどれも商人や職人が作った物を売っている店だ。


 学院と提携した魔法のアクセサリーや道具を売っている店などもあり、南の一帯に負けないくらい色んな商人や冒険者、一般人で賑わっている。


 クルスはこういった物がたくさん売られている賑わいを楽しそうに見ながら、俺の手を引っ張って好奇心の赴くままに露店で売られている物をみたり、触らせてもらったりしていた。



「ケイト。次あれ。何だろう」

「わわ、人に当たるって!」

「急いで」



 世界が変わっても女の子はこういうのが好きなのかな……と、少しの心の痛みと一緒に懐かしさを感じながら、そんな風にちょっと思ったりもした。


 そうやって暫く一緒に見ていると、クルスはアクセサリーの所では長めに立ち止まることに気が付いた。そして、並べられているそれを真剣に見つめている。



「ケイト……」

「何?」

「何でもない」



 何かを言いたそうに口を閉じて黙り込む。本当は何か言いたいことがあるときの表情だ。彼女が何を言いたいのか考えるが……わからない。村にいるときなら殆どわかったのに。

 先ほどまでは楽しそうだったのに、何だか暗い顔をしてしょげている。



「もういい……」



 力無く、俺を置いてふらふらと歩いていこうとする。一人にするわけにはいかない。

 慌てて追いかけて隣に並ぶ……するとクルスは俺を上目遣いで見て、少しだけ辛そうに言った。



「ケイトはシーリアにも買った……あいつの方がいい?」

「は?」



 彼女の言葉の意味がわからずに思わず困惑する。どういう意味かと必死に考えようとして……横から別の人物から声を掛けられ、思考を強引に中断させられた。



「これは奇遇じゃの。二人とも、マイス殿は放っておいていいのか?」

「ゼムド……」



 気がつけば目の前に普段の鎧姿ではなく、神官用のローブだろうか……真っ白な裾の長い服を着た背の低い長い髭のドワーフが俺達の前に立っていた。





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