使い道
「例えばなのだけど、子供たちでチームを作らせて、瞬間的に手が足りていない所に、随時派遣するのはどうかな?」
と私は尋ねた。
「派遣するか……」
と執事は呟いた。
「たしかに、瞬間的に手が足りないタイミングは、どこでもあるわね」
とヘンデルはうなづいた。
「この方法なら、一つの職能を叩きこむより、色々できるから、応用力がつくのでは?」
と私は尋ねた。
「なるほど。それなら兵士になっても、職人になっても、潰れることがない」
と執事は言った。
「そうですわね。子供たちも不安がなくなるでしょう」
とヘンデルは答えた。
私たちは、子供たちをチームにし、手が足りていない所への派遣要員とした。
屋敷の中だけではなく、祭りの手伝いや、繁忙期の商店や農家への派遣など、フル活用した。
もちろん危険な作業は断ったし、時間制限もした。
子供たちも、始めは戸惑っていたし、逃げ出して孤児院に戻る子もいたが、逆に孤児院から来たいという子供も出始めた。
孤児院を出た少年少女たちが、イキイキと働き、大人になっていく姿に興味を覚えたそうだ。
私は少し罪悪感を感じていた。
私のいた国では少年少女たちは労働力とされない。
それは搾取であり違法とされるからだ。
しかしその国から転生した私は、孤児たちを労働力として使っている。
世界が違えば、やり方も考え方も異なる。
そのことはわかっていても、染み付いた考え方はすぐには変わらない。
そういえば、
盗賊は傭兵団を作り、高利貸したちは別の商売をはじめたらしい。
中には氷菓子を売っている者もいるのだとか。
盗賊も、高利貸しも職を変えた。
私も職を変えた。
考え方も変えざるをえなかった。
そして、私の影響でこの世界も変わる。
私は少し不安になっていた。
自分の考えたことがきっかけで、世界が変わるのは気持ちがいい。
悪だと思っていた者を懲らしめるのも、気持ちがいい。
しかし、その気持ちよさは、ほんの一瞬だけだ。
高利貸しを脱税で追放した時、多くの領民が感謝してくれた。
間違いなく善政だ。
お父様も称えられた。
でも、あの追放者たちの目が忘れられない。
私の眠りは浅くなった。
私は思った。
権力の維持とは、このジレンマを何千回と繰り返すことなのだと。
それでも私は、考えることをやめる気はなかった。
……
孤児たちの食事代などは、外への派遣収入で、賄えるようになった。
ただ、一抹の不安があった。
いろんな労働を覚えると、多能工にはなり、不安は減るが、やはり勉強ができないと、収入は安定しないという現実だ。
それに、読み書きができないと、紙で意思の伝達ができない。
これは致命的だ。
そこでお父様に相談してみることにした。
「ねぇねぇお父様。相談事をしても良い?」
と私は尋ねた。
「相談事?もうすでに決まってるんじゃないのかい」
とお父様は笑いながら言った。
「決まってません」
と私は膨れる。
「冗談だよ。それでどうしたんだい」
とお父様は言った。
「孤児たちなんだけど、読み書きできないの。読み書きできないと、紙でやりとりできないでしょ。不便じゃない」
と私は答えた。
「まぁたしかにね。ただ問題は……。
わかるよね」
とお父様は苦笑いをした。
「じゃあ。ただでできるなら、やっても良い」
と私は尋ねた。
「そりゃもちろんさ。でも難しいよ」
とお父様は笑った。
「そうよね。難しいわよね」
と私は顔をくしゅっとさせた。
「ちょっとくらいだったら、出してやっても良いよ」
とお父様は言った。
「どのくらい?」
と私は尋ねた。
「そうだな。山を一つやろう」
とお父様は言った。
「山をどうするの?」
と私は尋ねた。
「売るとか貸す以外なら、なにをしてもいいぞ」
とお父様は笑った。
山一つと言われても、正直ぴんと来なかった。
でも、なぜか胸の奥がざわついた。
私は、お父様に山の場所を教えてもらい、
執務室を後にした。
まったく、何も浮かばない私は、執事に相談することにした。
「ねぇねぇ。お父様にね。孤児たちに読み書きを教えたいと言ったら、お金は出せないが、山をくれるって言われたの。どうしたら良いかな?」
と私は尋ねた。
「山ですか?ご当主様も面白いことをおっしゃる。
これはですな。お嬢様を試されておいでなのです」
と執事は笑った。
「えー。面倒くさい。だって山だよ。読み書きを教えるのと、山ってどう関係があるの」
と私はむくれた。
「ははは。まったく関係なさそうですね」
と執事は笑った。
「執事はこの山って知ってる」
と私はメモを見せた。
「ここの山なら庭師が詳しいです。紹介しましょう」
と執事は言った。
私たちは庭に向かう。
すると20代前半くらいの庭師がいた。
「エドガー。ちょっといいか」
と執事は庭師を呼ぶ。
「どうも。どうされました」
とエドガーは不思議そうな顔をしている。
「お嬢様がな。あそこの山について知りたいと言われてるんだ」
と執事は答えた。
「よろしくね。エドガー」
と私は笑顔を作った。
「お嬢さま。チーズの水ありがとうございます。お陰で調子がよくって、山のことならなんでもお聞きください」
とエドガーは言った。
「では、頼んだぞ」
と執事は去っていった。
私はエドガーに事の顛末を説明する。
「それで、どうしたらいいと思う?」
と私は尋ねた。
「その子供たちに、読み書きを教えるのに、どれだけのお金がかかるかわかりませんが、山の木や薬草を売れば、お金はできるかと思います」
とエドガーは答えた。
「なにか。当家のお宝が隠されてるとか、じつは金山だとか、そういうのはないの?」
と私は尋ねた。
「それはさすがにないと思います。金山ならすでに採掘されているでしょうし、お宝が隠されているなら、お嬢様にも秘密にされますよ」
とエドガーは笑った。
「さすがに、そうよね」
と私も笑った。
「じゃあ、コツコツ。売れるものを探して、売ってお金にするのが良さそう?」
と私は尋ねた。
「それが手っ取り早いかと」
とエドガーは言った。
私の次の遊びは決まった。
孤児たちに読み書きを教えること。
そして使えるのは、お父様から貰った山。
これから、どんな出来事が待っているのか、ちょっとワクワクしてきた。
END




