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親友な僕ら  作者: えるもんて
再結成
2/12

かあ部

また懐かしい単語が出てきたもんだ。

 近隣の生徒からは嫌悪感を感じているような目線を受けた。


『傘部』


これは小学生だったときのことだ。確か小3の頃だったかな。


「小宮山明人!お前は完全に包囲されている!」


そう孝助を含む、愛理、一輝、翔平の4人に囲まれたことがある。

その時、一輝や翔平はやる気があるように見えたが、愛理だけはあまり乗り気で無かったのを覚えている。

 創部には、最低5人の部員が必要だったので、只のメンバー集めのために僕はこの『傘部』に入部することになった。

 kousukeの『K』、Airiの『A』、syouheiの『S』、Akitoの『A』。

これらの頭文字をくっつけると、『KASA(傘)』。だから『傘部』になったらしい。なんとも小学生らしい案だなぁと今だから思える。

 因みに一輝がいないのは、孝助曰く、『Kは俺だけでいい。Kはリーダーだからだ』という理由からだとか。


「明人!お前を連行する!」


傘部は困っている人を助けるという、意図がよく分からない部だった。


「孝助、この部活ってやる意味あるの?」

「じゃあ逆に聞くが、ドッチボール部の存在に意味なんてあるのか?」

「みんなとの交流を図るんじゃないの?」

「あんなに人にボールをぶつけて何が交流だ。

 アレがそのまま大人になってみろ。お見合いするときボールを投げつけられるんだぞ?」

「そんなことはないと思うけど…」


孝助は理由をはぐらかす、というか微妙に納得出来るような出来ないような説明ばかりしてくれた。

 ただ人を助けるための部活。

最初はどうなるのかと思ったが、意外にもそれは面白いものだった。

 何よりも、みんなと一緒に何かをすることが楽しかった。




「嫌に決まってるだろう」

 愛理は僕がしみじみと昔を思い出している時間を止めるかのような一言を放った。

 実際に止まった。現実に引き戻された気分。

「何でだ愛理。昔なんか一番はしゃいでただろ」

「はしゃいでない!」

「『うっひょー!う●い棒の箱買いだー!』ってよく騒いでたじゃないか」

「どこのガキじゃ!」

 確かにあの頃はみんなガキでしたが。

 他のメンバーを見てみると、一輝は嫌々ながらも、心底嫌な訳でもなさそうだった。

 が、翔平はいつも通りの表情。

「取り敢えず。俺はやらん」

 席を立つと、いつの間にか弁当を食べ終わっていた。布に包まれ、鞄に仕舞おうとしている。

「何だ何だ翔平。昔みたいにお前の馬鹿力を見せてくれよ」

 馬鹿力といっては例えが悪いけど、確かに翔平の力は凄いものだった。

 台風の次の日に、コンクリートの重りで立っていたバス停が強風で倒された時、道路側に倒れたために道が塞がってしまっていた時があった。

 大人ですら上げられなかったところに、翔平がやってきた。

 その大人でも持ち上げることが出来なかったバス停を、翔平はいとも簡単に戻してしまった、という傘部の伝説がある。

「ふっ、孝助が始めることだ。どうせろくなことではない」

 うん。すごくろくでも無さそうだ。どうせ遊んでばかりなのだろう。

「…そんなこと分からないだろ?ほら、翔平も手伝ってくれよ」

「俺はもっといい方法を考える。みんなが幸せになれる、な」

 みんな、とは僕たちのことか。つまり、傘部に翔平は入ったとしても楽しくないという遠回しな言い方だ。

翔平らしいといえば翔平らしい。

「そうかい」

 孝助は、食堂から出ていく翔平を止めるわけでもなく、静かに見送った。

「いずれ分かるときが来るさ、傘部の方が楽しいってなっ!」

『なっ!』っと愛理と一輝の肩を叩く。

「まだ入ると決めた訳じゃないぞ!」

「え…?俺、もう入ってんのか?」

 


ああだこうだと言いながら、結局入部させられてしまった。

 僕らの高校は、部員が4人集まれば創設出来る。

 それは翔平が抜けても可能な人数だった。

 部室は、放課後の僕の教室。2-1組だ。

孝助は3年で別だけど、愛理、一輝、翔平とは今年から一緒。5クラス編成からなっているこの学年のことを考えると、4人が同じになるのは相当な確立だと思う。


「こうして、また傘部が結成されたわけだが」

 孝助は教卓に手を付き、僕たちは目の前の席に座っていた。

「体制はこれまでと同じだ。『困っている人を助ける』、これがモットーだ」

 方針的なことは変わらない。

 だが、結局。小学校の頃そうだったのだが、孝助の独断な所もある。

 些細なこと過ぎる相談を請けたかと思ったら、なかなか重要なことは請けないということもある。

「待て」

「はい愛理」

「そんなこと言いながらいつもお前の判断じゃないか」

 空かさず愛理がツッコミを入れてきた。

「愛理…」

 両手を上げると、やれやれとでも言いたそうな表情をしている。

「お前は何の教科が得意だ?また苦手な教科は?」

「うーん…得意なのは、体育。苦手なのは…数学、英語、それと…」

 『ああもういい』とそこで孝助が止めに入った。苦手な方は数え切れないと判断したんだろうか。

 …僕も愛理は多いと思う。苦手な方が。

「じゃあ3次関数の問題を100問解いたら1000円あげると言われたらやるか?」

「やらない」

「だったら、グラウンド10周したら1000円あげると言われたら?」

「やる」

 なんと単純な!

 しかも極端な例すぎるでしょ孝助!

「それと同じさ」

「なるほど…」

 納得しちゃってるし!

 僕は仕方なく、助言してあげることにした。

「とんでも無いことを丸く収められてるよ愛理…」

「えぇ!?そうなのか!?」

 愛理は相当単純な性格なんだろうな。

孝助にこれから目一杯いじられそうで心配だ。

「なぁなぁ、明人明人」

「何?」

 さっきから黙って聞いていた一輝が問いかけてきた。

「丸く収めるって何だよ。何を丸くするんだ?」


何か、アレだな。

 本当にこんなメンバーで大丈夫なのだろうか。

僕一人じゃ、やっていける気がしない。

 翔平の存在が大きいなと、その時僕は再認識させられることになった。


「孝助」

「なんだ?」

 いつも通りの返事をしてくれる孝助。

 孝助には聞いておかなければならないであろうことを聞くことにした。

「僕たちは分かるよ。部活入ってないし、まだ『2年生』だし」

 わざと『2年生』を強調してみた。

「でもね。孝助はもう『3年生』だ」

 今度は『3年生』を強調した。

「そうだな」

「そうだな、じゃないよ。受験でしょ?」

「あぁ」

 季節はもう夏。高校3年生の人間がこんなことしている場合ではない。

 行くところによってはAO入試というのが始まり、それを受けないにしろ、一般の推薦入試が待ち受けている。

 こんなことしている場合ではない。

「ホントだぜ。お前、ついに何か悟っちまったのか?」

 一輝が口を挟む。

「悟ってなんか無い。勿論、入試は受ける。AOをな」

 この人は馬鹿なのか!もうAO入試まで3カ月を切っているのに!

 まぁでも孝助なら受かりそうで怖い。

「お前は……馬鹿か…?」

「馬鹿はお前だ」

 『いいか?』と言い、指を立てる。

「この時期にこの部活を発足させることに意義があるんだ」

「何でだ?」

「よく考えてみろ。

 この時期に部活を発足させるやつがどこにいる?」

「………」

 一輝の思考が止まった?

 まぁ大方の予想は、『発足』という言葉が分からないんだろう。

「まずいないね」

 代わりに僕が返事する事にした。

「だからだ」

「……え?」

 大分長い間、沈黙が起きた。 

 最後の部分が前の文と繋がらなかった、ような…?

「明人、俺も今のは意味分からなかった」

 一輝の手には電子辞書があった。どうやら『発足』という文字を調べたんだろう。会話に戻ってきていた。

「もう1回言ってくれ」

「ん?まぁいいけど」

 一輝は耳に手を当て、孝助の言葉を聞き逃すまいとしていた。

「この時期に部活を発足させるやつがどこにいる?」

「普通いないね」

「だからだ」

 一輝と僕は見合わせる。

「おかしいよね」「おかしいよな」

 ぴったりハモった。

「俺は色々な反対もされた」

 そりゃそうだろうね。

「だがな。俺は勉強することに飽きたんだ。この束縛されている空間に…!」

 深刻そうな顔で話しているところ悪いけど、孝助は只単に逃げていることは分かった。

「逃げたんだな、お前」

 愛理もそう思っていたらしい。口に出ていた。

「逃げるかいやい!」

「現実でそんな言い方する奴、初めて見たぞ…」

「馬鹿だからな、コイツ」

「全く…馬鹿はどっちなんだか…」

どう考えても孝助だよね。

どんなことをしようとしても入試からは逃げられないのに。




 次の日。授業中に、僕らのクラスの廊下にBOXが作り上げられていた。

 そのBOXには、『キミの願い…叶えてしんぜよう!by篠原』と書かれていた。

 このBOXに関しては、翔平が孝助に苦情を申し立てていた。どうやら、篠原翔平と勘違いされるらしい。

 確かに、弟からすると傍迷惑な話だ。


そして昨日からの不安は全く拭い去ることが出来ないまま、放課後になってしまった。


「BOXに何か入ってたか!?」

 何故かテンションの高い一輝。何だかんだで楽しんでいた。

 この感じは懐かしい雰囲気もあって、僕も楽しんでいるけど、やっぱり足りないものを補いたいという気持ちもある。

「イケメンの俺が作ったんだ。そりゃあ入ってるぞ~」

「自分で格好いいとか言ってるぞ、コイツ」

 引きながら顔を歪める愛理。本気で嫌そうな顔をしている。

 孝助はイケメンで女子からの人望は篤すぎるくらいだ。

 高校に入ってから、告白された回数は数知れず、とか何とか。

「んまぁぃ!!」

 変な奇声をあげながらBOXを開封すると、紙が大量に出てきた。

その数は、一つの机では足りないくらいだ。

 一枚確認してみると、『篠原さんはとても格好良くて、私の星でした(以下略)』とかそんな内容ばかりだった。

「これ…お前が全部書いたんじゃないだろうな?」

 一輝が驚きながら一枚一枚紙を確認する。

 そう思ってしまうのも無理も無い。

ほとんどが孝助に宛てたメッセージやラブレターだったのだ。

「俺はそこまでナルシストになった覚えはないぞ」

 ある程度はなったんだね。

 それよりこの紙…というより手紙。

一つ一つ文字のクセが違うし、全部違う女子からだった。

「大体よ。お前が、キミの願いがどうたらって書いたからこんな事になったんだろ」

「俺は別に嫌な気分じゃないが」

「俺は胸くそわりぃよ!」

 僕はそんな会話をしている間、たくさんある手紙の中からある一枚の紙に目が行った。


『シャーペンを探してください』


「孝助」

「何だ?」

「これ…」

 そう言って、気になる紙を渡そうとしたときだった。

 いきなり地響きが起き、辺りが騒がしくなる。

「ふわぁっ!」

 愛理はビックリし、机に伏せた。

 一輝と僕は焦る。

 なんだ?地震か?それにしてはやけに廊下が騒がしくなってくる。

「孝助さまぁー!!!」

 バン!と勢いよく音を出しながらドアが開かれる。その音でさらに愛理は丸まった。

 どうやら、孝助のファンが来てしまったらしい。

 チラっと山積みの中から紙を取り出すと、『抱いてください』とか色々書いてあった。

 これは正直言うと、マズい状況じゃないのか?

だって、BOXの名前は、『キミの願い…叶えてしんぜよう!by篠原』なのだから。

 総勢は軽く2ケタはいっているであろう人数だ。

『抱いてー!』、『付き合ってー!』など、熱烈な声があがってしまっている。

「まぁ待て諸君!確かに叶えるとは言った!」

 『ひゃー!』と興奮の声が聞こえる。

「しかし全員とは言ってない。『キミ』だから、あくまでも一人だ。そしてそれは俺が決める」

 孝助が喋り始めると、静粛になるファン達。

「だからね。君たちは待っていて」

 『ね?』と付け足すと、怖いほどにぞろぞろと帰り出す集団。

 孝助の力が凄いと言うべきなのか、集団が恐ろしく孝助に従者というべきか…。


少し、BOXの使い方を考えた方がいいらしい。

 愛理がようやく起きあがると、話がやっと戻ってきた。

「これだよ、孝助」

「あぁ、そうだったな」

 気になった紙を渡す。

「シャーペンを探してください?」

 捜し物というものは、小学生の頃にもあった。

 『捜し物』という3文字で片づけていいものかと自問自答してしまうほど大変だったのを覚えている。

 しかもこんなにアバウトでは、大体の場所が分からない。

「名前が書いてあるぞ」

 一輝が紙の裏をのぞき込む。


『永本望』


まず本人に色々聞かないといけないらしい。


「おしっ、決めた。探すぞこのシャーペン」



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