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第三話 出会い



 翌日、俺は悩んでいた。昨日の話だ。

 お世話になってるガイさんの頼みだし、なんとか叶えたいががいくつか不審な点が残る。


 そもそも他に友人はいないのか……子供同士の友達付き合いなど、ガイさんが知っているわけないだろう。もしそうだった場合、彼の余計な思い過ごしではないだろうか。

 様子を見るのも他に友人がいるならその子に聞いてみればいい話である。

 あの人子供とかできたら親馬鹿になりそうだからなー余計な心配って可能性もある。


 まあもしいないとするならば、ガイさんが間違いなく友達がいないと判断するような状態なのだろうか。父親が死んでいるらしいしそのことでなにかあった可能性もある。

 その場合俺でなんとかできるのか?って疑問が残る。


 会ってから考えればいいか。




 いくら自給自足の辺鄙な村とはいえ仕事は5歳ということもあり、自発的にやっているもの以外に仕事はない。

 ガイさんの手伝いも二日に一回しか彼は許してくれないので(子供は遊べということらしい)時間はある……子供と仲良くするのは苦手だが時間をかければ仲良くなれる……はず!


 ほんと、子供はいつも何をしているんだろうか。遊んでるらしいってのはわかるんだが、具体的にどんなことをして過ごしているのかはわからない。

 自分が子供のころはヒーローごっこをしたりままごとに付き合ったり……こっちもそんな感じなんだろうか。

 こちらだと勇者ごっこ、魔王ごっこか。いるのかはわからないが。


 俺自身はいつもは木の棒の先に青銅のナイフを二股に加工してからくくり付けた銛のようなもので魚を取ったり、釣りをしたり、村の物知りの所を訊ねたりして過ごしているということもあり、子供と接している時間はない。

 自分自身もある意味子供として問題があるのではないかと思う。


 もう一つ問題があった。件の相手であるクルスの顔を知らないという問題だ。

 誰かクルスのことを知らないかと姉に聞いてみたが、顔が広いはずの快活な姉は知らなかった。

 子供たちのボスだった次兄に聞いて見ても、そんな子供がいたようないなかったようなという頼りない困惑した答えしか返ってこなかった。



(まあ子供達に会ったときにでも聞いてみればいいか)



 考えても答えの出ないことは考えない。

 この世界に着てから身につけた技術だ。一つ頷いて一旦忘れることにした。


 とはいえ何もしないと暇なので自作の釣り竿と銛と桶、その中に薪を少し入れたものを担いで川に向かう。

 自分の体力ではかなり重い荷物だがこれも気持ちよく楽しむためには必要なものだ。

 一石二鳥で昼ご飯も自給自足できるとというのもある。川遊びは暇つぶしと訓練と食事を兼ねたいい趣味だと我ながら思う。


 川で魚をとる権利…入会権のようなものはこの当りの地域にはないらしく、自由にとることが出来るのは有難かった。

 なんでも地域一帯税収は近くにあるダンジョンのおかげでかなりのものになっているらしく、そのかわりに周辺一体の税は比較的軽目になっているらしい。

 その分モンスターの被害は他所に比べると多めなのだそうだ。


 とてとてと川へと向かうその途中、村の広場で三人の少年にあった。珍しい。

 俺が向かう時間は結構早い時間帯だ。魚は朝の方が釣りやすいからである。だから休みの日でも子供とはほとんど会わない。


 帰りにはすれ違うことはあるが疲れきっているため相手をする気力もない。ということもあり、彼らのこともよく知らなかった。


 三人とも自分より年上、7,8歳くらいだろうか。自分の身長からみる彼らは、かなり背が高く見えるので自分よりはるか年上のように見えてしまう。

 よく考えたら10cm以上の差ってでかいよな……と思いつつ相手を観察する。

 三人の容姿は細いのと太いのと普通のだ。中央にいる太い少年が三人の中で一番えらそうにしていた。きっと中心人物なんだろう。


 不思議な気分で、目的も忘れてぼーっと見上げていると三人組のうち、細いのが声をかけてきた。雰囲気からどうにも胡散臭そうに見られているようである。



「おい、お前みない顔だな。誰だ!」

「僕はケイト。ケイト・アルティアだよ。よろしくね」


 にっこりと敵意のない笑みを浮かべて俺は自己紹介した。

 苗字まで出したのは、次兄の名声(?)を利用するためだ。

 なんだか相手は威圧的(半分は身長のせいっぽいが)だし、絡まれては面白くない。効果はあったらしく、相手は少しだけ呻いた。



「あ、あの人の……む、むう。お前も遊ぶときは顔だせよ!」

「わかりました。っと、一つ伺いたいんですが」



 頭を下げた後、一番えらそうにしている太いのに顔を向けて続ける。



「クルスって人知ってる?」

「……あいつか。暗いし小さいし汚くていっつも一人で友達もいないし可哀想だから折角オレ様の部下にしてやろうと思ったのに、あいつ最近どこにもいやがらねえんだよ。だからこうして探してるんだ」



 ちっ!と太い少年が舌打ちする。

 これは相手を心配してるのかただ単にえらそうにしたいだけなのか……前者だと信じたいがどうなんだろうか。



「お前もオレ様の部下にならないか?おまえんとこの兄貴ももうすぐ大人だしこれからはオレ様の時代だぜ」



 そういってふんっと胸を張る。勿論遠慮したいので苦笑しそうになるのを必死に抑えながら、



「魅力的だけど僕はガイさんの弟子だからね。無理だよ」

「ガイってあのゴブリンの時の…。しゃあねえな。気が変わったらいつでもいえよ」

「ありがとう」



 あっさり引いてくれた彼に頭を下げ、邪気のない笑顔…多分…で三人に礼をいい、当初の目的地である川へと歩いていった。

 彼らにとっても一年前のゴブリン襲撃は今でも忘れられない記憶になっているのだろう。

 当時ほとんどすべての村人たちから爪弾きされていた猟師のガイさんの思わぬ大活躍は少年たちの間でも一目置くに足る出来事だったに違いない。




 北の川は東から西に向けて流れ続け、下流に向うに連れて大河へと姿を変えていく。

 このクルト村はかなり上流に位置しているらしく、小さな岩がごつごつと転がっているような場所を流れる清流といった風情である。


 暇なときには棒に糸と針を付けた釣り竿に、岩の裏に住んでいるような小さな虫を餌に付けて魚を釣ったり(魚目的より主に、糸を垂らしているのが楽しいのだが)、お腹がすいたらステータス表示を活用して川の中の魚の位置を特定し、簡易な銛もどきで魚をとるのが日常であった。


 野外活動のスキルは猟師のガイさんのお陰で身についているので慣れたものである。

 毎日がキャンプといった感じで、元々体を動かすことが嫌いではなかった自分にとっては、退屈を紛らわすいい趣味になっていた。

 意味があるのかないのかわからないが地味に釣りスキルがあがるのもありがたい。これは高くなったらどうなるんだろう。


 鼻歌を歌いながら何時もの釣りポイントへ移動すると、今日は先客がいた。

珍しい事続きだ。

 まだ夏というには早く、肌寒さが残る今の季節に子供がここに来ることは少ない。


 しかし今日は黒髪、黒い瞳の華奢な……というより病的に痩せている印象の少年が、岩の上に三角座りで座って何をするでもなく川を眺めていた。



(誰だ?)



 釣りという行為そのものが自分以外にしているものもいなかったのもあり、今まで泳ぐことができる季節以外でこの川に近づく子供はいなかった。


 訝しげに、少年の方を見る。服装は元は白かったであろう服がくすんで汚れており、髪の毛はぼさぼさで表情が見えない。

 風貌を見る限りはくる前に話を聞いた目的の相手に合致する……が、今まで会ったこともないのに今日に限って誰もこないような場所に来る。そんな偶然はあるだろうか。



「こんにちは」



 挨拶というのは意思疎通を取るための素晴らしい発明品だと思う。兎にも角にも糸口を作る為にも声をかけてみる。



「………」



 相手はぴくりとも反応はしない。まるで俺なんて最初からいない風だ。

 何気なくステータスを見ようとしてみて止める。


 人の能力を勝手に盗み見るのは罪悪感がある。今更ではあるけど。

 なんだか他人のプライバシーを覗いているような気分になるのである。躊躇なく使う方が便利ではあるんだろうが、悩むところだ。


 物や動物に対しては気にしないのだけど。


 じっと見られていることに気づいたのか少しだけこちらにがりがりの少年が顔を向ける。

 髪の隙間から瞳が見える。転生してから視力がよくなった事に初めて後悔した。


 彼の瞳は闇を映したかのように昏かった。何も映していないように思えた。

 血の気が引いていく。


 アノトキノ彼女ノヨウニ……


 からっ……


 足元の石が転がる音がやけに大きく聞こえた。はっと少年の方を見ると興味を失ったかのように川の方を向きなおしていた。

 慌てて上を向くが太陽は動いていない。自分が惚けていたのは一瞬だったらしい。


 頭を少しふり、歯を食いしばって彼の近くまで歩いて腰を下し、釣り竿を用意して川に糸を垂らした。

 彼の方は興味がないのか一顧だにせず、川を眺めている。


 自分勝手な考えだが、あんな目は許せなかった。

 何かに絶望した目……前世の最期に見た幼馴染の目が記憶に焼き付いている。あれに似ていた。

 父親を亡くしたことはそこまで辛いことだったのか……前世では自分が先に死んでしまったため、その気持ちを推し量ることはできない。


 複雑で自分自身整理の付かない感情が沸き上がる。

 とにかく、なんとなく彼の浮かべる目が気に入らなかった。

 あの目を止めさせたかった。


 だから、介入することに決めた。言われたからではなく自分の意思で。

 我ながら自分勝手な理由だなあと、彼を見ながら左手で頭をわしゃわしゃと掻いた。




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