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第五話 親友



 カイラル王立学院は内壁の中、第一市街の1/4を占める巨大な施設である。

 この学院はピアース王国で最も大きな研究施設であり、カイラル公爵家の影響を受けないよう、国家事業として運営している学院だ。


 最も実態は城塞都市の領主であるカイラル家が殆ど牛耳っているらしいが。

 ともあれ、この学院では優秀な人物が様々な学問を学び、ここを卒業したものは国のあちこちで活躍をしていた。大学のようなものかと俺は考えている。


 俺達の友人であるヘインもこの学院で学んでいる……はずだ。


 女子寮に辿り着くと、シーリアと同じ服を着ている一人の少女に声をかけられた。


 金色の髪の毛をくるくると後ろで巻いている。歳は13、4だろうか……同年代に見える。背は低くて、顔立ちもきつそうではないのに何故か威厳があった。

 歩き方が綺麗でどことなく上品な雰囲気があるし……貴族だろうか。



「貴方達。ここは女子寮。殿方が敷地に入ることは禁止されているのですが」

「ゆ! ユーニティア様! 申し訳ありません。ここに住んでいる人の客人なんです。な、中には入らせませんから!」



 慌てたようにシーリアが頭を下げる。様付け……ということはやはり貴族なのか。俺はマイスの腕をつつくと、黙っているようにと小声で伝えた。

 貴族と諍いを起こしてしまえばヘインに迷惑がかかるかもしれない。



「お騒がせし、申し訳ありません。私の親友がこちらに住んでいるらしく、シーリアさんに呼んで頂こうと思っていたのです。敷地からはすぐ立ち去りますので寛大な処置を……」



 ゆっくりと、はっきりと可能な限り丁重に相手に伝え、頭を下げる。

 目の前の少女は愉快そうに口の端だけにやーと笑っていた。思ったより大変そうな相手かもしれない。失敗したか? と、思ったが……。



「貴方もしかして……ケイト・アルティア?」

「……そうです」

「ヘインから聞いているわ。色々とね。想像と少し違ったけれども」



 ヘインから特徴を聞いていたのか。どんな話をしてたのやら。

 ユーニティアと呼ばれていた少女は玩具を見つけたみたいな表情でなんだか楽しそうだ。



「まあいいわ。私がヘインを呼んできてあげましょう」

「えっ! ユーニティア様にそんなことさせるわけには!」



 強気な性格だと思っていたシーリアが耳をぺたんと寝かせてあわあわと慌てている。

 余程高位の貴族なのか。



「いいのよ。そこで待っていなさい……どんな顔するか見物ね」

「わかりました。お願いします」



 うう……と苦虫を噛み殺したような顔でシーリアが唸る。貴族の少女が女子寮に去っていくと、彼女は安心したようにほっと大きく息を吐いた。



「あの人……貴族だよね?」

「会いたくない人に今日に限って……ユーニティア・ル・クロック・カイラル。本家じゃないけど……領主の一族なのよ。若いけど天才って言われてる」



 学院への入学は平等に……建前としては行われているらしい。天才ということは実力で勝ち取ったということか。でもなんでまたそんな大貴族が……



「ヘインと知り合いなんだね。あの人」

「そりゃ、あんたの親友を女子寮の屋根裏に引越させた人だから」

「んーあんま悪そうにゃ見えなかったがなあ」



 黙っていたマイスがぽつりと呟く。どうだろう。

 貴族というものを知識としてしか知らない自分には判断出来ない。



「……貴族なんて大嫌い」



 顔を伏せて悔しそうにしているシーリアの態度から考えて、この世界の貴族は横暴なのだろうか。このことも調べる必要がありそうだ。

 しばらく待つと、ヘインが女子寮の中から走って出てきた。後を追うようにユーニティアさんが息を切らせながら出てくる。



「マイス! ケイト! 来たかっ!」



 最後に別れてから一年以上の月日が流れ、ヘインは見違えるように大人っぽくなっていた。学院の指定の服らしいローブも似合っている。

 ヘインは俺達に走りよると、マイスの肩をばしばし叩き、続いて俺の肩もばしばしと叩いて感情を爆発させていた。俺達も久々に会う友人に、上手く言葉が出ない。感無量だ。



「久しぶりだなっ! ヘイン! 元気そうじゃねえか!」

「久しぶり。俺達も冒険者になったよ……ほんと、久しぶり」



 少しだけ旧交を温めあった後、ヘインに案内されて人気の少ない芝生のある場所に移動して腰を降す。ユーニティアさんは、用事があるからと学院の中へと歩いていっていった。

 シーリアも頼まれたのはここまでだからと学院の方へと歩いていく。別れ際に、



「縁があったらまたな。お互い頑張ろう」



と、声を掛けてみたのだが、



「縁なんかないわよ。それに、あんたなんかには負けないわ!」



 こんな感じで結局最後まで彼女の印象を良くすることは出来なかった。

 残念だが仕方がない。本当に縁があればまた機会もあるだろう。



 

 女性二人を見送った後、俺達は芝生で円になって座っていた。

 芝生でこうやって三人で座っているとクルト村での日々を思い出す。あの村では話をするときはこうやって、柔らかい草の生えている場所で座って語ったものだ。


 あのときは周りは見渡す限り何もない、空と雄大な自然だけがある美しい光景を見ながらだったが、今日は周りの光景は建物ばかりだ。過去と現在、過去は美しく思えるもの……か。



「ヘイン、お前よぉ……女子寮に住むなんて何があったんだ?」

「ああ、別に問題無い。ユニティ……いや、ユーニティアの父親と仕事の契約を結んでいてな。取引に便利だから……だそうだ。屋根裏だが、住み心地は悪くない」



 なるほど、心配していたような状況ではなかったか。俺としては女子寮に平然と住んでいるヘインの神経はちょっと疑いたくはなるが。



「ほっとしたよ。ヘインが何かやらかしたのかと思った」

「マイスと一緒にしないでくれ。僕は注意している」

「何で俺なんだよっ!」



 怒鳴るマイスにヘインが押し殺したように笑い、俺も声を上げて笑う。そのままお互いの近況を話した。ヘインも俺達も久しぶりで話すことは尽きなかった。

 そして、話題が先にこちらに来ているはずの人のことになり……



「ヘインはカイル兄さん達には会ったの?」

「……ああ。会った。そのことでお前達に伝えなければならないこともある」



 ヘインは急に雰囲気を変え、真剣な……そして、苦い表情で言った。さっきまでの楽しそうな表情とはまるで違う。ヘインは少しだけ考えをまとめるように黙っていたが、



「ホルス達の話をするその前に、今この街……いや、街だけじゃないかもしれん。広い範囲できな臭い事件が起こっている」

「な、なんだそりゃ」

「僕も全部知っているわけじゃないし、関わりたくないからね。だけど、ケイト達は冒険者だから、関係する事件に巻き込まれるかもしれない」



 確かにこの街で何か事件が起きているなら知っておきたい。だがそれと、カイル兄さん達がどう関係しているというのか。



「あのシーリアって子が外してくれてよかったよ。実は異種族の事件が多発してるんだ」

「……犯罪ってこと?」

「いや、犯罪じゃないな。自分から消えるんだ。ぱっ……とね……学院でも十数人。誘拐ってわけじゃなく、退学届を出して。これは例年の資料を見る限りおかしなことなんだよ」

「何らかの目的を持っている……か?」



 ヘインは難しそうな顔をしながら頷く。



「結論から言おう。カイルさんとホルスは恐らくこの事件に大きく関わっている。どんな目的かは知らないが、組織的に行動しているのは間違いない」

「カイル兄さんは……悪いことはできないさ」

「僕もそう信じたいけどね。良い悪いは立場が違うと変わるものだから」



 ヘインが苦笑する。おそらく何かを知っていて、俺達を案じてくれているのだろう。



「俺達にホルスを疑えってか! 友人を疑えるかっ!」

「マイス……信用と盲信は違う」



 マイスが不機嫌に怒鳴り、ヘインが負けじとにらみ返す。

 俺は頭をわしゃわしゃかいて、苦笑していたが。



「俺達は冒険者に成り立てだから……大きな事件には巻き込まれたくないね」

「おい、ケイトまでホルスを疑うのかよ」



 俺は首を横に振る……が内心は悩んでいた。マイスの真っ直ぐさが羨ましくなる。

 どうしても自分には人を信じきることが出来ない。


 結局、俺の出した結論は実際にあったとき判断するというものだ。



「ケイト、マイス……盲信はするな。お前達が死ぬと楽しみが少なくなる」

「気をつけるよ」



 ああ、とヘインはほっとしたように頷いてこの話題を打ち切り、学院での生活を話し始めた。施設の利用の仕方、学園で作ったものの販売などの話は今後、冒険の役にたちそうだ。





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