第ニ話 方針決定?
この村に来てから2年が過ぎ、5歳になった。
俺は子供らしくない子供、と村中で呼ばれるようになってしまっていた。
難しい本は読むわ、質問しまくったりしてたのである意味仕方がないかもしれない。
家族も友人がいなさそうなことを心配しているようで本当に申し訳なく思う。
まあ、友人はいないわけだが……しかし、同じくらいの歳の子供と遊ぶのもどうなんだろう。
姉が強引に腕を引っ張っていく時くらいしか子供同士で遊ぶことはなかった。
姉の友人たちとは仲がいいのでよしとしておいて欲しい。
彼女たちには前世の色々な遊びを提供しているので可愛がられている。
遊びの楽しさはどんな世界でも、子供にとっては共通言語みたいなものなのかもしれない。
「外国と思ったら異世界だもんな」
この2年でわかったことはこれだ。
行商人を捕まえて話を聞いたり、その護衛の冒険者から武勇譚(レベルが低かったのでまゆつばっぽかった)を聞いたり、領主が税の徴収で派遣してくる役人などに面倒そうな顔をされながらも聞いた話を総合した上での判断だ。
曰く、冒険者ギルドがあり様々な依頼をこなしている。
曰く、魔法がある。魔法は魔力があるものだけが使える。
曰く、村から三日ほどのところに領主が住む城塞都市があり、そこにはダンジョンがある。
曰く、異種族がいる。
曰く、この世界には神やドラゴンがいる。
無茶苦茶だよな。ほんと。
そして他にも頭を悩まさせられるモノが。
「これは、皆使えるのかなぁ。言わないほうがいいか」
何故か意識すると他人や物のステータスが見れるようになっていた。その能力に気づいたきっかけはなんのことはない。
こちらの世界に来て何日目かの朝、挨拶をしてきた村の人の名前を思い出そうと必死に顔を見ていたら、浮かんできたのだ。はじめは目の錯覚か、自分の頭がおかしくなったのかとおもったがそうでもないらしい。
初めは使い方がさっぱりわからなかったが、どうやら見たいとか知りたいとか意識しつつ対象を見ると、数字や名前が視覚的に見えるらしい。
条件はいろいろあって名称不明のものは????と表示されたりする。
何の役に立つのか、何故そんなものがあるのかは本当に謎ではある……が転生(?)したことの恩恵なのかもしれない。
それはさておき、未来の事を考える。
今後どう生きていくのか考えなければならない。どんなリスクがあるか予測できない以上ある程度の方針は必要である。
家は兄が継ぐだろうし、次男はまあなんとかするんだろう。姉の友人にも肉食獣のように狙っている子がいる。
俺はというと村長の息子とはいえ三男。優良物件ではないし村で友人もいなければ作る予定もあんまりない。
土地や畑は無限ではない。こんな状態では将来は下手をすると邪魔ものだ。
それにこの新しい世界を知りたいという好奇心を覚えていた。
前世では目的のために堅実に生きようとしていた。けれども、今はその目的もない。
ならば拾ったような二度目の人生、大事にしてくれる優しい両親には本当に申し訳ないが後悔のないように自由に生きたいのである。
冒険、魔法、ドラゴン……そんな話を聞くとわくわくする。いい歳なのに恥ずかしいが。
そういうわけで、友人を作るよりも将来使いそうな技能を今は鍛えている。
「おう!来たか。いくぞケイト!」
「よろしくお願いします」
「あっはっは、ほんとガキらしくないな。手伝い頼むぞ」
ちょこんと頭を下げる俺を見て豪快に大声で笑う熊のような髭もじゃの大男は猟師のガイさん。
今は彼に生きるために必要なことを教わっていた。
一年前、村に十数体ほどのゴブリンの襲撃があった。ゴブリンは小さい人のような醜い怪物だ。
慌てる村人を父親である村長は手早くまとめ、戦える人で迎撃した。そのとき活躍したのがこの人だ。
村人の平均が大人でも2~3レベルの中、この人はなんと17レベル。村の中で二番目にレベルが高い。
比較対象として、行商人の護衛をしていた冒険者が7レベルだったことを考えるとかなりの実力者な気がする。
なんでも昔、若い頃はこの村の薬師の人と冒険者をしていたらしい。
そんなこともあって村にいない時期が長かったせいか未だ独身。
同じようにゴブリン相手に活躍した薬師の人は女性からもてるようになったのに、全くもてないのはやはりむさいからだろうか。
本人はとにかく陽気で豪快であまり気にしている様子ではないが。
俺はこの人からニ日に一度、森での狩りや弓の使い方や体術、罠の張り方、野営の仕方を手伝いながら教わって俺はかわりに、
「あっちにおっきいイノシシがいるよ。距離は大分あるけど」
「……お前の目はどうなってんだ?」
と、苦虫を噛んだ様な顔をしているガイさんの一日の仕事が早く終わるように協力していた。
木とか草の障害物があってもステータスは見えるらしい。
範囲は100mが限界だが。動植物で切替もできるので非常に便利と思えるようになっていた。
こうして、あまった時間で技術を教えてもらう。
弓は体が小さいので子供用に小さい弓を作ってもらっている。
色々と練習して家に帰って姿見をみると、スキルが少しずつ上がっているのが俺の最近の楽しみだ。
ちなみに自分のステータスは鏡がないと見れない。後、比較対象が少なすぎて数値の意味はまだわからない。
レベルと違って個別のスキルは使っただけ上がっていく。レベルは上げることが難しいがスキルは今の自分でもあげることができる。
未来に向けて着々と準備出来ているようでちょっと嬉しい。
「あーそうだ。お前に頼みたいことがあんだわ」
猪狩りも終わり、それを解体する隣で黙々と兎を捕まえるための罠を作成していた俺にガイさんは声をかけた。珍しく歯切れが悪い。
「僕に出来ることなら」
にっと子供っぽい笑顔を意識して、ガイさんに振り向く。
「メリーの所の子供は知ってるか?」
「確か……クルスだっけ?」
メリーさんというのは村のはずれの方に住んでいる美人な未亡人だ。
旦那さんは二年前に病気で亡くなっている。子供の方は村でもあまりみかけたことがない。
自分が子供が集まる場所にいっていないから知らないだけかもしれないけれど。
ガイさんは丸太のように太い腕を組んで続ける。
「そうだ。どうも父親が亡くなってから…ちょっと心配でな。生活が苦しいのもあるんだろうが……。様子を見てやってほしいんだ。同じ歳だしな。」
「うーん。気をつけてみる。でもなんでガイさんがそんなこと知ってるの?」
メリーさんとガイさんはあんまり接点がなさそうに思えるのだ。住んでいる場所も離れているし。
「ん!ああ。そのなんだ。俺とあいつとその旦那、薬師のジンは幼なじみだからな。気になって当たり前だろう。決して外にた、他意はないぞ!」
少し慌てながら説明してくれた。まあ、この人は気のいい人なのでなんだかんだ理由を付けて様子を見に入ってるんだろう。
関係ないが幼馴染と聞くだけで鳥肌がたった。もう主観的に二年も経つのに…。
「でもメリーさんって25歳じゃなかったっけ」
「俺も25だ」
どう贔屓目に見てもおっさんな髭もじゃの大男が真顔でいった。世の中は不思議でいっぱいである。
その日の夜、少しだけもらって持ち帰った肉はもつ鍋にしてみんなで食べた。
育ちざかりの兄姉達が食べまくって自分はあまり食べられないけど、みんなが喜んでるからよしとしておこう。