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親友な僕ら  作者: えるもんて
永遠な本物の望み
4/12

会議は踊る、されど進まず。


僕たち傘部は、休日を返上して捜索することになった。


「みつかんねぇなぁ!みつかんねぇよ!」

「そんな簡単には見つからないよ…」

 一輝と僕は永本君の家の近所を捜索している。

正直、シャープペンシル一本がこの広い世の中で見つかるのだろうかと疑う自分がいるけど。

 残りの愛理と孝助と永本君は通学路を転々と捜索しているらしいけど…。

 永本君自身は探さなくてもいいのだけど、本人の意向によって加わることになった。

「ねぇ一輝」

「あんだ?」

「僕思うんだけど、これって結構無謀だと思わない?」

 永本君が通う通学路は短い方ではあるだろう。

 僕の学校では、自宅と距離が近いと自転車通学が出来ない校則になっている。

永本君は徒歩で登校しているため、確かにそんな大した距離ではない。

しかしそれでも軽く100メートルは越えてくるのだ。

「ここの通学路には住宅街もあるし…」

「…確かにな」

 腕を組み、小さく頷く。

「とりあえずこの作戦はやめて、孝助に連絡しよう」

 捜索を開始して早30分。また作戦を立てる必要があった。

 よく考えたら、何で賛成したのか分からない。どう考えても無謀だったのに。



「孝助。どう考えても効率が悪いよね」

「何でだ明人。何かいい方法を思いついたのか?」

「いや思いついてないけど…」

「じゃあ捜索開始だっ!」

 せっかく校門前に集合したというのにすぐに解散させようとする孝助。

 今日はやけに暑い気がした。休日がこんなにも忌々しく思ったのは久しぶりだ。

「待ってよ孝助!」

「何だ明人。何かいい方法を思いついたのか?」

「いや思いついてないけど…」

「捜索開始だっ!」

「間ってよ孝助!」

 永遠ループだった。

 だからといって、これと言った案が思いつくわけでもない。僕も孝助も。

 取り敢えずメンバー交代だけを申請してみた。



夏の初めとはいえ、そろそろ蝉が鳴き出してきた頃合いだ。

 ブレザーというのは勿論ながら暑い。

 しかしながら、永本君と一輝はブレザーを着用している。

 一輝にはその件について聞いたことがあるのだが、一輝は『俺は近年希にみる寒がりなんだよ!』っと訳も分からないことを吐き捨て、何故か逆ギレされたことがあった。

そんなことで、一輝は一つたりとも汗を掻いていない。

 因みに寒がりは近年でも頻繁にみることが出来る。

 そして、一方の永本君。

「あっつ…」

 先程から捜索を再開してから、度々そう呟いていた。

 メンバーは僕を含めた、永本君、一輝の3人での捜索となっている。

「じゃあ何でブレザー着てんだよ!」

 ついに一輝からツッコミが入れられる。

「合田も着てるよな?」

「俺は近年希少になりつつある寒がりなんだよ!」

 希から希少に変わっていた。

 永本君はそうやって話を逸らし、理由を教えることはなかった。

 まぁ着たい人は着たいのかな。


 ……ってなわけないか。

 よくよく考えてみるとおかしい。

普通の人はいくら寒がりでもこの時期になるとブレザーは着ていない。長袖すら着ている人は希だ。

 ブレザーにも何かあるのか?大切なのであれば自宅に保管しておけばいい。

 なのに一体、何故、今この時期に着る必要があるのか?

 もちろん、ファッションであるという線は否めないけど、それでも無い可能性もある。

 今考えるべき事は、今永本君が着ているブレザーは、ファッションの為なのか、また特別な理由があるのだろうか。

 でも、そんなことを永本君に聞いても、恐らく話を逸らされるだろう。

 ここは、情報網がとてつもない孝助に聞いてみるしかないのか。


「隣の客はよく柿食う客だって…ふふふ…。よく柿食う奴だってよ…俺みてぇだな、ははっ」

 ついに一輝が早口言葉で笑い出したところで、捜査は打ち切ることになった。



一輝はおかしくなってしまったので、早々と帰って貰った。

 日が沈むにはまだ早いが、徐々に暑さは消えつつある。

 僕と愛理は孝助の家へと寄ることになった。孝助曰く、今後の作戦を考えるだとか。

「明人、小学校の頃、同じように落とし物を捜したことを覚えているか?」

 いきなり何を話すかと思えば、小学校の時に捜し物をしたことだった。

「確か、家にあったんだよね」

 あの捜査は大変だった。只でさえあの頃は考えがよく出来ていなかったのに、学校中を永遠と探し回っていた。一週間以上も。

あの時は一輝が『俺に任せろ!』っと言い、指揮官は一輝になっていた。

今になって振り返ると、何故初めから孝助に頼まなかったんだろうと思うし、何故孝助は仕切らなかったんだろうと思う。本当に大変だった。

 因みに、その捜し物を見つけたのは、依頼者自身なのだ。

「そうだ。今回も実は家にある、かもしれない」

 家に、か…。何か引っかかるな…。

「…本当にそうかな?」

「というと?」

「そもそも、この件は情報が少なすぎる。『通学路に落としたかも知れない』っていう予想しかないんだ」

 小学校の頃は違った。あの捜し物は色々な情報があった。

いつ落としたのか、どの辺で落としたのか、とか。

 まず、確かめるべき情報は『いつ落としたのか』だと思う。

「とりあえず、このシャーペンをなくした日を考えた方がいいような気がするんだ」

「…そうだな」

 眉間にしわを寄せる孝助。愛理は違う意味で眉間にしわを寄せていた。

 一つ一つ情報を組み合わせ、照らし合わしたら何か解る。

 …ってそんな保障は無いんだけど、何だろこの感覚。前に誰かに言われたかな、この思想。

「まぁ、家という可能性も無くは無いけどね」

 どうやら永本君には聞くことが色々とあるようだ。



「毎年恒例!お互いにあだ名を付け合おう大会~!!FOOOO!!! It's cool!!!」

 一輝が、ようやく回復したのか、孝助の家にやってきた。

 意外とみんなの家は孝助の家に近く、便利な場所でもあった。

僕たち傘部で何回もここの部屋で寝泊まりをしたことがある。

 隣の部屋からは翔平も現れた。やっぱり傘部以外のことでは参加してくれるらしい。

「そんな大会したことあるか?」

「愛理は覚えてないだけだぁ」

「うるさいばか」

 なでるような声で愛理を説得する。勿論、説得出来ていなかった。

「俺も…あんま覚えてないような…」

「一輝は寒がりだからなぁ」

「あぁそうか」

 またなでるような声で一輝を説得する。何故か説得させられていた。

「俺の記憶によると無いな」

「翔平はショウヘイヘーイ!!だからなぁ」

「ネタが尽きてるぞ」

 翔平を説得させる言葉はなかったようだ。

 それにしてもまた変な大会が始まってしまった。

僕は一人頭を抱えていた。

 こんな調子でいいのか…?



「俺達はもう切っても切れない長年の付き合いだ」

 僕が孝助達に包囲されてからもう約10年近くになる。何かとてつもなく長く、永遠とした日々のように思い返す。

「だが、呼び方はどうだ?実際問題、『お前』や『こいつ』呼ばわりだ。終いには『馬鹿』だってあった」

 因んで言う必要も無いと思うけど、馬鹿呼ばわりしたのは愛理と孝助だ。

「逆に慣れ親しんだ感が出ていいんじゃないか?」

 翔平が反発する。幼なじみが今更あだ名で呼んでいる人はあまり見たこと無い。

「というわけでっ!ここにあみだくじがある。5番まで書いておいた」

 あくまで楽しむだけなのだろう。最もな事実には触れない孝助だった。

 サッと紙切れを出し、そこにはあちらこちらに線を書き巡らされており、番号が1番から5まで書いてあった。

「好きな所を選べ。諸君。番号が若い者が次の番号の奴のあだ名を決める、いいな?」

 一輝を筆頭に、他のメンバーも渋々書いていった。

 その結果は、1番から順に、愛理、一輝、僕、翔平、孝助となり、愛理は思った以上にわくわくしていた。一輝にどんな卑しい名前を付けるのか楽しみだとか。


「よし。まずは愛理から一輝に対してだ」

「ゲス犬」

「うわぉ!単刀直入!!」

 速攻だった。

 一輝がうずくまっていた。悶え苦しんでいる。

「こいつは…なんて意味の深いあだ名なんだ…!」

 感動する孝助。

愛理の表情を見ると、相当ご満月な様子だった。

「意味なんてあるかよぉぉ…!!」

 ぐさりと音が聞こえてきそうな程苦しむ一輝だった。

 度々、一輝と愛理は対立し合っては喧嘩が勃発していた。そんな付き合いであってか、ライバル心はお互いあると思う。まぁ、一輝はそのライバルに見事踏みにじられた、という形になった。


「よし。次は一輝から明人だ」

「明人…明人なぁ…」

 散々悩んだ挙げ句。

「アッキート」

 静まりかえった。驚くほどに。

外で無く蟋蟀の鳴き声が虚しく部屋に響いた。

「アッ●ーナがいるんだからアッキートはオッケーだろ!?」

「何ていうかだな…。もう少し笑いがあるのかと…」

 翔平が言ったことと、みんなが思っていることは同じだった。普通のあだ名だった。

 何か、僕らしいと言えば僕らしいけど。

「へっ…!そんなこと言っていいのかよ?ハードルが上がるのは…お前等だぞ!」

「しまった…!」

 一輝がボロボロになりながらも言い放った一言は、残る僕達を震撼させるものだった。


「よし。冷め切った所で明人から翔平だ。すべろ」

 孝助の本音が出ちゃってる。

 翔平か…。

翔平のいじれるところと言えば…髪型。かな。

孝助と似て、色や髪質は一緒だけど、髪型はオールバックで、下ろしている髪型の孝助とは正反対だ。

 客観的な意見かもしれないけど…。

「ヤンキー」

 オールバック怖い。

「誰が不良だ!」

 空かさず翔平から反発された。でもこれは仕様がないことなんだ…。

僕にはこれくらいしか思いつかない。

「うん、確かに言われてみればヤンキーだな。我弟ながら怖いな」

 腕を組みながら、うんうんと頷く。

「だが愛理は怖がること無かったぞ」

「いつからオールバックにしてたの?」

 僕の記憶では、少なくとも会ったときからオールバックだった。

「丁度愛理が入部するときだ。誰かに『目つきが悪いから』ってオールバックにされたんだ」

 その誰かは大体検討がつくので聞かないことにした。

 というか、愛理はよく怖がらなかったな。ああ見えて結構恐がりなのに。

「そういやそうだぜ。愛理は怖くなかったのか?正直俺は初めてあったときは玉が萎んだぜ」

 初めてあったときのことを思い出しているのだろう。一輝が股間を押さえていた。

「んー。なんかコイツは悪い奴に見えなかった」

「はぁ!?どう見ても悪い奴じゃねぇか!ぐわふぅ!」

 チョキで一輝の顎下を下から突き刺す翔平。…チョキで?

 愛理からすれば何か感じるものがあったんだろうな。直感的なやつか。


「よし。翔平から俺だ。来い!」

「孝助か」

 兄弟がお互いにあだ名を付けるというのも変な話しだなと誰もが思っていると思う。

「ナルシスト」

「あーなるほどな」

「うん」

 確かに合ってるっちゃ合ってるな。

「おいおい、納得するな!だからそこまでナルシストになった覚えは無いって!」

「じゃあ半人前ナルシストでどうだ?」

「おっ…いい響きじゃねぇか…」

 判断基準がまるで意味不明だ。

「コイツ変態だっ!」

 愛理が心底思っている言葉を叫び轟かせていた。


「さて。最後は俺なわけだが…」

 変な余韻に浸っていた孝助がやっと正気を取り戻し、愛理のあだ名を考え始めた。

 『コイツはすげぇや…』とか『んーう、VeryBeginner』とか、変な独り言を交えながらも、考えがまとまったようで。

「聞いて驚くなよ…」

「あ、あぁ…」

 愛理をギッと睨み付け、何かしらの変な空気になった。

「ロリツンデレ~明人がいないと何も出来ないよ~」

「んぅなあぁぁぁ!!!」

 即座に飛び膝蹴りが入った。本当に一瞬の内だった。

「ほ、本当のことじゃねぇか!」

「本当じゃないぃー!!」

 ドスドスと孝助の頭を叩き続ける愛理。因みにドスドスという擬音は強ち間違っていない。

 何て言うか…なんだろう、サブタイトル的なものが付いていたぞ。

「どーどーどー」

「うぅ…!うぅ…!」

 何とか愛理を宥めると、愛理は軽く半泣きになっていた。

「確かに小さいけど…ツンデレでも無いし明人がいなくても出来る!」

 小さいことは認めるが、ツンツンするところとデレデレするところと僕に頼っていることは否定するらしい。

4つの内3つも否定したぞ。大体間違っていなかったのに。

「明人!孝助がいじめてくる!」

「そういうところじゃないかな」

 いきなり矛盾するような発言しないでよ…。

 でもまぁ、そんなところが愛理の魅力でもあるのかもしれない。

 毎回思うのだけど、そんなに対して整ってないわけでもない、寧ろ可愛いくらいの容姿があるのに何でもっと視野を広げないんだろう。

いつも僕達(主に翔平と一輝)に着いて回っているから、男前も近寄ろうにも近寄れないと思う。

 もし近寄れても心を開かないから同じなのかな。


「今日も楽しかったな。明人」

「だから何で僕に振るんだよ」

 結局、本当に呼べそうなあだ名は『アッキート』だけだった。

 



翌日。僕達は本当に休日を返上してまで捜査をしていた。

昨日と同じ、家の近所と通学路を転々とする。

 始まると同時に一輝の目が白くなっていくのを僕は見逃していなかった。

 メンバーは僕と孝助と永本君の三人になり、愛理と一輝のチームがとても心配になったのは言うまでもない。

「いいか?一輝達には内緒にしておくから、お前は永本に話を聞いてこい」

 永本君が少し離れた所で捜索をしていたときに、孝助からそう耳打ちされた。

 永本君が教えてくれる保障は全くないけど、聞けるかどうかは僕に掛かっている。

 恐らくこれが大事なチャンスになるだろうということは僕自身理解していた。

「もう一週間もかけないようにね」

「…あぁ。その意気だ」

 


今日もよく晴れた雲一つ無い空。

少しでも早く決着をつけるために、決意を新たにした。



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