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第八話 本当の始まり




 冒険者ギルドの本部は、第一市街の南部にある大きな建物の中にある。

 他国で活動している冒険者の管理や調整も必要なため、冒険者のギルドは形式的には民間で運営しているという形をとっており、国同士の利害は裏側で調整しているようだ。



「しかし、よっぽど儲かってるんだな」



と、マイスが呆れまじりに溜息を吐いたように、本部は非常に大きい施設で様々な優良・無料のサービス、探索に必要な道具の販売などが行われている。職員の数も多い。


 迷宮で手に入れた魔力石の換金はここでしかできないため、夕暮れ時の今の時間帯では多くの冒険者達がこの施設には集まり、賑わっていた。


 手に入れた魔力石はここで換金してもらう。加工された魔力石は外に持って出ていいのだが、未加工の魔力石の持ち出しは禁止されている。このあたりは国の政策で、理由はわからないが持ち出されたら困ることでもあるのだろう。


 ここで回収された魔力石は学院や専門の機関に送られて加工されるそうだ。

 ますます、迷宮が鉱山のように思えてくる。


 体を拭く水を無料で貸してくれるサービスもあり、昼から短時間しか潜っていないので汗はあまりかいていないが、軽く体を拭いてから俺達は借りた宿へと戻った。



 『雅な華亭』に戻った頃には日も暮れて、城塞都市を夕日が紅く染め上げていた。

 宿の食堂は、ここに宿を取っている冒険者だけでなく、宿の主人であるエーデルおばさんが作るおいしい料理と酒を求めて満席に近いほど席が埋まっている。

 明るい店内ではがやがやと話し声や笑い声が響き、料理のいい匂いが漂っていた。


 中に入るとカウンターの奥にいる恰幅のいいエーデルおばさんとひょろっとした人が良さそうな息子のリックさんが俺達を見つけ、大きな声で呼んでくれた。



「生きて帰ったかいっ! みんな! ケイトとマイス……小僧達は今日が初めての迷宮入りだよ! よろしくやってやんな!」



 おばさんの声と同時に食事をしていた客からおおおおお! と歓声が上がり、同時に席中から大きな拍手が湧き起こる……が、



「おいおい、本当に子供じゃねえか。ダンジョンは子供の遊び場じゃねえぞ!」

「そうだそうだ!」



 こういう怒鳴り声も同時に叫ばれていた。彼らも冒険者なのだろうか。酔っ払った中年に差し掛かろうとしている男達が唾を飛ばしながらこちらを睨み付けていた。

 確かに命懸けの仕事に遊び半分で来られればいい気はしないに違いない……が、自分は本気だ。マイスの顔を見ると、にやにや笑っていた。


 俺に任せるということか……子供と舐められるわけにはいかない。今日は見ている人が多いから下手に引くと後の仕事に関わる。かといってやりすぎて恨みを買うのもおもしろくない。

 さてどうするべきか……。


 彼らには申し訳ないが相手の能力を見る。レベルはこちらより高いが、技能は遥かにこちらが高い……なるほどなるほど。



「そこのおじさん達……俺達は本気だよ」

「くっ! 聞いたか! ママのおっぱいが恋しいような子供が本気だとよ~!」



 野次を飛ばしていた中の一人が馬鹿にしたように笑い、周りの男達も同調するように笑った。マイスが前に出ようとしたので殴りかからないように腕で止めて努めて冷静に、ゆっくりと相手に向かって問いかける。



「おじさん達も冒険者なら結果を出せば本気かどうかわかってくれるよね?」

「結果か。はん! お前みたいな子供には無理だ。ダンジョンを甘く見るな!」

「じゃあ……どれだけ稼げば本気だと認めてくれますか?」



 どれだけ馬鹿にされた笑いをされても一切気にせず、感情も高ぶらせず、静かに問いかける子供……まあ年齢的には子供だ……に、流石に困惑したのだろう。

 野次を飛ばしていたおじさん達は顔を見合わせる。



「そうだな……小銀貨で三枚ってとこか。ま、まあ無理はするなよ。若造が張り切っちまって死んだら寝覚めが悪いったらねえぜ」

「有難う御座います。気をつけます」



 大体小銀貨1枚でこの宿に料理付きで二人一泊することが出来るくらいの金額だ。

 彼らに一礼して、席を離れてエーデルさんが用意してくれた席に付く。隣にマイスとガイさんが座り、用意してくれた飲み物で乾杯をした。


 俺は果実水でマイスとガイさんはワインだ。村の基準だと成人していないため、酒はそれまで飲まないことに決めている。マイスは酒を一気に飲み干すと、俺に不思議そうに聞いてきた。



「なぁ……ケイト」

「ん? さっきのこと?」



 マイスが頷く。彼が質問してくることは予想できていた。何故なら……。



「だってよー。俺達二人で小銀貨6枚と銅貨20枚稼いだじゃねえか。俺達二人で半分ずつでも超えてるだろ。なんであそこで言わなかったんだよ」

「昼から潜って、それだけ稼いでると彼らが知ったら恨みが残るよ。馬鹿にした分、周りから大笑いされてそれはもう酷いことになるだろうね」

「自業自得じゃねえか」



 おもしろくなさそうに、ふんと鼻を鳴らして酒を煽る。

 ガイさんはふむ……と、頷き、



「まぁ、そうだろうな。無駄に敵を作ることもないか。ガツンとやらなきゃいかん時もあるのもまた事実だが。今回のはどうだろうな」

「明日はガイさんがいない分、今日より慎重に行くと思うし……多く稼ぎすぎたら俺とマイスで分けて換金してもらってぎりぎりを装うよ。それで、まだ馬鹿にするなら……」

「俺の出番か」



 マイスが腕を叩いて笑う。俺も苦笑しながら頷いた。

 結局は荒事を仕事にすることになるのだ。気弱さを見せるわけにはいかなさそうだ。職業柄。

 話に聞く限り礼儀正しさなどは無縁の者が多いようだし……安定を求める人、食にも困っていない人は冒険者などという命を賭けた博打のような仕事は選ぶはずもない。



「カイル兄さんならどうしたかな」



 何気なく呟く。何年も会っていない兄を思い出すと、どうにも寂しい気分になってしまう。



「そりゃあんた! あの悪ガキなら、指さして馬鹿にし返してたよ。あいつらがあんたを馬鹿にしてるのはその意趣返しさ。カイルの弟だからね」

「うおっ!」



 いつのまにか後ろに料理を両手に持ったエーデルおばさんが立っていた。話を聞かれていたらしい。食堂がうるさいから大丈夫と、気を抜きすぎていたかもしれない。

 彼女は料理の皿を置きながら手を腰にあてて苦笑いしながら思い出すように、



「陽気で実力もあって、目立つし敵はいっぱい作ってたけど味方はもっと多い。そんなやつだったよ。あんたはちょっと違うみたいだね」

「俺はカイル兄さんみたいには出来ませんから」

「そうかねえ。私の勘じゃあんたも相当出来ると思ったんだがねぇ」



 やれやれと、首を横に振ってエーデルおばさんは次の料理を取りにいった。

 カイル兄さんのような生き方は自分には向いていない気がする。あの兄さんはどんな危険でも笑って乗り越えていくんだろう。それこそ物語の主人公のように。


 羨ましいとは思うけど……それよりも兄らしいと笑みが浮かんだ。



 翌日の早朝、俺達は第二市街から外に出る東門に、クルト村に帰るガイさんを見送るために来ていた。門の前では一昨日通るときにもいた、二人組の衛視が眠たそうに仕事を始めている。



「んじゃ、お前達しっかりやれよ。手紙はちゃんと渡しておいてやる」

「有難う御座います。お元気で」

「一年で俺はちゃんと帰るから。師匠も元気でな」



 簡単に挨拶をするとガイさんはサッと未練もなく、あっさり背中を向けて城門の外へと消えていった。俺達はその大きな背中が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

 ガイさんだけでなく、世話になったクルト村の人達にはいつか恩返しをしたい。そう心の底から感じていた。


 頼ることの出来る人がいなくなり、本当の冒険者としての生活が今日から始まる。





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