腐った肉
チーズの残り水が成功して、使用人とも世間話をするようになった。
皆体調がよくなって、感謝しているみたいだ。
私はまた屋敷内をうろちょろする。
すると、厨房に近づいた時に、とんでもないニオイがすることに気がついた。
シェフと見習いが話している。
「もうこれは廃棄だな」
とシェフは言った。
「さすがに、これは調味料を使っても無理ですもんね。しかし暑くなると、とたんにロスが増えますね」
と見習いは答えた。
「ねぇねぇ。このニオイは何なの?」
と私は尋ねた。
「これはお嬢様。これはね、牛の肉なんですよ。もう痛んでしまって、廃棄の相談をしてたんです」
とシェフは答えた。
「暑いからすぐに腐っちゃうの?」
と私は尋ねた。
「そうなんですよ。いつもは鳥や鴨ですので使い切れますが、牛を食べる日はね、どうしても大きいので」
とシェフは答えた。
「もったいないね。結構高いでしょ」
と私は言った。
「そうなんですよ」
とシェフは言った。
「食べるのって一番美味しいところだけ、私やお父様、それにお客様が食べるだけでしょ」
と私は尋ねた。
「はい。そうですよ」
とシェフは答えた。
「だったら、その他の部分は調理して、街の人に売っちゃえばいいんじゃない」
と私は言った。
「たしかに、それだと無駄はなくなりますよね。
御当主様から許可を頂けましたら、そのようにいたしますが」
とシェフは答えた。
「わかったわ。お父様に言ってくる」
と私は言った。
……
(こんこんこん)
「はい。空いてるよ」
とお父様は言った。
「お父様。お元気?」
と私は尋ねた。
「アリーサか。
元気だよアリーサ。
お前のお陰だ」
とお父様は言った。
「あのね、お父様。
お願いがあるの?」
と私は上目使いでお父様を見つめた。
我ながらあざとい。
これも銭の為や。
「どうしたんだい。
アリーサ。
言ってごらん」
とお父様は尋ねた。
「あのね。
私、屋台ごっこをしたいの」
と私は答えた。
「それは斬新な遊びだね。
教えてくれるかい」
とお父様は言った。
「うんとね。
牛さんのお肉を食べる時ね。
すごいお肉が余るの。
お父様知ってる?
これをね、
街の人に屋台で売るの。
だから余るお肉もらっちゃダメ?」
と私は答えた。
「ダメじゃないよ。
どうせ捨てるんだし。
でも、君が全部するのかい?」
とお父様は言った。
「うんうん。私は現場監督。
えっとね、肉祭りってするの」
と私は答えた。
「へぇ、肉祭りかい。
それは面白そうだね。
じゃあ使用人を何人か使っていいから、
やってごらん。
あと許可とか、祭りのチラシとかは、執事に言うと良い」
とお父様は言った。
「それで売上はどうしたら良い?」
と私は答えた。
「それは君が持っとけばいい」
とお父様は言った。
「うんうん。それではリアルじゃないから、面白くないわ。
肉も使用人も全部お父様のものだから、売上の半分は渡します。
それでも良い?」
と私は言った。
「ふっ。リアルじゃないか。たしかにそうだ。じゃあ売上の半分をもらう事にしよう」
とお父様は笑った。
「じゃあ、交渉成立ね」
と私はお父様に抱きついた。
お父様の顔がほころぶ。
……
私はさっそくシェフと執事を集めて報告した。
「アリーサお嬢様。
チーズの水といい、あなたは無駄をなくすのが得意ですね」
と執事はニコニコしている。
「私も、肉はもったいないなと少し罪悪感があったので、なんかうれしいです」
とシェフは頭を下げている。
「屋台ごっこだから、そんなにかしこまらないで」
と私は笑った。
「それでどうしましょう」
と執事は尋ねた。
「締めてからすぐに下味をつけて、調理しだせば、もちは大丈夫だと思います」
とシェフは答えた。
「下味の調味料とかは、家にあるもので足りるかな」
と私は尋ねた。
「ありもので済ませる手もありますが、うちのスパイス類は高いものが多いので、庶民向けだと、もう少しグレードを落としたものや、ニンニクなども混ぜたほうが良いと思います」
とシェフは答えた。
「追加で費用とかかかる?」
と私は尋ねた。
「そうですね。屋台とか、調味料類が必要でしょうね。今回、売上の半額を頂くと聞いておりますし、調味料類は安いものなので、家から出します。屋台は、当家にあるものを使い、使用人に作らせれば、費用はかかりません。
ですから、アリーサお嬢様は何も用意される必要はございません」
と執事は答えた。
「しかし、売れるんですかね」
とシェフは少し心配そうに言った。
「何を言っておる。
そんなこと、誰にもわかるわけがなかろうが」
と執事は言った。
私は、二人のやり取りを見ていて、
せどりをしていた頃の事を思い出した。
この不確実性が商売の恐ろしい所であり、
逆に興奮するところでもある。
ただ今回の勝負は、
そもそも廃棄物を売るのであり、
追加費用はかからない。
だから失敗しても詰むことには、つながりにくい。
「まぁ私の屋台ごっこだから、失敗しても、誰も怒られないから大丈夫だよ」
と私は言った。
「それだったら安心です。私の味が原因でもし失敗したらと思うと」
とシェフは少し顔が緩んだ。
「あなたの料理は美味しいから大丈夫よ。問題は値決めの方ね」
と私は言った。
「たしかに、シェフの腕なら間違いございません。問題は値決めと集客力でしょうな」
と執事は答えた。
「街にはそんなに娯楽はないですから、祭りとなれば来るんじゃないでしょうか」
とシェフは言った。
「そうね。アリーサ嬢の肉祭りとか、私の名前を使えばどうかしら」
と私は尋ねた。
「それは名案にございます。それでチラシを張りましょう」
と執事は言った。
「私は当日の為に味の研究をしておきます」
とシェフは胸を叩いた。
「じゃあ、あとは任せていいの?」
と私は尋ねた。
「えぇ。使用人の手配、チラシの手配、屋台の手配まで、すべてお任せください」
と執事は頭を下げた。
おぉ。なんて快感だ。
これが人を使うという事か。
肉がもったいない。
屋台で売ったらいいじゃね。
打診。
これだけで、話が自動的に進む展開に、私は喜びを感じた。




