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まがいもの

ヘンデルの顔はこわばっている。

これは聞いてはいけない質問だったのか。


「あの……、当主様がヘーデンヴォロイドのまがいものを掴まされた件です」

とヘンデルは言った。


「ヘーデンヴォロイドって何なの?」

と私は尋ねた。


「ヘーデンヴォロイドとは、この世界の宝物で、城が一つ買える値段のブローチです」

とヘンデルは答えた。


城一つ買える値段のブローチって、いったいどういう事?


「お父様はなぜそんな高級なブローチを買われたの?」

と私は尋ねた。


「それは王女殿下にプレゼントされる為にですよ」

とヘンデルは答えた。


王女殿下にプレゼント?

意味が分からない。


「なんで、王女殿下にプロポーズでもする気だったの?」

と私は尋ねた。


「そうではございません。王家のご機嫌を取るためにです」

とヘンデルは答えた。


「それがまがいものだったなら、とんでもない事になってるのでは?」

と私は尋ねた。


「お嬢様。その通りですよ。王も王女殿下もご立腹で」

とヘンデルは顔色を悪くしている。

どうもかなり問題は大きそうだ。


「問題は王様と王女殿下だけ?」

と私は尋ねた。


「ですから、他の貴族の方々も当家を避けておられて、それでお家が傾きかけているのですよ」

とヘンデルは小声で言った。


あれ?

いきなり詰んでるんじゃね。


「ねぇ、王女様にご機嫌取りをしないといけない時点で、結構問題なんじゃないの?」

と私は尋ねた。


ヘンデルの顔色が変わる。

「お嬢様、それは絶対に当主様に言われてはいけませんよ」

とヘンデルは言った。


あっ図星なんだ。

そっか、ヘーデンヴォロイドで逆転ホームランを狙おうとしてたけど、思いっきり外したって感じか。


えぇっと、どうしよう。

どうなの。

私も詰んでるの?


「ねぇ。私、結婚相手とか決まってるのかな?」

と私は尋ねた。


「それは先日、

婚約解消されました」

とヘンデルは言いにくそうに言った。


「それは、家が没落しそうだから?」

と私は尋ねた。


「たいへん言いにくいのですが、お嬢様が銀髪になられたからです」

とヘンデルは言った。


銀髪?

私は鏡を覗き込む。

そこにいたのは、銀髪で赤眼をした色の白い少女だった。

なに。私、わりと可愛いんじゃない。

銀髪キレイだけどな。


「銀髪は嫌われるの?」

と私は尋ねた。


「縁起を気にされる方には……」

とヘンデルは言った。


「銀髪には突然なったの?」

と私は尋ねた。


「はい、8歳のお誕生日に」

とヘンデルは答えた。


「ちょっと待って、私、貰い手がないんじゃないの?」

と私は尋ねた。


ヘンデルは何も言わず、目を伏せた。

なにそのYesしかない沈黙は。


えぇ~。

完全に結婚で逃げ切りルート消滅したんですけど。

どうするの?


(ぐぅー)

お腹が鳴った。


「お食事をご用意いたします」

とヘンデルは、そう言い去っていった。


私は部屋を見渡す。

広く豪華そうな室内だ。

ふかふかのベッドに、清潔なシーツ。

毛足の長い絨毯。

クローゼットには高級そうなドレスがいくつもあった。


これ売ったらいくらくらいするのかな?

途端に興味が湧いてきた。

私は室内を物色する。

ふと鍵のかかった引き出しが目に入る。

鍵とかどこにあるのだろう。

私は体を探る。

あった。

ネックレスに鍵がついていた。

引き出しを開けると、

多数の宝石が入った宝石箱と日記が目に入る。


私は日記を読む。

知らないはずの字が、すいすいと頭の中に入ってくる。

そこには、

ローズワール家の次女アリーサの苦悩がつづられていた。


……

8歳の誕生日。

私の黒髪は突然銀髪に変わった。

銀髪は不吉な象徴として忌み嫌われる。

私がその立場になるなんて、思ってもいなかった。

もう私を娶ってくれる人などいまい。

きっとデューイ様も婚約破棄されるに違いない。

お父様が、

ヘーデンヴォロイドのまがいものを掴まされた。

若いころから目をかけていた商人なのに、

裏切られたと悲しんでおられた。

この家も終わりだと。

お兄様は言っておられた。

家督を継ぐ気もなさそうだった。

お姉さまはすでに嫁がれているので、

大丈夫かもしれない。

私は、もうダメかもしれない。


おいおい。

なにこの展開。

まじか。


いや……。

マジでどうしよ。


(こんこんこん)

ノックの音がして、ヘンデルがやってきた。


「どうぞお食事です」

とヘンデルは言った。


パンに紅茶、ケーキに、オムレツ、じゃがいも、スープ、フルーツ、そしてお肉。

なにこれ、めっちゃ豪華じゃね。


「どうしたの、何かのお祝い?」

と私は尋ねた。


「そんな嫌味をおっしゃらなくても、申し訳ございません。

これしかご用意できなくて」

とヘンデルは申し訳なさそうに言った。


ちょっと待て、

この世界、感覚違いすぎるんじゃね?


「前は他にまだあったのかな?」

と私は尋ねた。


「えぇ、前菜とお魚もございましたし、他にも何品か」

とヘンデルは答えた。


やば。

こんなに食えないし。

しかし、

どうしよ。


「えっとね。とりあえず、私が良いって言うまで、パン、オムレツ、じゃがいも、スープだけにしてくれる?」

と私は言った。


「それは良いですが、本当によろしいので?」

とヘンデルは尋ねた。


「なんかね。最近食欲がないから、食欲がないのにムリに食べると、体を壊すって本にもあったし」

と私は言った。


「そうですね。お体に悪いのはよくありません。それではいつでも戻せますので、お申し付けください」

とヘンデルは言った。


私は食事を始める。

めちゃくちゃ美味い。

なにこれ?

えっ、普段からコレ食ってるの?

なにバカなの?

いやバカじゃねぇわな。

めっちゃパンとか美味いし、スープも超いい出汁出てるし、

なにこれ?


「ちょっと待って、これ誰が作ってるの?」

と私は尋ねた。


「すみません。少しお待ちください」

とヘンデルは驚いて部屋から去っていった。


数分後、ヘンデルは少しくたびれたおじさんを伴ってやってきた。


「この者が作りました。この家のシェフです」

とヘンデルは言った。


シェフはおどおどしている。

「何か不手際でもありましたでしょうか」

とシェフは尋ねた。


「違うの。スゴイ美味しかったからビックリしたの?

これどこで買ったの? パンとかスープとか」

と私は尋ねた。


シェフはキツネにつままれたような顔をしている。

「私が全部作りました。スープも4時間くらい煮込んで、パンも今朝焼きました」

とシェフは言った。


「あなたすごいわね」

と私は言った。


「ありがとうございます」

とシェフは言った。

見ると、目に涙をため、帽子を握りしめている。


「なにか、私、変なこと言ったかしら」

と私は尋ねた。


「いえ、そうではありません。私どもは怒られる事はあっても、褒められることは少ない身。感動しておるのです」

とヘンデルは言った。


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