料理教室の意外な波紋
「お嬢様は、また遊びを思いついたんですか?」
とシェフは興味深そうに尋ねてきた。
「そうなの。聞いてくれる」
と私は言った。
「もちろん」
とシェフは目を輝かせる。
「あのね。街のパンとかお菓子とかが少ないから楽しくないの。でも本にはいっぱい美味しそうなのがあるでしょ。でも職人さんは字が読めない人が多いから、職人さんたちに作って食べさせて、気に入ったら作り方を教えてあげるの」
と私は答えた。
「なるほど、お嬢様は先生をされるわけですね」
とシェフは言った。
「うんうん。違うの。先生はシェフとか見習いがするの。私は校長先生」
と私は答えた。
「なるほど。私は教えられますし、見習いも仕込めば教えられるようになるし、見習いにも良い経験を積ませることにもつながりますね。
それで当家にとってメリットはあるのですか」
とシェフは尋ねた。
「私はわからない。ねぇメリッサ。執事呼んできて」
と私は言った。
メリッサは執事を呼びに行く。
私は執事に作戦の内容を言った。
「それは当家にとってもメリットがありますな。
・税収が上がる。
・住民の満足度が上がる。
・街の名物が増え活気がでる。
・住民からの支持率が高まる。
・シェフや見習いの料理スキルが上がる。
しかし、お嬢様のメリットがありませんな」
と執事は答えた。
「私はごっこ遊びができたら、それでいいの」
と私は言った。
「ちょっと待ってください。
今はシンプルな食材で作れるお菓子だけ教えておいて、将来的に珍しい食材を使わないと作れないお菓子も流通させる。
その珍しい食材を、お嬢様が一手に商いをされれば、独占できますよ。
料理人たちも、教えてもらった以上、高すぎない限り、他の商人の食材を使うことはないでしょうし」
とシェフは言った。
「なるほど。それは賢い」
と執事はシェフの肩を叩いた。
「それいきましょう」
と私は答えた。
「あとは旦那様の許可と、なにを作るかですね」
とシェフは言った。
「じゃあ、私がお父様に言っておくわ。私、そこのお菓子、食べた事のないものばかりだから、シンプルな材料で作れるのをいくつか作ってみて」
と私は言い、お父様に相談しにいくことにする。
(こんこんこん)
私は執務室に入る。
「お父様。お元気?」
と私は尋ねた。
「元気だよ。今度はどんな遊びを見つけたんだい」
とお父様は言った。
「料理教室ごっこ」
と私は答えた。
「先生は誰がするんだい」
とお父様は尋ねた。
「シェフと見習い」
と私は答えた。
「彼らはどう言っている?」
とお父様は尋ねた。
「お父様がよければしますって」
と私は答えた。
「執事には言ったのかい」
とお父様は尋ねた。
「執事もお父様がよければと」
と私は答える。
「ところで誰のための料理教室なんだ」
とお父様は言った。
「パン屋さんとか、お菓子屋さん」
と私は答えた。
「はははは。なるほどな。
お店の売上が上がるという訳か。それで結果的に税収も上がると」
とお父様は笑った。
「気に入ってもらえた?」
と私は言った。
「もちろんさ。
やるといいよ。
しかしアリーサは今回も利益なしかい?」
とお父様は不思議そうに言った。
「いずれね。特殊な食材が必要になるお菓子のレシピを教えて、その特殊な食材を私が一手に扱えば、独占できるって」
と私は答えた。
「独占か……、それは良いところに目をつけたね。
じゃあ君は今回、校長先生ごっこって事かな?」
とお父様は尋ねた。
「そうよ。私が校長先生していい?」
と私はお父様をツンツンした。
「もちろんだ。君しか校長先生になれる人はいないからね。じゃあ頼むよ」
とお父様は私の頭を撫でた。
……
シェフはまず10品のお菓子を作ってくれた。
どれも美味しかったが、まず3つに絞ることにした。
選定に加わったのは、私とメイド長のヘンデル、侍女のメリッサの3人だった。
理由は外部から呼ぶと厄介そうなのと、
私は貴族だし、元いた世界の味もたくさん知っている。
ヘンデルは年長者で、年長者の味の好みもわかる。
メリッサは庶民と貴族両方の食べ物を知っており、しかも庶民で若いし、味の好みもわかる。
という点を考慮したからだ。
そしてなにより、味見したそうな目で、ものすごい主張してくるから。
選ぶしかなかった。
そして3つのお菓子を作り、それを手に、お菓子屋とパン屋に3人で持っていく。
これから営業の始まりだ。
(からんころん)
「いらっしゃいませ」
とお菓子屋の店主は言った。
「はじめまして。私、ローズワール家のメイド長をしております。ヘンデルです。こちらは領主様の次女アリーサ様、この者は侍女のメリッサです」
とヘンデルは挨拶をした。
「これはこれは。
いつもお世話になっております。
私、このお菓子屋の店主ベンジャミンでございます」
とお菓子屋の店主は頭を下げた。
「今回は、お嬢様がお菓子屋とパン屋向けに開かれる料理教室について参りました。
お時間はよろしいですか」
とヘンデルは尋ねた。
「もちろんです。一度店を閉めますので、しばらくお待ちを」
とお菓子屋の店主は言い、慌てて店を閉める。
「まず、このお菓子をお食べになってください」
とヘンデルはお菓子を差し出す。
「このお菓子は?」
とお菓子屋の店主は尋ねた。
「これは私どもが皆様に教えるお菓子の見本です」
とヘンデルは答えた。
「それはわかりやすい。では早速」
とお菓子屋の店主は言い、お菓子を食べだした。
「これは美味いですな。この作り方を教えてくださるのですか」
とお菓子屋の店主は尋ねた。
「ええ、そうです」
とヘンデルは答えた。
「しかし、私ども、それほど儲かっておりませんので、料理教室に払える授業料が……」
とお菓子屋の店主は頭をかいた。
「授業料はいらないわ」
と私は言った。
「授業料がいらない?
いやいや。そんな美味しい話はありません」
とお菓子屋の店主の顔がこわばった。




