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第十三話 僅かな違い



 ラキシスさんを見送り、そのままジンさんのところの訓練に向かう。


 彼のところの訓練は二種類に別れている。剣技と薬学だ。

 剣技は基本のみを教え、後はガイさんの方での訓練に任せている。

 基本は大事だが、それ以上は教えられるより実際使いつつ学べということらしい。


 放任主義に思えるが変な癖が付いていたら的確に指摘するし、しっかりと理論立って考えられており、教え方は上手い気がする。

 とりあえず俺はわかりやすいが外の四人はどうなんだろうか。


 薬草学の方は剣技と違って、現状は全て彼の付きっきりの指導で行われている。

 こちらは座学と調合から講義が成り立っている。

 特に調合はミスが許されないため、教え方も厳しい。


 細かいことが苦手なマイスと調合にそもそも興味がないクルスとホルスは既に脱落しており、その時間帯は三人で剣を振っているようだ。

 座学の知識はいざという時のために全員きっちりと教わっている。


 実際の採集は俺が探すべき薬草の種類を覚えてステータスで確認、他の皆は貰った薬草を参考にしつつ探し、正誤は俺が判断する形を取っている。



「変」



 ジンさんの訓練が終わり、5人がそれぞれ帰る別れ道まで一緒に歩いているとき、クルスが突然立ち止まってぽつりと呟いた。



「何がだよ。俺どっか変か?」



 そんなクルスに反応したのはマイスだ。

 すぐ前を歩いていた背の高い彼は、自然見下ろすような形でクルスに振り返る。彼女はそんなマイスをしっかりと見上げて見つめ返して答えた。



「マイスじゃない。ケイト」

「……俺?」



 なんかおかしかった?と他の面々に問いかけるが、皆首を横に振る。



「ケイトはいつも変だし今日が特別ってわけなかったけど」

「うっさい万年笑顔」



 人が良さそうな垂れ目で糸目のホルスが笑って顔に似合わない毒を吐き、俺はそれに毒で返す。

 真面目で少し神経質そうな感じになってきたヘインも首をかしげる。



「僕も変わらないと思ったけど、クルスは違うと思うの?」

「全然違う。皆鈍すぎ」



 クルスの物言いもこの三年間の付き合いのお陰で彼らに対しては全く遠慮がない。

 物言いも端的かつ的確なため、四人の心を抉るのが上手かった。

 これも成長なんだろうか。少しほろっとくるものがある。



「昨日絶対何かあった。何かまではわからないけど」

「あーそういや、おまえんとこ商人来る日だったんだっけ?」



 マイスが思い出したといった風に手をぽんと叩き、それを聞いたクルスがこちらを真っ直ぐに見つめる。

 少女らしく可愛らしい感じに彼女は成長しているが、その瞳は以前のことを考えると信じられないくらい強い。


 俺は左手で髪をわしゃわしゃと掻いて素直に話すことにした。

 隠しても調べればすぐにばれてしまうからだ。

 そうであれば誤魔化すのはマイナスでしかない。そもそも隠す話でもないことだし。



 明日は丁度休みの日、明日きちんと話す事を全員に約束してその日は別れた。




 翌日、俺達はクルスといつもは二人で釣りをしている川に歩いていく。

 約束のこともあるし家の近くで話して母さんに聞かれるとまずいからだ。


 適当な大きさの岩を椅子代わりにしてみんな適当に座る。

 気がついたらなぜか前後左右に四人は座っていた。尋問されているような気分だ。



「しかし、クルスは良く気づいたな。俺もいつもどおりしてるつもりだったのに」

「よく見てるから」



 苦笑いしつつ本当に感心する。

 しっかり見ているつもりだった俺より彼女は俺をよく見ているかもしれない。

 自分でも気づいていなかったことを指摘されるとは……。



「で、何があったんだよ」



 楽しそうにマイスが促す。

 彼の体は大人並になってきてるが子供っぽい好奇心が年相応に色濃く残っており、身を乗り出して期待に満ちた笑みを浮かべている。

 そんな好奇心丸出しの彼の顔は愛嬌があって嫌な感じはしなかった。



「何かあったって俺も意識してなかったけど、エルフに会ったからじゃないかな」

「「「エルフ!!!」」」

「……女の人?」



 声を上げて驚く三人と淡々と次の質問をしてくるクルス。男三人の反応とまるで違う。



「女の人だよ。話には聞いていたけど本当に綺麗だった。一回見たら多分一生忘れないと思うよ。いろんな意味で」

「ほ、ほんとそんなにか!く~~俺も見たかったぜ。何で呼ばねーんだよ!!」



 マイスが地団駄を踏んで悔しがる。まあ、大げさにやってるだけだろうが。

 後の二人も見たかったとうんうん頷いていた。


 だが、クルスの反応は違う。



「そう」



と、ただ一言呟いただけだ。そのあまりの重さに何故か冷や汗が背中を伝った。

 彼女は続ける。



「それだけじゃないよね?」

「あーうん。夜に投石の練習してたら眠れなくて出てきたから少しだけ話をしたんだ。俺が冒険者になりたいっていったら、頑張れーってさ。いい妖精さんだったよ」



 あんまり詳しい話をするわけにも行かず、内容をかなり端折る。

 クルスは少し考えるように頭を少しだけ傾げ、



「妖精……人じゃなく?」

「人じゃないし……エルフって妖精じゃないの?」



 よくわからないことを聞いてきた。

 俺の答えを聞いて何を納得したのかくすりと笑って、



「ならいいわ」



と、小さく呟いた。

 なんだかよくわからないがクルスがいいのならいいんだろうか。



「肝心の実力の方はどうだったんだ?手合わせしてもらったか?」



 マイスは組み手が大好きだ。というか戦う事が好きなんだろう。

 強い相手とやるのがさらに楽しいらしく、最近はガイさん相手に全力で挑んでいる。

 クルスの作り出した重い空気を諸共せず、彼はわくわくして抑えきれないといった感じで聞いてきた。



「してないよ。僕は何も視界を遮る場所のないところなのに、声を掛けられるまで後ろにいることに気づかなかったぐらいだし。勝ち目なんてあるわけないね」

「まじかよ。ううむ、流石現役の冒険者か!」



 マイスだけでなく他の面々も少し驚いたような顔をする。

 俺の気配を察知する技能は彼らより遥かに高い。森での訓練期間に一年以上の差があるからだ。

 相手の実力について話していて一つ話し忘れていた事を思い出した。これが一番重要なのに。



「そうだ。それで精霊魔法を教えてもらったんだ」

「うおおおおおおずりいぞおまえ!!」



 興奮気味なマイスは俺に叫ぶ。

 精霊魔法については、今日ジンさんに聞いてみたのだ。地のノーム、水のウンディーネ、風のシルフ、その他にもいろいろいるらしい。

 使い道もいろいろだそうである。残念ながらジンさんの仲間にはいなかったらしく、詳しくは知らなかった。



「そ、それは僕たちでも使えるのかい?」



 驚いた様子で早口に聞いてきたのはヘインだ。知識好奇心に火が着いたらしい。

 本を読んでいるときと同じ血走った目でこちらを見ている。



「残念だけど魔力がある人だけらしいよ。やり方は教えるから試してみたら?」



 魔力は誰にでもあるわけではない。大体10人に1人くらいの割合らしい。

 俺たちの中で俺以外に魔力があるのは、ホルスだけだ。


 俺が火を起こして一度見本で前に召喚したサラマンダーを呼ぶと、他の面々もやり方を聞いたあとで試し始めた。


 ラキシスさんにしてもらったようにも恥ずかしいのを我慢してやってみたのだが、結局ホルスもできるようにならなかった。相性が悪かったのだろうか。



 一人、また一人諦めていき、結局最後まで諦めなかったのはクルスだった。

 何度も俺に指導するようにいって精霊魔法を習得しようとしていたが、魔力が無いので当然発動はしない。それでも彼女は諦めない。


 子供とはいえ異性にそんなことをするのはかなり恥ずかしいし、クルスも多分そうだろう。

 そんなことをしても強くなりたいという上昇意識に感心しつつもなんだか申し訳ない気分になってくる。



 後ろから腕を回して顔を近づけて声を掛け、指に魔力を集中させるという照れくさい行為は、昼になって飽きた他の皆が食事の準備を済ませて呼びに来るまで続いた。




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