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親友な僕ら  作者: えるもんて
志を織って恩を着せる
8/12

恐怖の姉、純白な妹


僕はある男が一人走っていく姿を夢で見た。

 千鳥足のような気もしたが、それでも確実に前へと進んでいた。

 あ。『一人』という表現は間違っていたかもしれない。

 正しくは『二人』。多分そうだったはず。

 男が進んでいったのは明日。

 それはそれは、明るい未来が待っていそうな明日だった。


僕はこれで良かったんだ。

 少なくとも役には立ったと思う。

 一つの親子の出来事。共感できるところもあり、重なることもあった。

 彼はこれから幸せにやっていけるだろう。


胸ポケットに差してあるシャープペンシルを見れば解る。





「なぁ明人。幸せって信じるか?」

 いつもの放課後。一輝がまたそう切り出した。

「前も言ってたけど、気持ち悪いよ!」

 本当に気持ちが悪かったので思い切り言ってしまった。

「んだよその顔は」

 17年史上で26番目くらいにいい笑顔を見せたのにヘッドロックを喰らった。

「ぬぅぁぁぁー…」

「こいつら馬鹿か」

「いや、愛理。ここまでくると『あからさま馬鹿』だ」

「そうか。こいつらはあからさまに馬鹿なのか」

 愛理と孝介が絞められる僕を眺めていた。

「な…納得しないでよ…!」

 外からは運動部達の声が聞こえてくる。

野球、ラグビー、テニス…。様々な部活動が汗をかき、青春を謳歌していた。

 なのに僕は何をしているんだろう。

 何気ない日々を送っていって、青春なんか謳歌したことがない。

 まぁ、孝介たちといると必然的にそうなるんだろうけど。

「一輝、ホモごっこはそれくらいにしておけ」

「誰がホモだ!ナルシスト!」

「だから、まだ半人前だと言ってるだろ?」

 『まだ』って何!?一人前になっちゃダメ!ゼッタイ!

 しかし、そのナルシストもとい孝介のお陰で僕は一輝の腕から解放されることとなった。

 孝介が教卓の前に座ると、前の席に僕と愛理と一輝の三人がいた。

 まだ三人。あと一人、足りないんだ。

「さて。事件は解決したが、まだ願い事はこんなにある」

 教卓に大量の紙切れを入れた袋が置かれる。

 『キミの願い…叶えてしんぜよう!by篠原BOX』…だったか?

そんな感じの箱には相変わらず溢れんばかりの紙切れが大量に押し込まれていた。

「だが、問題があってだなー…」

 もうなんか大体分かる。

「愛理。これから俺の質問に何かしらの対応をしてくれ」

「うん、わかった」

 まともな依頼をする奴なんてまずいない。

 永本君が特例だっただけだ。

「食堂にイカスミ杏仁が無いなんて怪しいと思います」

「その前にまずお前の味覚を疑え」

「フリマにブルマを販売するのはどうですか」

「何のフリマだ!」

「メロンとキュウリって瓜二つなんじゃないかぼちゃ?」

「色々とややこしいんじゃ!」

「食堂でかき氷(鷹の爪味)が発売されないなんて…ようやく怪しくなってきましたね」

「いやだからお前の味覚を疑え!」

「何故、俺は格好いいんだ…?」

「それお前だろ」

「そこだけ冷めるな」

 傍から見なくても奇妙な二人のやり取りを聴いているだけでBOX状況はひどい有様ということが判った。

 愛理、お疲れ様。僕の掛けてやれる言葉はそれだけだ。

「とまぁ、こんな感じなんだ」

「早々に傘部は廃部だな」

 縁起でもないことをさらっと愛理が言い放った。

でもあり得ない話ではないから困る。

「だからもう逆にランダムでいこうと思う」

 一つ紙切れを取って見てみたがやはりまともな依頼は無い。

その中から選ぼうというのかこの男は。

 というか『逆に』の意味が解らない。

「そんなこんなでー…呼ばれてないけどジャジャジャジャーン♪」

 孝介の足もとから又もやBOXが登場した。

出来ることなら、呼ばれてないのに出てきて欲しくなかった。

「名付けて!『当探偵局は 皆様のご依頼によって成り立っておりますBOX』だ!」

 どこかのローカル番組?っとか言う気分にもなれなかった。

「シャッフル、シャッFOOOO!!!!」

 孝介のこのテンションを蔑んで眺めることしか僕には出来なかった。

 新しいBOXに紙切れが大量投下される。

箱から箱に移るその白い紙は雪崩のようにさえ思えた。

 移す際に溢れ出た分は処分という形になる。

「さぁ引け!明人!」

「何で僕が?」

「お前が新世界を切り開くんだよ…!」

 恐らく適当になったんだろう。代表として僕が引くことになった。

 愛理、一輝の表情を見ても、全然反対する気配を見せない。一輝に至っては放心状態だった。

「反対意見は無いようだね…、何が起きても知らないよ…!」

 もう無茶くちゃだった。自分でもよく分からない台詞を吐くと、愛理が『しまった』と言わんばかりの顔をした。

はっはっは!いい気味だ!

 …もう、どうかしてるや。


 さて。結論から言うととんでもない物を引いてしまったのかもしれない。

「どれ、見せてみろ」

 孝介に引いた紙切れを押収される。

 『私の妹は可愛いに決まってるのよ』

 本当にそう書かれていただけだった。…いや、それだけというのは間違っている。

「高濱…志織だとぉ!?」

 丁寧に氏名まで記入されていた。

 『高濱志織』。

孝介のことを忌み嫌い、孝介自信も苦手としている。

孝介とは同年代、所謂僕たちの一つ年上に当たる方。

一つ下には妹の志恩がいて確か隣のクラスだったか。

有名な話で、相当なシスコンということを耳にしたことがある。

 まだ本人が書いたとは特定できていないので、この紙切れは本物がどうかは解らない。

 誰かが悪戯で書いた可能性も、

「この筆触…本物じゃねぇか!」

 あ、本物らしい。

 筆触で分かるほど苦手なんだろう。

「男に二言は無いよな?」

 にぃっと意地悪い笑顔を浮かべる愛理。相当この状況が面白いらしい。愛理の笑顔(?)は久しぶりに見た。

「ちっ…。いや、しかし血は騒いで来てるぜ」


そもそも何故、高濱詩織が孝介のことを嫌いなのかが分からない。

 昔っから嫌いだったような気もするし、つい最近嫌いになり始めたかもしれない。

 どれだけ無邪気な表情の孝介でもふと高濱志織の話になるとトーンダウンする。

 妹の志恩の方は一年生の時に同じクラスであったことから、結構親しい。

今は違うクラスということもあり、あまり話はしないけど…。

 いい子だった印象が強い。

同級生なのに敬語を使い、常識があって美少女。告白も何度もされているらしい。

 僕にとっては高嶺の花の存在であり、このままの関係を望んでいる始末だ。僕には無理無理。


次の日。早速、任務が遂行されることとなった。

 しかし、何故か孝介が乗り込んでいったのは2-2。僕のクラスの隣だ。

「高濱。今日はお前に確認を取りに来た」

「私…ですか?」

 放課後ということもあって帰宅準備をしていた高濱『志恩』にとっては唐突であり、呆然としていた。

「ちょっと!孝介!何で妹の方なの!?」

「馬鹿野郎。ヒトは誰しも『慣れ』ってのが必要だろ」

「訳わかんないよ…」

 高濱はぼんやりとただ立ち尽くしていた。何が起きているのか解らないのだろう。

 僕だってよく解っていない。

「孝介落ち着け。もう慣れたか?」

 愛理が割って入ってくる。

「俺は最初から大丈夫だ。問題無い」

「大丈夫なんだな」

「篠原ぁ?…私の妹に何のようなの?」

 孝介が振り返ると、高濱『志織』の方がそこにはいた。

「まさか…私の可愛い妹に手を出すなんて野蛮な真似を…」

 妹の方で慣れたのかは別として、何故か冷静な目で姉を見つめる。

「……何よ」

「ここで会ったが100年目。付き合ってください!」

「っ!なっ!?」

 なんということでしょう。

いきなり孝介が高濱志織に告白を?

 孝介が高濱志織に会ったときは大概言い争いが勃発するはずなのに…。

 高濱志織の表情は何とも言えない顔だった。少し恥ずかしいのか、顔が紅潮しているようにも見える。

「おうおう。どういう展開だこりゃ」

 一輝も不思議そうな、気持ちの悪そうな顔をしている。

「私は…、私はアンタのこと…」

 放課後ではあったが、教室にはまだ少々の人数は残っている。

 視線は孝介に釘付け。中には頭を抱えて絶望している女子もいた。

「だいっきらいよ!!」

 うん。まぁ多分そうだろうなとは思ったけど。

「…ふふ…。ふはっはっはっは!!」

 壊れたのか、孝介は急に高笑いし始めた。

「馬鹿かぁお前はぁ!俺がお前を好きになるとでもぉ!?」

 うわぁ…。この瞬間、孝介の男としての株が大暴落した。

何より、言い方が最低である。

「うぐぅ…!!」

「顔も赤くしちゃって、可愛いとこあるんだな」

「いやぁぁぁ!!」

 

 どうやら言い争いどころか、内戦が勃発してしまったようだ。

拳や蹴りが目の前を行き来する。

「ごめんね。高濱」

「ううん!全然大丈夫ですよっ」

 とりあえず高濱に謝っておく。勿論、妹の方に。

姉の方は交戦中なので、今後謝っておくことにしよう。

 …ん?何で僕が謝ることになってるんだ?

「それで私に何の用だったんですか?」

「いや、ホントはお姉さんの方にあったんだ」

「あぁ、いつものやつですか」

 ふふふと可愛らしげに笑う。

 孝介は姉に会うたびにしばしば交戦を持ちかける。

でも、姉の方からも吹っかけてくる場合もあり、何というか、どっちもどっちというか…。

「あのー…明人くんごめんなさい」

「え?」

「お姉ちゃんも悪い時もありますし、その度に明人くんに迷惑かけるし…」

 本当妹はいい子だなぁ。これっぽちも悪いことをしていないのに、寧ろ巻き込まれているだけなのに謝るという妹の精神は見習わなければいけない。

「いやいや、問題ないよ」

 出来る限りの笑顔で答えてみた。

 癒しの空間を堪能していると、愛理に制服の裾を引っ張られる。

「行くぞ。明人」

 孝介は置いていくようだ。僕もその方がいいと思う。

「そうだね。じゃあまた」

「はい。失礼します」

 名残惜しい所もあるが、高濱も下校しようとしていたのだ。これ以上引きとめる理由も無い。

 相変わらず孝介と姉は交戦を続けているわけで、ここは僕たちも引き上げるのが賢明だ。

「じゃあね、孝介」

「おい!俺を置いていくな!」

 姉のローキックをよけながら訴えかけてきた。

少々心痛いところはあったけど、まぁここは仕方ない。

「じゃあね、お姉ちゃん」

「え、ちょ…!待ちなさいよ!」

 妹の方も置いていくようだった。

 …でもちょっと気になる。

 僕と妹の高濱志恩と同じクラスになったのはちょうど一年前の一年の頃。

その頃から姉が帰りを迎えに来るほどベッタリだったかというと、多分そうでなかったような。

 曖昧な記憶だけに断定はできないけど、最近になってよく隣のクラスに姉の高濱志織を見かけるようになった。

 それに、今の顔…。

 先ほどまで僕に見せていた弾ける程の笑顔が失せていた。

「志恩ー!」

 姉の叫びも空しく、妹は背を向けて遠ざかっていくのであった。


「明人。高濱志恩が好きなのか?」

「ぶぅっ!」

 愛理が突然にもそんな幻想的なことを言うんもんだからそれは大層仰天した。

休憩がてらに飲んでいたお茶を噴き出しそうになる。

「な、なんでさ…」

「顔がゆるゆるだ」

 そんなに緩んでいたのかな…。確かに癒しの一時ではあったけど。

 高濱が彼女になればって想像しようとするけど、あまりにも似合わないのでやめておくことにした。

「ったく、頭の中はまだ春だな」

 嫌味を含んだ言い方をするのは一輝。

ただ、一輝だけには言われたくない一言だった。

「よく言うよ」

 頭が悪いというのは勿論のこと、一輝にも女子の匂いがあるのだ。

「へっ。あいつはちげーよ」

 と言いつつもドヤ顔。素直にやめてほしい。

 一輝が言う『あいつ』とは、…僕もよく分からないんだけど、『さざなみ』と一輝が呼んでいたのを聞いたことがある。漢字で書くと『漣』、『小波』と言ったところだろうか。

 身長はとても小さく、たまに一輝の左肩に乗っている。謎の多すぎる人物。

 一輝のことを『隊長』と呼んでいたり、『倅』や『先輩』などとも呼んでいた。

 一つ下の一年生ということと、どうも訳が分からないテンションの持ち主だったのを覚えている。

僕もまだ数回しか目にしたことが無いし、何とも言えない。

「あの子何て名前なの?」

「さざなみだよ」

「上の名前は?」

「うーん…、うーん…」

 もしかして分からないのか。肩に乗っけておきながら。

「こいつの記憶力が無いだけだろ」

 横から愛理の矢のような言葉がかけられる。

「うるせぇ!何だ!?やんのか!?」

 何故そういう発想になるのかはもう理解できない。

 でも愛理となので心配する必要はないみたいだ。



「貴様ら。篠原兄を置いていくとはいい度胸しているじゃねえか!」

 と声を張り上げて孝介が入ってきたときには一輝はボロボロになっていた。




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