止まる医療崩壊
「では、その2~3割の患者をこちらに回すというのは、どうでしょうか?」
とジェームスは言った。
「ちょっと待ってください。それは永続的にということでしょうか?」
とボンドは少し警戒している。
「いえいえ。その回らなくなった時だけ限定ということです。
そうですよね。お嬢様」
とジェームスは尋ねた。
「もちろんよ。うちは病院を経営したいわけではないわ。ただ領民が困っているのを助けたいだけ。ボンド先生も、患者さんも領民よ」
と私は言った。
「わかりました。ではお願いします。細かい調整をいたしましょうか」
とボンドは笑顔を見せた。
「領主様の執事殿が加わり、細かい調整を行っていただけるようなので、そういたしましょう」
とジェームスは言った。
私は侍女のメリッサに執事を呼びに行ってもらう。
30分ほどで執事がやってきた。
もうすでに事情をお父様から聞いていたようだ。
「細かい調整をいたしまして、あとから明文化いたします」
と執事は言った。
「よろしくお願いいたします」
とボンドは頭を下げた。
「さて、どの仕事をお受けしましょうか」
とジェームスは尋ねた。
「そちらの都合とかありますかな」
とボンドは言った。
「こちらに来るときに少し考えましたが、線引きが誠に難しいですな」
と執事は言った。
「それは私も思っていたところです」
とボンドは同意した。
「私もです」
とジェームスも同意した。
「ややこしいと揉めると思うの」
と私は言った。
「お嬢様の言う通り、シンプルなのが良いですな」
と執事はうなづいた。
「それは確かに」
とボンドはうなづいた。
「腹痛専門とか?」
とジェームスは言った。
「あの~。うちの多い薬って何かしら?」
と私は言った。
「基本的に兵士が常駐しておりますから、ケガの薬や包帯などは多いですね」
とジェームスは答えた。
「そういうケガの薬とか包帯って、まとめて買ったら安いの?」
と私は尋ねた。
「2~3割は安くなりますね」
と執事は答えた。
「それでしたら、ケガの者をジェームス先生にお任せするでいいのではないですか」
とボンドは言った。
「たしかに、それならシンプルですし。なにより慣れてますからね」
とジェームスは笑った。
「ケガの人をこっちが受け持てば、だいぶ楽になるかな」
と私は尋ねた。
「えぇ。まったく違います。ケガの薬とか包帯の在庫を多数持つこともなくなりますし、負担はずいぶん減ります」
とボンドは答えた。
「じゃあ。それで行きますか」
とジェームスは言った。
「それでお願いします」
とボンドは答えた。
「あとは値決めですな。値決めはボンド先生の診療所の価格を基準にしましょう。それなら、戻った時に、不公平感も出ないし」
と執事は言った。
「それはありがたい。価格表をお渡しします」
とボンドは頭を下げた。
「あとは、領民に知らせるだけですな」
とジェームスは言った。
「じゃあ、診療所の前に張り紙をしておけばいいんじゃない」
と私は言った。
「それはよろしいですね。ただ皆が文字を読めるわけではないので、人づてでも流す必要があります」
と執事は答えた。
「まぁ私が、ちょこちょこ外に顔を出して、ケガは領主様のところに行ってくれと言いましょう」
とボンドは言った。
「それが一番かもしれませんね」
とジェームスはうなづいた。
そんなこんなで、退屈だったジェームス先生は急に忙しくなった。
とはいえ、皆ちゃんと診察してもらっている。
薬草の減りが早いとか、ジェームス先生がちょっと若返ったとか、
いろいろあるが、とても良い状況だ。
お父様と執事はというと、意外と診療での収入が多くて喜んでいた。
少し前まで、この世の終わりのような顔をしていたのが、ウソのようだ。
パーティまでは開いてはいないが、ちょこちょこ他の領主が相談にやってくるようになっている。
王族とのもめ事も、盗賊の一件で、かなり解消された。
順風満帆だと、どこかに亀裂が入りそうなものだが、意外と入らないものだ。
また退屈になったので、私はメリッサと共に街に出かけた。
暇なので、あちこちのお菓子やパン屋に行ってみる。
美味しいものを探しにだ。
「ねぇ、メリッサ。この街のお菓子とかパンって種類少ないわね」
と私は言った。
「えっ。こんなものなのでは」
とメリッサは答えた。
私は、元の世界の事を思い出していた。
あんなにいろんなパンやスイーツがあったのに、なぜこの世界には少ないのだろう。
本もあるのに。
「ねぇ。本にはいろんなパンやスイーツがあるのに、なぜみんな作らないの?」
と私は尋ねた。
「それは文字を読める人が少ないし、そんなにいろんなパンやスイーツがあるなんて知らないからだと思います」
とメリッサは答えた。
私はピンと来た。次の遊びは、料理教室ごっこだ。
私は屋敷にある料理本を手に、屋敷のシェフに会いに行った。
「ねぇねぇ。この本にあるお菓子とかパンって作れるの」
と私は尋ねた。
「もちろん作れますよ。ただ材料が手に入らないものが多くって」
とシェフは答えた。
「えぇ。そうなんだ。じゃあどんなお菓子とかなら作れるの」
と私は尋ねた。
「そうですね。材料がシンプルで手に入りやすいものですね」
とシェフは腕を組んだ。
「例えば、どんなの?」
と私はシェフをつつく。
「まず、卵、牛乳、チーズ、小麦、バター、果物、野菜なんかは手に入りやすいですね」
とシェフは答えた。
「逆に難しいのは?」
と私は尋ねた。
「香辛料とか、一部のハーブ、そういうのは難しいかもしれません」
とシェフは答えた。
「代替え品とか使えないかな」
と私は尋ねた。
「使えない事もないのですが、そのものの味とか役割を知らないと、代替え品も使えません。
私であれば、私が使ったことのない香辛料や、私が食べた事のない食べ物とかは、代替え品は見つける事もムリです」
とシェフは答えた。
「知らなかったら当然よね」
と私は言った。




