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外伝 エピローグ




 三日間の旅路は私が想像していたよりもずっと厳しかった。


 足は痛いし冬だから寒いし防寒具が重いし……でも、焚き火を囲んで食事をしながらお義父さんから冒険の話を聞くのは楽しかったし、星空は綺麗だったかも。


 それに村の中だけではわからないことが沢山ある。ただ、この刈り取られた麦畑の間に伸びている道を歩いただけでも……私にとっては目新しいものが多くて楽しかった。

 本当に狭い世界に生きていたんだと思う。


 新しいことを知るのは楽しい。

 子供の頃はケイトが色々と教えてくれたけど、今は自分から知ろうとしている。


 お義父さんはそんな風に観察しながら黙って歩いている私を心配そうに見ながら、



「クルス……足痛くないか? 大丈夫か?」

「心配しすぎ。大丈夫」



と、何度も何度も何度も……確認してきていた。

 確かに私は何日も連続で歩いたことはないけれど、普段厳しい訓練を受けてきた分、丈夫だと思っている。昔からそうだけど、心配性すぎる。私はもう子供じゃないのに。



 歩きながらケイト達はどうだったのかとかもお義父さんに聞いてみた。

 やっぱり初めはケイトもマイスも辛そうだったらしい。でもあいつらは……と、お義父さんは呆れまじりの溜息を吐いて教えてくれた。



「マイスは疲れてる癖に無駄に元気でうるさいわ騒ぎまくるわ……ケイトなんてメモに何か書いたり、歩きながら道端に生えてる薬草を採取してやがった。緊張感の欠片もないんだ。呆れるぜ」

「凄いね。私は珍しいのばかりで驚いてるだけなのに」



 やれやれお前もか……とお義父さんは苦笑して続ける。



「俺とジンなんて……案内してくれたマリアさんに強がって見せてたが、内心ビクビクしてたもんだ」

「……お義父さんが?」



 いつも堂々としていて……まあ、お母さんの前だとあれだけど……陽気で細かいこと気にしなさそうなお義父さんが? ジンおじさんもそんな緊張するような印象ないけど。



「まあ、あんときゃ若かったからな。見ず知らずの世界に飛び込もうってんだ。当たり前だろ。色んな出来事を乗り越えて、俺もあいつも強くなったんだ」

「そうなんだ……私も強くなる。お義父さんに負けないように」



 心配させないように言ったつもりだけど、お義父さんは複雑そうだった。

 少しだけ項垂れた後、困ったように笑って遠くを指さす。



「……あんま強くなるのも複雑な気分だがな……ほら、見えたぞ。この坂の下の遠くに見える街が城塞都市カイラルの一部だ」

「あれが一部……? 城塞都市……城壁は?」

「壁の中に収まらないくらい人がいるから、壁の外まで街が漏れてるんだよ」



 なるほど……と私は頷く。話で聞くのと実際みるのでは全然違う。

 私は足を止めて、目の前に広がる信じられない光景を呆然と見つめていた。


 村みたいに家の間隔は空いてないみたい。遠くから見ると家が視界一面に並んでいるように見える。どれくらいの人がいるんだろう。想像もつかない。

 これが……街……!



「すごい。こんなに人が……」

「ああ。いい奴も悪い奴も人間以外もたくさんいる。騙されるな」

「それと騙すな……だよね」



 お義父さんに微笑むとお義父さんはそうだ。と、笑って力強く頷いた。



 物を売る威勢のいい声や、楽器を引いたりといった喧騒溢れる夕暮れの通りを真っ直ぐに歩いていくと、やがて人が並んでいる巨大な門の前に辿り着いた。

 どうやら街に入るには兵士の確認が必要みたい。門の前では鎧を着た二人の兵士が並んでる人に確認を取っていた。お義父さんによると、この都市の治安を守る衛視という職の人らしい。



「次! ってまたお前か。最近多いな」

「ガイ・ライエル。二級冒険者だ。まあ今回で最後だ」



 お義父さんと知り合いらしい初老の兵士は呆れたように笑い、お義父さんも苦笑いしていた。知り合いなのは……毎回お義父さんが街に来る人を案内しているからかな。

 初老の兵士は皺のある顔に笑みを浮かべてこちらを見る。なんだか楽しそう。



「で、そっちのえらい別嬪のお嬢ちゃんは?」

「俺の娘だ」

「ほう……お前さんのなぁ……かっかっか! 似てなくてよかったなぁ」

「うるせえ!」



 初老の兵士は近くで立っている気難しそうな若い兵士の肩を叩く。

 彼は頷くとこちらへと歩いてきて……初老の兵士はこちらを向いて言った。



「わしは東門の衛視長のミハイルじゃ。よろしくな。ここでは、名前、出身、目的、荷物の確認、犯罪者の確認を行う。そこの若いのに言ってくれ」

「クルス・ライエル。クルト村から来た。冒険者になる」



 私は頷いて若い兵士に荷物を渡す。何故か初老の兵士も若い兵士も驚いているようだ。

 剣を腰に下げているし、驚く事ないと思うのに……何故か、私が狩りをしているとか戦うとか説明すると男の人はみんな驚いている気がする。



「何か?」

「いや、すまんの。驚いた……嬢ちゃんも冒険者志望か。ガイ……お前のとこの村はどうなってんだ? こんな娘まで冒険者か。何人来るんだ? まさか、お前んとこの村はやべーのか?」

「俺も止めたんだがな……クルスがあいつらの中で一番強いんだ」

「嘘だろ……?」



 あいつら……というのは先に来ている他のみんなのことだろう。兵士二人はそれを聞くと苦笑いしつつ、通ってよしと中へ案内してくれた。


 彼らがあんな反応をするのは……きっとみんな頑張っているからに違いない。

 そう思うとちょっと嬉しかった。



 城壁の中は、外よりもしっかりとした作りの家々が立ち並んでいた。

 外の喧騒とは少し違う感じ。


 外よりも落ち着いているというか……人が暮らしている感じかな。色んな人が歩いているけど、外のような活気じゃなくて村に住んでいたときのような生活感がある。


 お義父さんの話では街は方角によって全然姿が違うらしく、今、私たちがいる東側は住宅が多い地域みたい。冒険者が多いのは南側だから、まだ少し歩かないと。


 街に入った安心感で疲労が一気にきたけれど、なんとか気を取り直して歩く。

 黙々と歩いているとお義父さんがあっと声を上げてこちらを向いた。



「そうだそうだ。聞くの忘れてたぜ……クルス。すぐにケイトのところにいくか?」

「明日でいい。今日は宿でちゃんと身体拭いて……綺麗にしてから会いたいから」



 三日の旅の間、全然身体が拭けなかったから……汗の臭いも気になる。

 こんな姿では会えない。絶対に駄目。



「なるほどなぁ。お前もそういうの気にするんだな」

「当たり前」



 私はそんな風に意外そうに言ったお義父さんをちょっと睨んだ。



 明日になったらいよいよ私を置いていった友人達に会うことができる。

 まずは何から話をしようか……そして、これからどんな旅が待っているのか……私は胸を高鳴らせながら宿に向かって歩いているお義父さんの少し後ろを歩いていた。


 村では考えられない石を敷き詰めたような不思議な道を歩きながら私は微笑む。



 さあ、私の冒険を始めよう。





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