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計算

私は考え始めた。

この世界でどう生き残るかについて。

スタート地点で詰んでるなんて、

どんな設定だと思うが、

仕方がない。


きっと神的な存在が、楽し気に観察しているのだろう。

動物園の猿にでもなった気分だが、まぁ楽しんでくれ。

私は必死で生き抜いてやる。


まず状況整理をしよう。

わかっている事は、

父と長男と長女がいる。

まがい物を掴まされた。

王族との間柄は微妙。

没落寸前の貴族。

長女は嫁いでいる。

使用人がいる。

家が広い。


不確定な要素は、

領地がある。

長男は家督を継ぐ気はなさそう。

たぶん領地からの定期収入がある。


圧倒的に何も知らない。

日記を読んでみても、あまり重要な記述は見つからなかった。


まぁ正直8歳の少女だから、何も知らなくても当然といえば当然か。

図書室のようなものはないのだろうか?


私はヘンデルを探して尋ねる。

「ねぇ。本がいっぱいあるお部屋とかあったっけ」


「こちらでございます」

とヘンデルは案内してくれた。


「ねぇ。この国の事とか、街の事とか、一般的な常識とか、そういう大人になっていくにつれて自然と覚えていくような事が載ってる本とかってあるの」

と私は尋ねた。


「そうですね。

こちら辺りが一般教養になります。

ご質問があれば、なんなりとお答えしますので」

とヘンデルは少し考え込んで、答えた。


そうじゃないんだな。

質問してピンポイントで答えを知るより、

この世界の概要をばっと掴みたいんだ。


「わかった。ありがとう」

と私は言った。


ヘンデルは会釈をし、本を机の上に置き、部屋から出て行った。


私は本を読みだす。

文字がわかるのは好都合だ。

とりあえず、子供向けの物語から、実用書まで読みまくった。

乱読をしていると、せどりをやっていた頃の事を思い出す。


せどりというのは、古本屋などで安い本を買い、ネット通販等で売ることを言う。

古本屋での買値と、本を売った時の手数料などを引いた金額が儲けになる。

私は工場勤務をしながら、休みの日になると古本屋をめぐり、お宝を探し続けた。

普段は質素に生活をし、可能な限り、古本代に使う毎日だった。

趣味もなかったので、売るために買った本を片っ端から読んだ。

実用書や怪しげなオカルト本、専門書もあった。


私は毎日毎日、図書室に籠り、3か月が過ぎた。

まだ本は読み切れていない。

十分な知識がついているかというと、かなり怪しい。

しかし、元いた世界と基本的な構造ではよく似ている。


ただ、私がやっていたせどりや転売というのは、基本的に難しそうだという結論に達した。

せどりや転売が成立するのは、売り手と買い手が直接取引をできる場合。

この間に商人が介入すると、とたんに利益率が悪くなる。

つまり、私が直接貴族や街の人などに商品を販売するなら利益は多いが、

そうでないなら、利益は薄いという事。

そして商人に販売するのは、数をまとめて売る場合に限られるという事だ。


うーん、どうしよう。


私はとりあえず、屋敷の中を見て回ることにした。


すると厨房ではない離れで、オジサンが何かを煮込んでいた。


「ねぇねぇ。オジサン何をしているの?」

と私は尋ねた。


「これはこれは。アリーサお嬢様。ご機嫌いかがですか?」

とオジサンは言った。


「元気だよ。オジサンは何をしているの?」

と私は尋ねた。


「こちらはチーズを作っております」

とオジサンは答えた。


「チーズも家で作ってるの?」

と私は尋ねた。


「そうですね。ローズワール家では毎日チーズを作っております」

とオジサンは言った。


「なんで毎日作るの? チーズが美味しいから」

と私は尋ねた。


「まぁ美味しいのもありますが、生の乳はすぐに腐りますから、チーズかバターに加工することが多いですね」

とオジサンは言った。


そうか……。

この世界では、チーズを作るのが普通なのか?


「どこのお家でも作ってるの?」

と私は尋ねた。


「ヤギとか牛を飼っている家ですから、まぁ修道院や農家、お貴族様が多いですね」

とオジサンは言った。


「じゃあ庶民は、買って食べてるんだ」

と私は尋ねた。


「そうなります」

とオジサンは答えた。


あれ……。

ちょっと待って。

プロテインの原料のホエイって、チーズの残りの液体から作られるんじゃなかったっけ。

だとしたら、


「オジサン。チーズの残りの水ってある?」

と私は尋ねた。


「ええ。ございますよ」

とオジサンは言った。


「それ、どうしてるの?」

と私は尋ねた。


「それは、捨てますが」

とオジサンは答えた。


「じゃあ、私にちょうだい」

と私は言った。


「それはよろしいですが、どうされるのですか?」

とオジサンは不思議そうな顔をした。


「飲むの」

と私は言った。


「飲むんですか? おいしくないと思いますよ」

とオジサンは言った。


「あのね。そのチーズの残りの水は、たしか、体によくって、健康になるの」

と私は言った。


「えっ、そうなんですか?」

とオジサンは言った。


「でも多分なの。だから実験してみたいから、飲んでみる」

と私は言った。


「そんなお嬢様が実験台なんて、いけません。私と他の使用人でしばらく試してみて、体を壊さなければ、飲みましょう」

とオジサンは言った。


「うん。わかった」

と私は言った。


自分で実験してみようと思ったが、これは助かるな。

そう思った。


それから1週間。

屋敷の使用人の間で、チーズの残り水が飲まれるようになった。


始めは、お嬢様は何を……という困惑顔だったが。


身体が疲れにくくなった。

元気になった。

イライラしなくなった。

という声が聞こえた。


私はお父様の許可を得て、チーズの残り水を、まずお父様や私達で飲み、残りを使用人で分けて飲むことに決めた。


お父様は始め躊躇されていたが、元気になった使用人の姿を見て、積極的に飲むようになった。

そのせいか、前より少し元気になられた。


使用人たちも以前よりずいぶん元気になり、

お嬢様のお陰ですと感謝されるようになり、そして病欠も薬代も減ったと執事が喜んでいた。


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