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第七話 初めての迷宮探索



 階段を一歩一歩降りるごとに緊張感が増していく。

 恐怖心は不思議と無い。完全な暗闇ではなく弱々しいが光源があるおかげだろうか。


 延々と続く長い地下への階段を降りて行く。その間、階段の側面部の壁になっているところをコンコンと叩いてみたが、石のような感触だった。


 一番下に着くまでその石の壁は続き、階段の終わり……地下一階に到着すると、そこからその石を切り取ったように大広間が作られている。

 この世界の技術では人工的にこれほどのものを作るのは難しいだろう。



「ここがまあ……最終準備地点といったところか。稼ぎの分配もここでやることが多いな」

「人が結構多いね」



 広間では仲間同士で数人ずつ固まって何かを話している。この時間帯から探索を始める人は少ないだろうから、ガイさんの言う終わった後の分配中なのかもしれない。


 用意してある松明に火を点けて左手に持つ。片手がふさがるが魔法を使うにも火が必要なため、それ程問題ではない。マイスは力が強い分、戦闘に集中してもらい、俺がそれ以外を担当するというのが俺達二人が相談した計画だ。


 壁際は光源があるから問題ないが、広間の中央部まで行くと手元も見えないくらい暗いため、やはり明かりは必要である。



「とりあえず、壁沿いに歩いていこう」

「おうよ!」



 壁沿いを歩いていくと狭い横幅が大体5m程の通路があり、ガイさんの話によると一番多い基本的な広さの通路らしい。もちろん、他にも様々な種類があるらしいが。


 人の気配が無くなると辺りは足音以外、耳が痛くなりそうなくらいの無音になる。

 しばらくの間、風景の変わらない通路を歩いていると、同じ場所を歩いているのではないかという錯覚をしてしまう。地下一階ではそんな罠は無いらしく、その点は安心だが。

 ちゃんと進んでいる証拠に目の前が行き止まりにつきあたり、左右に道が伸びている。


 分かれ道を左に曲がって進んでいくと目の前に金属製の扉が現れた。



「このへんにゃないが、罠のある扉もある。注意しろよ。後は奥に進むほど怪物共も出る可能性が高くなる。人がいるところはすぐに掃除されちまうが……ま、こっからが本番だな」



 ガイさんの話によると、この迷宮の怪物は地面から湧いてくるらしい。どうなってるのかは彼にもわからないらしいが。沸いた後は徘徊し、人を見たら問答無用で襲ってくるらしく、会話とかは一切できない。


 マイスの顔を見て頷き、敵がいないかを探知する……少し離れた場所に二匹。倒していない相手だ。

 金属の扉をガチャッっと開けると、先程までと同じ通路が伸びていた。



「早速おでましか」

「そのようだね……なんか虫みたいだね」



 剣を構えたマイスがぴょんぴょん飛び跳ねる中型犬くらいの大きさのバッタのような生き物に、じりじりと近寄る。油断はしていないようだ。

 俺ももう一匹に剣を構えながら近づく。どんな風に攻撃してくるのか……飛びかかってくるのか、何か特殊な攻撃があるのか。倒せばわかるようになるのだが……ならば。



「サラマンダーよ。正面の敵を倒せ!」



 左手に持っている松明の炎が一瞬ぼぉっ! と強く燃え盛るとそこから小さな炎の蜥蜴が飛び出す。初見の相手は出し惜しみせずに倒すに限る。

 松明の炎は消えてしまったが、後で点け直せばいい。炎の蜥蜴は、地面を這うようにシャカシャカと走っていき、巨大な虫に取り付いた。


 声を出せない虫なのか無言で炎に巻かれながら狂ったように飛び回る。俺は止めを刺すべく、飛び回る虫を剣で切りつけた。

 鈍い感触と共に巨大な虫の姿が消え、からん……と小さな石が落ちた。



「マイス。体当たりに気をつけろ!」

「おうよっ!」



 飛蝗ひこう……読み方を変えればバッタ。そのまんまだった。飛び回って体当りするだけのようだ。

 大きさが大きさなので馬鹿にならない強さかもしれないが。


 マイスは一気に飛んで距離を詰めてきた飛蝗を蹴り飛ばし、ひっくり返ったところを剣で突き刺した。彼だから出来る力業だ……あの蹴りはもう喰らいたくない。

 サラマンダーを帰らせて、松明に火を点けなおし初めて見る『魔力石』を拾う。



「さすがにやるな……お前ら。おめでとさん」

「あったりまえだぜ! な、ケイト!」

「当然! ……と言いたいけど緊張したよ。気を抜かずに行こう」



 自信満々で笑うマイスを見て苦笑しながら、俺達は先に進んでいった。



 道を頭に叩き込みながら探索し、飛蝗やゴブリンを倒して進んでいく。

 敵を効率よく倒すことはマイスに任せて、俺は帰る道や退路を考えながら戦っていた。やはり大事なのは生きて帰ることだろうから。



「なんでえ? あの蛙。弱そうだな……魔力石頂くぜ」



 初めて見る相手だ。一匹だけ、大型犬のような大きさの蛙がぽつんと座ってゲコゲコ鳴いている。

 マイスがゆっくりと近づくと、蛙が水鉄砲のようにピュッと口から水らしいものを噴いた。



「なんだ?」



 水の勢いは怪我をするようなものではない。マイスは飛んできたそれを手で防いだ……様子がおかしくなったのはそこからだ。

 うっ! と呻くとマイスがその場でばたりと倒れる!



「おい! マイス!」

「うぐぐぐぐ、し、しびれ……」



 毒か。近付きたくはないがマイスが倒れているからサラマンダーは使いにくい。

 マイスに飛び乗ろうとしている蛙を蹴って邪魔をすると、今度は自分が正面にでて対峙する。あの水に気を付ければそれほど強くはなさそうだ。


 ゆっくりと近づき相手の攻撃を待つ。俺も痺れさせるべく吐き出してきた水は横に飛んで回避し、次の攻撃をしてくる前に剣で串刺しにした。


 敵の名前は……毒蛙か。これもまたそのままな……毒は麻痺毒。本来は動けなくして、獲物を食べるのだろう。

 自然界にいる毒蛙が麻痺をさせて、小型の動物を食べている姿がなんとなく思い浮かんだ。



「…………はぁぁ…………は、マイス! 大丈夫か?」

「ぷっ……くく! 油断したな。三分もすれば治る。初めて見る敵は気をつけろ」

「ち、ちくしょう!」



 しびれて動けないマイスが回復するのを待ちながら、敵が近づいて来ないか探知する。この状態で他の敵に襲われでもしたら一溜りもない。



「こういう毒を受ければこういう危険を招くことにもなる。弱い毒だがそれでも危ない」

「解毒薬とかはないんですか?」

「学院で研究されている魔法の解毒薬もあるが、一番安いやつでも結構高いぞ。こいつじゃ元がとれん。後は魔法での治療や、神に仕えてるやつらが奇跡を起こしたりってのもあるな」



 便利だな魔法……本来毒は、成分を研究しなければ直せないと思うのだが。

技術がアンバランスに高かったり低かったりするのは、便利な魔法も原因の一つに違いない。



「すまねえ……うーん、まだちょっと痺れるぜ」

「仕方ないよ。マイスがああならなかったら俺もやられてた」



 申し訳なさそうな顔でしょげているマイスをぽんぽんと肩を叩いて慰める。

 この後は順調に探索を続け、倒しきれそうにない数の敵が一度に出たところで来た道を全力で逃げて、初日の迷宮探索は終了した。



「いい判断だ。道も覚えていたようだな。臆病なくらいで丁度いい」

「命は一個しかないからね」

「わかってんなら安心だ! もう教えることはねえな。二人とも」



 地上に出て苦笑しながら頭をわしゃわしゃかいていると、ガイさんがばしばしと背中を叩いて大声で笑った。そうか……こうして教えてもらうのも……最後か。


 緊張で忘れていたが……最後。訓練の締めくくり。それが今日だったのだ。



「ガイさん、十年もの長い間……本当に……本当にありがとうございました」

「師匠! 次会うときはもっと強くなっておくぜ」

「寂しいような嬉しいような、複雑な気分だな。弟子の成長ってのはよ」



 思えばこの人がある意味では俺の始まりだった。

 陽気で明るいこの大男にはどれほどのものを教えてもらったかわからない。それも今日で終わる……俺は涙を堪えながら万感の思いを込めて頭を下げた。




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