表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/174

第七話 出港




 翌日、準備を整えて待ち合わせ場所に指定されていた港へ到着すると、ウルクと兄達は一隻の船の前で既に待っていた。


 俺達が近づくと、ウルクは駆け寄ってきて泣きそうな顔で俺の手を両手で掴む。

 涙目で上目遣いされると妙に女っぽくみえるため、俺は全力で身体を後ろに引いた。


 何だかこの人は嫌いじゃないけど苦手だ。



「ケイトさん達も来てくれるんすね!」

「ま、まあ、成り行きで。よろしく」

「心強いっす! カリフ様も若いのにいい腕だって言ってたし!」



 カリフ……確か、ウルクの上司らしい身体のがっしりした水の神の神官か。

 買い被られてるな……と思う。確かに年の割にはいいのだろうが。



「それで、私達が乗る船はこれ?」



 好奇心を抑えきれないといった表情のシーリアが、兄達の傍の船へと近づいていく。


 港には大小様々な船が停泊している。

 小さな船は2、3人乗りだろうかと思えるボートのような船で、大きなものでも俺の記憶にある客船のような巨大なものではなく、精々遊覧船といった感じだろうか。


 シーリアが興味深そうに見ている俺達が乗り込む予定の船は、クルーザーくらいの大きさだろうか。十人も乗れば窮屈になりそうな広さしかない。



「思ったより小さい」

「湖は浅いところが多いすから、あんまり大きな船は無理なんすよ」



 呟いたクルスにウルクは笑顔を見せながら答え、全員に船に乗るように声を掛ける。

 用意は既に出来ており、いつでも出発できるようだ。



「見た目以上にしっかりした船だね」

「そりゃそうっすよ。これでも一応、軍船すからね」



 繋がれている船に飛び乗ると、木製で軽そうに見えて意外と安定していることがわかり、内心驚く。俺の体重程度では揺れが殆どない。

 慣れてないお陰で、それでも立つとふらついてしまうが……そんな俺を見て、ウルクはしっかりと立ちながら、余裕そうに笑顔を見せていた。


 話を聞くと『湖の民』である彼は船と共に生きてきたような人間らしい。お陰で今回の任務を命令されてしまったのだと苦笑いをしていたが……。


 船の内部には荷物を収納するスペースがあり、船尾に当たる部分には何だかよくわからない機械らしきものも設置されている。


 オールらしき棒は収納庫に何本か置かれていたが、ウルクはそれを外に出す気配はない。あくまで予備的な物なのかもしれない。


 収納庫には網等の漁のための道具や何本もの銛等も無造作に置かれていた。

他にもロープに鍵爪の付いた道具や、長い木の板などがあり、軍船として海賊の船に乗り込むことも念頭に置いていることを考えさせられる。

 使用用途不明の道具などもあり、この辺りの使い方は後で確認する必要があるだろう。


 食料や何かの餌らしき団子状のもの、釣竿、水の入った樽など、戦闘以外で使いそうな物も多めに準備されているようだ。



「ケイト。船楽しい?」

「クルスも楽しそうだね」

「うん。船はどうして浮くのかな。不思議」



 ウルクが船を出す準備をしている間、好奇心の赴くままに船を調べていた俺にクルスが声を掛ける。彼女も船については楽しみにしていたのか、歩き回ったり、色々と触ったりしていた。


 船に乗った経験のある兄達や船について知っているらしいシーリアはそんな俺達を呆れるように見ていたが……元々知らないことを知ることを楽しみに冒険をしているのだ。


 今回のような体験は俺にとっては旅の一番の目的なのである。

 まあ、単純にこう……冒険心がくすぐられるとかそんな感じなのだが。



「どうやって動かすのかわからないなぁ」

「うん」



 俺はクルスと顔を見合わせて首を傾げ合う。

 暫く二人でそうやって首を捻っていたのだが、やがてクルスはくすりと小さく笑った。



「ケイトは何でも知ってると思ってた」

「そんなことないよ。知らないことだらけだ」



 わからないのに明るい表情の俺を見てクルスは俺を探るように見つめ……そして、答えを見つけたのか小さく自分の手を叩く。



「だから楽しい?」

「そうそう、世の中楽しいことだらけだよ。一緒に色々見て回ろうな」

「……うん!」



 他の人には見せない歳相応の輝くような笑顔でクルスは頷く。

 探索を切り上げて甲板に上がる前に、俺も彼女に笑顔を返した。



 甲板に上がると船首でウルクが四本の丈夫そうな紐を金具に括っているところだった。その四本の紐は中間の金具を通して前と左右の湖の中に消えているようだ。


 そんな彼の作業を兄達やシーリアはただ眺めている。手伝わないというよりは、ウルクの手際があまりにいいので任せているといった感じか。



「終わったっす! アリスさん……見ててくれたっすか!」

「お疲れ」



 最後の紐を括り終えるとウルクは飛び上がって、近くにいたアリスの方に走って手を取ろうとして……自分の手が汚れていることに気づいたらしく、引っ込める。

 背の低いアリスはそんな彼を見上げながら、面倒臭そうに呟いていた。


 それでもウルクはめげることなく、今度はこちらに走ってくる。

 足取りは安定していて、彼にとっては陸にいるのと変わらないようだ。



「お疲れ。船、結局どうやって動くのかわからなかったよ」

「あーふふふ。そりゃわかんないっすよ! ちょっと呼びますね?」



 ウルクは自信あり気に笑うと、船首に立ち胸を反らせて口を開く。



「……痛っ」



 俺には何も聞こえないが、シーリアは片目を瞑って耳を抑えている。

 他の皆は俺と同じように何も聞こえていないようだ。



「僕達の仲間っす。人間は道具使うんすけど、『湖の民』は彼等と会話できるんすよ」



 ウルクが指を指したその先には、魚……いや、大きなイルカのような生き物が前方に二匹、湖面から顔を出して俺達の方を向き、ヒレを振っていた。



「可愛い」

「これが、『レイクホエール』……初めて見たわね」

「この船には四匹いて、後の二匹は左右にいるっす」



 レイクホエールの身体は黒と白の二色で構成されていて、一匹一匹適当に黒白でわけているかのように模様が全然違う。かなり大型で力は強そうだ。


 顔を出した前に二匹にウルクは団子を投げ、船首から顔を近づけて労う。

 オールも帆も必要ないわけだ……彼等が引っ張ってくれるのだから。



「その紐の先にレイクホエールはずっと繋いだまま?」

「仲間なんだからそんなわけないじゃないすか。船動かすときだけっすよ。その時だけ、彼等を呼ぶんす。で、この紐で細かい指示を出して、湖を自在に駆けるんすよ」



 レイクホエールについて語る彼は誇らしそうだ。

 船に乗るまでは暗い顔をしていた彼も、船に乗った後は明るい表情を見せ、俺との会話も程々に、きびきびと船上を動き回っている。船が好きなのだろう。



「予想外だったなぁ。これは」

「楽しそうね」



 一人でぼやいていると、全然楽しそうではない口調でアリスが声を掛けてきた。

 俺は苦笑して頭を掻きながらも彼女に頷く。



「楽しいよ。この世界は何もかもが珍しいし」

「まやかしよ」



 つまらなさそうにアリスは俺を否定する。

 俺は彼女を少し見つめた後、ゆっくりと首を横に振った。



「現実だよ」

「現実なのに楽しいの?」



 不思議そうにこちらを見つめてきたアリスに俺は頷く。



「現実だから楽しいんだよ。頑張れば一歩ずつでも進めるから」

「そう……?」



 納得したのかそうでないのか、わからない疑問のような声でアリスは呟くと、彼女は興味がなくなったかのように後ろを向いて船尾の方に歩いていった。


 アリスの小さな背中を見つめながら、『呪い付き』について、俺はどうしても考えてしまう。何故、彼女やサイラルのようにこの世界を否定するのかを。


 彼等が特別なのか、俺が変なのか……どちらなのだろうか。

 どちらにしろ、俺は変わらないけど……。



「おおー船が動いたわね! どれくらいの速さなのかしら」

「うちのレイクホエールは超優秀っすよ!」

「偉いのはレイクホエール。ウルクが自慢することじゃない」

「クルスさん、酷いっすよ! 僕はちゃんと彼等に指示してるんすよ!」



 楽しそうな彼等を見ながら俺は、否定しながら暗く生きるより、現実を受け止めながらも明るく生きよう……そう考えていた。


 船が疾走することで出来る、正面からの湖の風を感じながら。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ