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親友な僕ら  作者: えるもんて
永遠な本物の望み
6/12

内に秘めた過去


「永本君はどこにいるかな」

「知らない」

 チーム編成は僕と愛理の二人になった。

 正門を出たところで孝介たちと二手に分かれたのはいいけど、このだだっ広い町のどこを探せばいいか判らないでいる。

「だろうね」

「ただ予想は出来る」

 予想か…。

とんでもないものでないことを願う。

「お墓だ」

 愛理は人差し指を立てると自慢げにそう言った。

「…は?」

 恐らく永本君の両親のことだろうとは思うけど。

だったとして、何故このタイミングで?

 年忌とか?それだとしても連絡の一つくらい…。

「違う、か?」

「…」

 だけど、愛理のこの予想は否定できないでいた。

 だんだんそんな気がしてきてしまう。命日で無いにしても。

「…そうかもしれない」

「だろっ?」

 僕がそう認めると、嬉しそうに笑う愛理。

そこには可愛らしい無邪気さを感じた。


大体。この問題には『永本君の両親』というのはキーになっているはずだ。

 何かしら今回は親だのどうのこうの絡んできている。

 僕の仮定が正しいとすれば、永本君のお母さんがいつ亡くなったのか、ということになるけど。

これに関しては、孝介が一番最初に僕に与えてくれた情報が引っ掛かっている。

『中学校の時は成績優秀、英才』。

だけど今は僕と地理で欠点を取っている。だから高校へ入学する前に何かあったと思っていた。

 そこから『僕の仮定』と『高校入学前の出来事』という言葉から、新たな仮定が生まれる。

『永本君のお母さんは高校入学前に亡くなったかもしれない』ということだ。

 真実か判らない仮定でも、いくつもの仮定が積み重なっていくと真実になる。

孝介が僕に諭してくれた言葉だ。

 段々とではあるけど、真実に近づいていっているのかもしれない。



「電車なんてなかなか乗るものじゃないね」

「そうか?私は前にも乗ったようなことがある気がするぞ」

 平日のまだ夕方にもならないくらいの時間帯。

 車内は驚くほど人影が無く、静まり返っていた。僕と愛理しかいないくらいに。

 校舎から最寄りの駅までは徒歩で15分くらい。家を購入する際にはそのくらいの条件だと有り難く感じる距離だ。

 駅から最も近い墓場なんて、断然分かるものではない。

 ではどうして電車に乗っているのか。

 それは、行く当てがあったからだ。

「それにしても、どこまで行くんだろうね」

「シャーペンマニアだからすごいとこまで行くんじゃないか?」

 二両先には永本君の姿があった。

 僕たちがちょうど駅に到着したとき、私服姿の永本君を発見したのだ。

「というか訊けばいいだろ」

「訊きたいところだけどね…」

 永本君の行き先。そこが気になって仕様が無い。

 もし僕たちが急に現れたら、またはぐらかされてしまうだろう。

 それでは意味ないんだ。

 永本君は一点をずっと見つめているようだった。

あ、いや、二両先だからよく分からないけど。



孝介達にはメールを入れておくと、一輝から『やったなっ!(笑)』と返ってきた。

 その一文には一輝の嬉しさなど、プラスの思考がひしひしと伝わってくる。

 そして、永本君の方はというと全く降りる気配が無い。

 流石に日も暮れ始めようかとしているのに。

 最初の方は適当に時間が潰れていったけど、暇を持て余してしまう。

 周りの景色の様子を見ると段々と建物が無くなってきていた。

「愛理。ジャンケンしようか」

 あまりにも暇すぎて孝介のような発言をしてしまった。

 因みに『意味の無い言動』のことをいう。

「ん…」

「なぁ、あい―」

 最初はグーのグーのポーズまでしてしまったとき、愛理は眠りに落ちていた。

 普通に寝ているのなら構わない。いや、普通に寝てるから駄目なんだ。

もう自分自身何言ってるか分からなくなってきたぞ。

 その、なんだ。今、愛理が相当可愛く見えてしまっている。

「愛理ー?」

 僕がそう言っても勿論ながら返答はない。

 静かな寝息を立てて眠っているその横顔を何とも言えない愛らしさがあった。

「んぅー…」

 電車の揺れによって愛理の頭が僕の肩に乗っけられる。密着する小さな体。

ありがとう電車。いや、この場合はこういう揺れが起きるようになっている線路に感謝すべきなのか。

 …何言ってるんだ、僕。

 さっきから鼓動が止まらない。

 小さい頃からこういう偶にドキッとするときがあったけど、このケースは初めてだ。

大人っぽさが増しているのに可愛さもあって…、頬なんてすごく柔らかそうだ。

 じっと愛理の顔を見ていると、こう、胸がくしゃくしゃになってくる。

「あいり…」

 見つめていると色々なことが分かる。

 顔が整っている、ノーメイク、綺麗な肌。

 小さい体、シャンプーの匂い。車内は僕と二人きり。

 …いやいや!何を考えているんだ僕は!

 こういうときは、そう。裁判をしよう。


『というわけで、脳内裁判を開廷する。今回は「密着する愛理をどうするか?」だ』

『これは一種のチャンスだ明人。この機会を逃してどうする?』

『貴様は馬鹿ですか。愛理は確かに可愛い、ですが、今まででも手を出したことがありますか?』

『は?何言ってんだ?誰も「手を出す」なんて言ってねぇんだけどな』

『しまったぁ!』

『けっ、お前にもそういう心があるってことだ、あきらめな』

『で、では、どこまで手を出す気なのですか…?』

『そりゃもちろん…にゃんにゃんしちゃおうぜ!』

『にゃ、にゃんにゃんだなんて!そんな卑劣な!』

『男ってのはな、時には獣にならなきゃいけねぇ時がある…』

『……確かに…今のこの世。草食男子が蔓延んでしまっています…』

『『今こそ立ち上がれ。明人』』


…何だこれ。

 最後の方、協力しちゃってるじゃないか。

 とか心の中で思っている中、思わず僕は手を伸ばしてしまっていた。

 草食系男子より、肉食系男子でしょ!

「なんだ二人して。俺に見せつけに来たのか?」

 頬に触れるまで3センチ。

我に返ると、花束を持っている永本君が目の前で唖然としていた。

 頭の中が真っ白になる感覚が分かる。

「…愛理には言わないでください」

 冷たい目線を前に、僕が苦し紛れに言えた一言はそれだけだった。



「仲がいいことで」

「何言ってるんだ?」

「なんでも無いよ愛理。そう何でもないの」

 すがる様な目で永本君に訴えかけた。

 駅に着くとそこは田舎の中の田舎。何一つ無かった。改札機があることに違和感を感じるほどに。

「まぁいい。ところでここはどこだ?」

 愛理はまだ車内からの景色が都会だった内に寝てしまったらしく、覚醒すると周りに何もなかったことに大層驚いていた。

僕も驚いた。

「ここは母さんが生まれた町なんだ」

 そうさらっと永本君は告げる。

 …ということは墓参りの可能性が一気に真実へと近づく。ここまで来ると流石の永本君でもしらばっくれることは無かった。

愛理の予想も捨てたもんじゃないな。

 数十分歩くと、墓が密集している場所へとたどり着き、愛理の予想が当たることとなった。

 密集しているといっても4、5基くらいで小規模である。

 『穂積家之墓』と記された墓で永本君は足を止めた。お母さんは穂積、お父さんが永本、なのだろう。

 持っていた花束を綺麗に整えると、バランスを考えて供えていった。

「ここがお母さんの?」

「あぁ」

 永本君がそう肯定したとき、僕の『仮定』が『事実』になった。

 今、両親がおらず、後見人の元で育てられているということだ。

「『穂積』っていうのか」

「あぁ」

 線香の匂いが僕の鼻を擽る。

 墓は思った以上に綺麗にされていた。誰かが半年も経たないうちに来たみたいだ。

 永本君が合掌を始めると、続くように僕と愛理も手のひらを合わせた。

「…」

 永本君のお母さんってどんな人だろう。

 ふとそんなことを考える。

 クールな人、冷静沈着な人、落ち着いている人。

まず最初にそんなイメージが思いついたがあまりピンとは来ない。

 意外と活発だったりして。かなりポジティブな。

 まぁ、永本君自体が謎なわけで。さらにそのお母さんとなると、もっと謎めいている。

「…ふぅ」

 一息ついて目を開けると、永本君はまだ目を瞑っていた。

 愛理の方はとっくに合掌を終えていたが、永本君の方をじっと見つめている。

 何を考えているのだろうか、愛理はずっと永本君を見つめていた。

 その顔は不思議そうにしている感じにも見えるし、何か悲しい表情にも伺えた。

「…すぅー…ふぅー…」

 深く深呼吸をした後にゆっくりと瞼が開けられる。

その目は電車を乗っている時に見た目のようにも感じた。

「よし」

 ようやく合掌を止めたかと思ったら、いきなり墓の前に堂々と座り始めた。


「話すぜ。全てを、な」



―――――――――

【By Nagamoto】


小宮山は拍子ぬけた顔で突っ立っていた。

 松坂の方はそうでもないらしい。

「結局。お前は、両親がいないんだな」

 最初に質問してきたのは、意外にも松坂だった。

「そうだ。父さんは俺が生まれてから雲隠れ。母さんは亡くなった」

 …案外考えてんだな松坂。

シャーペンマニアばかり気がいってるのかと思ったらそうでもないようだ。

「あの、そのお母さんはいつ亡くなったの?」

 やっと我に戻ったのか、はっとした表情で俺に質問してくる。

 母さんがいつ亡くなったか。

「そうだなー…あれは確か…」

 そんなこと忘れるはずもない。11月の寒い時期だった。

「進路相談が始まったあたりだったか?」

「いやいや、こっち訊かれても…」

「悪い悪い。中学が終わるころだよ」

 ついつい曖昧な感じで言ってしまった。流石に終わらしてもらわねぇと困るのにな。

「あれは運が悪かった。病院へ駆けつけたら暴れちまったよ」

「運が悪かった?」

「あぁ。医療ミスだ」

 母さんが亡くなった理由は医師の手術ミス。まぁ、人間なんだから必ずしも失敗なんざある。

「とにかく暴れたな。頭は真っ白だったが、殴っては無いはずだ。うん」

 他の医者や俺らの遺族に止められたような気がする。そんなことはあまり記憶には無いが、

その時の担当の医師の苦痛な表情は今でもはっきりと覚えている。

その顔を思い返すだけで前までは苛立ちが出てきてしまったが、今は全く正反対、慈悲するばかりだ。

「そっか…」 

 小宮山は顎に手を当てると唸り始めた。相当考えているらしい。

「お前、何でブレザー着てるんだ?」

 隣で一生懸命唸っている小宮山を置いて質問してくるのは松坂だった。小宮山が『ああもう』と悔しそうな表情を作っている。

「あれはな。感じんだよ、母さんをな」

「は?」

 胸に手を当てて説明してみたが松坂には通じてなかった。まぁいいや、恐らく小宮山なら解ってくれるだろう。

 あのシャーペンを胸ポケットに差していると、母さんをいつでも感じることが出来るような気がしたんだ。

 頑固で意地っ張りだけど、優しい思いやりのある人。

そんなことを毎日、明くる日も明くる日も感じることができたんだ。

「他には?」

「あ、そうだ。大事なこと訊いてなかったよ」

 ぽんと手をたたいているあたり、どうやら閃いたらしい。

「そのシャーペンってさ、いつ無くしたの?」

「さぁ!?」

「いやそんな投げやりに訊かれても!」

 っとは言われてもだな…。本当に分からないからお前たちに頼んでるんだ。

「分かることは、母さんが生きている間はあったことだ。これは確かだ」



俺は母さんがいなくなってからは生き甲斐が無くなったような気分になった。

 何を目標にして俺はどこに向かえばいいのか。全くもって分からない。

 ふらふら心の中で彷徨っている内に後見人が決まり、顔見知りの親戚がやってきた。

 進路は一番近い高校にした。偏差値はそれなりにあったし、その頃の俺なら十分受かれる場所だった。

 だが高校に入ってからも身の入らない生活が始まってしまう。

 一年のある日、クラスのみんなとは当たり障りのない関係を目指していき、その通りになっていたころ、テストの返却をしていたときだ。

目に飛び込んできたのは中学では見たことない数字。

返却されて自席へ戻ろうと重い足を動かした時、ひとりの男子と目が合った。

そいつは俺の点数が見えたのかは知らないが、苦笑いを浮かべるとゆっくりと点数を露わにした。同じ点数だった。

 それから度々そいつと話すことが多くなった。他愛の無い話ではあったが楽しかった。

 その時やっと思い出した。この感覚に。

 隣に誰かいるという感覚。

 中学からこれと言って親友と呼べる奴なんて一人もいなかった俺からすると、そいつは親友のようにも思えた。

 そいつは俺だけでなく、でかい二人の男やら小さい女子やらイケメンの先輩やら。友達が多い。

 そいつには友達がいる。友達と一緒にいるときのそいつは幸せそうだった。

 それから後見人の人には自分で生活出来るからといって自宅へと帰ってもらい、自分一人で生活するようになった。

 狭い狭い家で一人になってふと思い出した。

 それが母さんから貰った、生活費を削ってまで俺のために買ってくれたシャープペンシルだった。

 俺からすると色々な思い出が詰まっているその一本のペンを探すこと。

 まずそんなことから道を見つけようと思った。

 長い間探したような気がする。同じ所だって何回も何回も探した。ないことが分かっていても探した。

何かこの世界の歯車が狂って、すぐに見つからないか。そんな無駄な希望さえも抱いた。

 見つかるわけがない。俺はやっぱり助けを求めるしかなかったんだ。そいつに。


小宮山明人に。



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