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親友な僕ら  作者: えるもんて
永遠な本物の望み
5/12

過去と未来と現在と、

「小学校の時はね、こういう机の隙間とかに…あったんだけどなぁっ!」

 勉強机と壁の隙間に手を突っ込んでみる。

 無いと思いながらも手を突っ込んでみたものの、実際に無いともの悲しい。

「一応そこら辺は探したぞ」

「そうらしいね…」

 まぁそんなことは分かってたけど…。

 大事なシャーペンだし、家には絶対と言っていいほど無いはず。

僕達に依頼するほどなんだ。家中探し回ったと思う。

 じゃあ何で僕は永本君の家に着たのか。

 それは昨日言ってた『情報』を集めにここへ来たんだ。

「家にはありそうかな?」

「んー…どうだろうな」

 あくまでも永本君はそう言うけど、永本君には確信があるんだろな。見つからないって。

 永本君の家はそう広くはない、1LDKだった。

「えっと、永本君は一人暮らし?」

「今はな」

「昔は家族でここに?」

「そういうことだ」

 過去形で永本君はそう言う。

 とは言っても、この広さで家族はちょっと狭すぎるような。

 1つの部屋には勉強机と引き出し付きの本棚があるくらい。ダイニング兼キッチンであろう部屋には、生活が可能な最低限の電化製品と卓袱台が一つだけ置かれていた。


 家族、か。

 僕も『家族だった』という人の一人だ。

 失ったものは大きかった。両親という人物がいないだけで、こんなにも不便になるとは思わなかった。

確か、お父さんのお母さんに当たる人に育てられたんだったかな。

 それでも、孝助達と出会ってからというものの、ずっとお世話になりっぱなしだったことを覚えている。


「永本君の家庭って母子家庭なの?」

 そう訪ねた瞬間、少し永本君の眉がひそめられた。

「…そんなことを聞いてどうするんだ?」

「いや、僕もそんな感じだったからさ」

 僕の場合は母子家庭とは言わないけどね。

「まぁ…母子家庭だったな」

 また過去形。引っかかるな。

 昔はここにお母さんと住んでいたのに、今はそのお母さんが出ていった形になっている。

 流石にそんなことはデリケートな部分だから聞けるわけがない。

そこは聞いてはいけないのがマナーだと思う。

「そうなんだー…」

「……」

「……」

「……」

 話終わったぁー…。

 まぁでも情報はちょっと集まったのか、な。

 というかこれだけの情報だったら、別に外でも聞くことが出来たな…。

「あーあのさ。永本君は何でどうしてもそのシャーペンが必要なの?」

「だから頼んだんだけどな」

「その通りでした」

 机の下や電化製品と壁との間。ちょっとした隙間とかも調べたけど、結局何も見つからなかった。

 残るは本棚とそれに付いている引き出し。

 さて、どうしたものか。

こんな分かりやすい場所を永本君が探し忘れるはずがない。

 うーん。でもまぁ、もしかしたら。っていうことがあるかもしれないし、

折角、家にお邪魔させて貰ったんだから、ここくらい調べておくか。

 そう思って、引き出しを開けようとしたときだった。

「触るなよ」

「え…」

「手が挙がっても知らないぞ」

 永本君が思わず手を挙げるような物があの引き出しの中に入っているのか…?

「もういいだろ?トイレ行っておくから、先に外出てろ」

「あー…」

 このタイミングでトイレ。もう見てくださいって言ってるようなものじゃないか…!

 でも永本君が手を挙げる程か…。

「本当にやるからな」

 トイレに行く前までそう釘を刺された。

 とは言ってもここまで来たんだし調べない訳がないじゃないか!

 僕は物音を立てずに、丁寧に引き出しを開けた。

「こ…っ!」

 思わず『これは!』っと叫んでしまいそうになり、手を塞ぐ。

トイレの方角に目をやるが、永本君はまだ出てきていない。

 僕はゆっくり引き出しを閉め、難無くやり過ごすことが出来た。


ずばり。僕が目にしたのは未成年後見人選任申立書の見本だった。

 勿論。この資料が何を意味するのかは分かっていた。

 『母子家庭だった』という言葉と『後見人』という言葉から、一つの仮定が生まれる。



永本君のお母さんは亡くなっているかもしれない。ということだ。



 後見人というのは、両親を失った子供の親の代わりをする人のことである。

僕の家にもこんな資料があったことを思い出す。

 これ一枚から、後見人が決定する第一歩が踏み出されるのだ。

 永本君は恐らく、何らかの理由でお父さんを失ってからは母子家庭に育っていたけど、

ある時期にそのお母さんが亡くなってしまったのだろう。

 …どうやら小学校の頃みたく、簡単に行くとは思えなくなってきたぞ。


捜査は一進もなければ一退ばかりのようだった。

一輝の様子を一目見れば分かる。

ただ死にかけていた。

「俺の寒がりは九州譲り~♪俺の暑がりは四国譲り~♪」

 不協和音で謎な歌詞を歌っていた。

「明人」

 すると不意に孝助から声を掛けられる。

 永本君宅での成果を聞きに来たようだった。

僕は孝助に向かってVサインをしてみると、大層驚いた顔をしていた。

「まぁ、確証は無いんだけどね」

「十分だ十分だ。後でその話、聞かせてもらうぞ」

 確証は無いと言いながらも、結構自分で自信があったりする。

 そろそろ日も傾いてきたことから、捜査は打ち切りとなった。


孝助の家には、いつもの面々が揃っていた。

 一輝は捜査の後、死にかけだった所が本当に倒れこんでしまい、翔平が自宅から緊急招集させられることとなった。

ぶっ倒れた一輝を担いで運べるのは翔平しかいなかったのだ。

 こういうときは使えないがたいだと感じた。

 翔平には部屋まで運んでもらい、そのままの流れで傘部に参加してくれるかな、とか儚い期待も空しく、そそくさと自分の部屋へと戻って行ったしまった。

 やっぱり翔平は傘部のこととなると、一切話に触れなくなる。

 昔はそんなことなかった。というか逆にこんな馬鹿げたことには積極的に顔を出す人柄だった。

 いや…でも、今でも傘部以外のことはちゃっかり居るし…。

 このことは兄である孝介がよく知っていることだ。またいつか聞いておかないと駄目だなと思う。

 それより今は、永本君の問題が優先的だ。

 こういうことは切り替えが大事なんだ。そう切り替えろ。僕。

「翔平はやっぱ来ないね…」

 切り替えれていなかったー…!

「しんぱいないさー」

「コイツ、とんでもなく棒読みだぞ」

 孝介は棒読みで肩を叩いてくれる。

 翔平を呼び戻す気をあるのだろうか。この人の脳内には。


「えっとね」

 咳払いを一つ入れると、やっと本題に入った。

 孝介は足を組み、愛理はきちんと正座をして耳を傾けてくれている。一輝はまだ目が真っ白だった。

「僕が思うに、永本君には両親が居ないと思うんだ」

「…ほう、その理由は?」

「永本君自身が『母子家庭だった』って過去形で言ったことと、後見人の資料が出てきたことかな」

 僕が『後見人』というワードを使用すると、僕の私事を知ってか、みんな遠慮する。

 だけど、孝介や愛理、一輝と翔平だけはそんなことはない。

『気を使われるのが嫌』という僕の気持ちを理解しているからだ。

 腕を組み、少し笑みを浮かべる孝介。

 それと対照的に、愛理は少し悲しい表情。

「この二つのことから、お父さんが先に亡くなってから、お母さんが亡くなったと思うんだ」

「…悲しい話だな」

 反応してくれたのは、孝介ではなく、愛理だった。

 恐らく、僕と永本君の話が重なってみえているんだろう。

「僕も確信があって言ってるわけじゃないよ。あくまでも予想だし…」

「少しは自信を持ったらどうだ?」

 孝介が肩をぽんぽんと2回叩いてくれた。

「まぁ…そうだね」

 自信は無くもない。

どちらかといえば『ある』。

 絶対的な確証があるわけではない。ただそう思うだけだ。


永本君と僕は少しばかりではあるが似ているんじゃないかと思っている。

 後見人の人が言うには、僕の父さんは僕が生まれる前に亡くなって、母さんは僕の物心が付くまでに亡くなったらしい。

順番は父から母。ただそれだけが永本君と被って見えてしまうというだけだ。


少し場の空気を変えるために、昨日訊きそびれてしまったブレザーの件を孝介に尋ねることにした。

「永本君ってずっとブレザー着てるよね。アレ何でか知ってる?」

「いや知らん」

 何とも言えない程の即答だった。

 そういえば孝介は今回に関して全く情報を知っていない。

 本当は全てを知っているのではとか疑うけど、孝介が『知らない』と言えば知らないことになる。

 孝介が言ったことは絶対だ。嘘であろうと本当であろうと。

 だから僕はこの言葉を真実だと受け止めている。


孝介からの助けが無いとは言っても、これからは僕と永本君との間しか理解し得ない問題じゃないかなとも思ったりしている。

 両親を失ったお互いだからこそ、解ることもあるんじゃないのかな。

 まぁ、あくまでも予想にしか過ぎないけど。


『少しは自信を持ったらどうだ?』という言葉が脳裏に過る。

 自信はある。でも不安も同等にある。気持ちが悪い感覚なんだよ孝介。



次の日。平日なので勿論一日中捜査は無い。

そんなことがあってか、一輝のテンションが高かった。

「アッキート!」

「明人でいいよ、」

 『ゲス犬』と後に付け足そうかと思ったけど、流石に気落ちされては困るので避けておいた。

「部活行こうぜ部活」

「まぁ、待ってたら始まるよ」

 放課後の我がクラスの教室が部室。太陽からの光が差し込み、眩しい限りだ。

 翔平は相変わらず釣れないようで、もう教室には残っていない。

 愛理、一輝、僕。

気が付いたら孝介を待ついつものメンバーだった。

「俺たちが揃っても、ご本人がいないとな」

 孝介がそう言いながら教室へやってくる。

 ご本人とは永本君のこと。

 委員会があって、集合に大分遅れた孝介が来たのにも関わらず本人はやってこない。

 とてつもなく嫌な予感がする。

「因みに、永本はちゃんと遅刻して登校してきたそうだ」

「うーん…」

 思わず唸ってしまう。

「ちっ…めんどくせぇなぁ」

 一輝も解ったらしい。

 永本君は今日、学校へ来ていたにも関わらず傘部へは顔を出さない。

 何かあったんだろう。

「シャーペンの前に永本から探すぞ」

 手首を柔軟を始める孝介。ジャンケンのサインだ。グーとパーに分かれるアレだ。2人と2人のチームに別れるのだろう。

「準備はいいか!?」

「来いやぁ!」

 孝介と一輝だけがノリノリの中、ジャンケンは始まった。

「ぐっぱーおうたらえーのになー」

 何で大阪の方式を採用したのかは不明だし、今更ツッコミを入れようとも思わないぞ。

 さて。そんなことはとにかく。どういう状況になったものか。

 とりあえず、とんでもない展開にはならないで欲しい。



やっぱり。一筋縄ではいかないような気がしてきたぞ。



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