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第五話 友人



 クルスと知り合ってからなんだかんだで一週間近くの時が流れた。

 川にいるとき以外は相変わらず猟師のガイさんのところで修行の毎日である。

 少しずつ技術が身についていることが実感できるのは嬉しい。達成感を感じさせてくれるステータスを見る能力に感謝だ。お陰で飽きもこない。



「ケイト。メリーが最近クルスが昔みたいに明るく戻ってきたって喜んでたぞ。あんがとよ」



 ばしばし背中を叩いて豪快に笑って喜ぶ彼に俺は振り返って向き直し、



「お礼はいいよ。ガイさんに言われたのがきっかけだけど、僕が仲良くなりたくなったんだ」

「がはは。そりゃいい。お前も子供同士仲良くできるやつがいないとな」

「僕に友達がいないみたいじゃないか」

「いるのか?」



 よく考えるといなかった。姉の友達はちょっと違う気がするし。玩具みたいな……。

 やばい誰も思いつかない。



「……それより今日も獲物とりにいこ?」



 いないというのもなんとなく嫌なので強引に俺は話を変える。

 全部お見通しといった感じで笑いをこらえてるガイさんにちょっとむっとした。



 いつもの狩りが終わった後、またひとつガイさんから頼みごとを引き受けて帰るその途中、最近見慣れてきた少年が先日出会った名前も知らない三人に囲まれていた。

 森から帰る途中の原っぱで、周りには家も人影も無く他に人はいない。クルスはこっちに気づいていなさそうだし、三人は俺に背中を向けているので気づいていないようだが……


 クルスはいつもどおりの無表情で何を言い返すでもなくただ立っている。そんな彼に対して三人はしきりに何かを言っているようだ。

 近づくにつれ感情的になっている様子が解ってくる。何があったのか。



(助けるか?)



 少しだけ躊躇する。確かに、助けるべき場面ではあるだろう。

 だが、多少強引でも仲良くしようとしてる可能性も無いではない。その場合助けるなどといった行為はクルスにとっても良くないかもしれない。

 俺以外の普通の年頃の友人を作る機会を潰すわけにはいかない。自分は明らかに普通ではない……残念な事に。



(近くまでいってから考えるか)



 苦笑しつつそう思いながら気配を消して近づく。森での修行はそこそこ身についてきており、気配を消すスキルの方もかなり上がっている。簡単に気づかれないだろう。



「おい!なんかいえよ。俺様の部下にしてやるってんだ。頭下げろ!」



 ばちっ!っと太った少年がクルスを張り飛ばす。

 同年代でも小柄なクルスは簡単によろけてこけてしまった。それでも声は一つも出さない。ただ無機質な目を相手に向けているだけだ。

 少年の方は見たかとばかりに勝ち誇って笑っている。


 そんな光景に様子を見ようだの、長い目で見ようなどといった考えは一瞬で吹き飛んでしまう。

 頭に血が上りそうなのを必死で抑えて冷静さをなんとか保つ。

 長い時間一緒にいてようやく少しだけわかるようになってきたクルスの表情が今では結構気に入っていた。それを……大事なものを馬鹿にされたような気分だ。

 大人げ無いのはわかってはいるんだが腹が立つ。



「クルス。大丈夫か?」



 そのまま三人の横を通り過ぎて、クルスの手を取って引き起こす。彼の手は少しだけ震えていて、そのことがまた衝撃を与える。



(表情が出にくいだけで何も感じないわけじゃないんだ。そりゃ怖いよな。自分より大きいのが三人もいたら)



 驚きで完全に冷静さを取り戻すと頭を左手でわしゃわしゃと搔いて一つ溜息を吐き、少しだけ自分より背が低いクルスの頭を撫でる。



「良く頑張ったな。あんな奴に頭下げる必要ないよ。今日のところは後、任せとけ」

「……ケイト?」



 俺はにぃっと悪ガキのような人を食った泥臭い笑顔を浮かべる。

 やることは一つだ。ここで引くという選択肢はない。理不尽に対して一度引いてしまえば何度も引かなくてはいけなくなってしまう。そんな姿をクルスに見せるわけにもいかない。



「友達が殴られたんだからやりかえしておかないと」

「……友達」

「おい、邪魔すんなケイト!」



 さりげなく友達であると主張しておく。言葉にして伝えといたほうがいいこともあるだろう。

 黙っていても伝わるなんてことを俺は余り信じてはいない。


 太った少年が今度は俺に対して怒鳴りつけてくる。身長は俺よりも高いため、見上げるような形になるので威圧感は多少感じるものの、心は静まっていて恐れることはなかった。



「クルスは俺の友人だからな。邪魔するよ。大体年下相手に三対一で脅しつけるなんて恥ずかしいと思わないのか?」

「お、お前、前と全然しゃべりかた……」



 下から睨みつける俺に少しだけ相手が怯む。

 前は猫を被っていたので違いに戸惑っているようだ。



「男なら一対一で掛かってこい。俺に勝てたら子分でもなんでもなってやる」

「や、やるってのか!」



 後の二人は……動く様子はないな。予定通り。

 格好つけすぎて身悶えしそうなほど恥ずかしいが上場の結果というべきだ。



「一人で来るのか。一対三でもいいぞ」

「ば、馬鹿にしやがって。お前なんか俺だけで十分だ!」



 ありがたい。内心ほっとしつつ、相手のリーダーである太った少年と距離をあける。

 これで残る二人が出てくることはあるまい。喧嘩をした経験はないではないが体格が遥かに違う相手との一対三はあまりにも分が悪い。



 前世で喧嘩をした原因の殆どは幼馴染を好きになった男に決闘を……何度も。

 煮え切らなかった当時の自分も悪かったんだが……。



(ああ、やなこと思い出したなぁ)



 思い出すと鬱々としてくる。が、今は今だ。気を取り直して構える。



「わああああぁあぁぁあ!!!」



 大声で喚き声を上げながら手を振り回して突っ込んでくる。気の弱い相手ならそれに呑まれてやられてしまうだろう。しかし、冷静ならば話は違う。横に飛んで簡単にかわす。



「そこにとまれええ!」

「やだね」



 力では負けている。当然だ。体格が違いすぎる。だが、他の能力は全て俺が勝っている。一年くらいの短い期間で無理もしてないとはいえ、鍛え方が違う。体術スキルもある。

 戦ったりする場合にはこの特殊能力は便利だ。相手の手管もスキルによってわかるようになってくるかもしれない。

 スキルや能力がすべてとは思わないがここでどの程度出来るのか少し試せるのは有り難い。ある意味感謝だ。



「く、ふぅ…ちょこまかと!!」



 何度も何度も相手の突進をかわし、息を荒らげて怒り狂う相手を無言で睨みつける。

 こちらには余裕はたっぷりある。そろそろか。



「くそおおおおおおおお!」



 また、やけくそで走ってくる。これもかわす……片足を残して。

 どしゃっ!!!!



「ぎゃっ!!」



 同じ動きばかりしていて急に足を打されることが予測できなかったのだろう。

 簡単に足を引っ掛けて太い少年は前のめりにこけた。呻きながらも起き上がろうとする少年の尻を容赦なく思い切り蹴飛ばし、立てないように後ろから背中を踏みつけ髪の毛を掴んで後ろから頭をあげた。



「う、ぐ、ううぅぅぅ」

「まだやるか?」

「ううう、うわああぁぁぁあぁあぁん!!」



 痛みに耐えかねたか大声で泣きはじめた。子供だししょうがないのか。

 や、やりすぎたか?と少しだけ困惑する。が、表には出さない。



「俺の勝ちだな……お前たちは?」

「「い、いや、やらないやらない!!」」



 二人は太い少年を助け起こすと三人揃って逃げていった。なんだかんだで、見捨てられないあたり、あの少年も人望があるのかもしれない。案外悪い奴じゃないのかね。まあまた会うこともあるだろう。



「あー気を付けて帰れよーっと、大丈夫か?」

「……」



 立ち上がっていたクルスはこくりと頷く。まだ少しだけ指先が震えている。



「よかった」



 ほっとして笑う。



「……」

「でも、次は自分でなんとかできるようにならなきゃな」



 依存するような関係になってはお互いのためにならなさそうだ。そのためにも自分の身は自分で守り、自立してもらわないと困る。

 難しい言葉では理解できなそうなので必死に言葉を考える。



「今回は俺がやった。今度俺が困ったらクルスが助けてくれ。友達と思ってくれるなら」

「……友達」



 彼は真剣な顔で頷いた。表情があまり変わらないが目に力が篭っていたしそんな気がした。もう彼は震えてはいなかった。



「それじゃまた明日」

「……また明日」



 大きくクルスに向かって手を振ると相手もその場で小さく手を振ってくれた。

 そういえばクルスの家の方向と歩いている方向が違うがどこにいくつもりなんだろうか。ふと疑問に思って後ろを振り向くと、クルスはまだその場所でこちらを見送ってくれていた。



 ゆっくりと一歩ずつ。徐々に関係が構築できている気がしていた。

 結局はこのとき俺には彼の気持ちはよくわかってなかったんだろう。

 そのことを理解するにはまだ暫くの時を必要とした。



 とにかくこの日ようやく俺はクルスと友人になることができた。








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