反発
料理教室が順調に進んだことで、パン屋、お菓子屋、飲食店の売上はよくなったが、思わぬ横やりが入った。
問屋や仲介業者からのクレームだ。
「別にほっておけばいいのだが、ちょっと頭を悩ませていてね。アリーサの助言を聞きたい」
とお父様は言った。
「どうかしたの?」
と私は尋ねた。
「私から申し上げます。訴えによると、当家が計量を勧めるようになり、ムダに買い物をする客が減り、売上が下がったと。そう訴えておるのです」
と執事はため息をついた。
「なにそれ。言いがかりじゃない」
と私は言った。
「そうなんだ。完全に言いがかりだ。しかしね、なにか上手い手はないかね」
とお父様は申し訳なさそうにしている。
私は考えた。
一つのグループの利益が、他のグループの利益を損なう。
それはよくある事だ。
でも、それにいちいち対応していたら、変な方向に進むのではないだろうか。
しかし、そんな事も言っていられない。
「具体的に、その根拠を数字で求められるかしら。
その訴えが本当に妥当なものかどうか、判断しないとなんとも言えないわ」
と私は言った。
「わかりました。
その根拠を書類で出させましょう。必要なら証人も揃えさせます」
と執事は答えた。
「そこまでしなくてもいいのではないか?」
とお父様は心配そうな顔をした。
「別に相手を疑っているわけではないの。そうではなくて、どこに問題が隠されているかをあぶりだしたいだけ。そうしないと問題が見えないわ」
と私は答えた。
「そうだね。わかった。じゃあそれで頼む」
とお父様は言った。
「御意に」
と執事は答えた。
執事が業者に根拠を数字と書面で求めると、業者は何も言わなくなった。
詳しく調べると、かなり杜撰な経営をしているらしく、数字的な根拠を求められると、その杜撰な経営状態が明らかになるため、提出を見送ったそうだ。
そして、曖昧なまま、問題は終わった。
「しかし、あの業者は何だったんだろうな」
とお父様は言った。
「もしかすると、まずい兆候でもあるかもしれませんから、調べてみられては?」
と私は答えた。
「そうだな。調べてくれ」
とお父様は言った。
そこから執事は、その業者に赴き、帳簿の状態を調べる事にした。
すると、非常に高金利で高利貸しから金を借りていることがわかった。
「旦那様。この高金利は見逃せません」
と執事は言った。
「しかし、どうする? 高金利では取り締まれんぞ」
とお父様は答えた。
「その方、そんなに儲けておられるなら、ずいぶん税金も納めていらっしゃるのでしょうね」
と私は呟いた。
お父様が執事に目配せをする。
「調べてまいります」
と執事は言った。
執事が調べたところ、表向きは稼いでいないように見せかけ、裏では多額の脱税をしている事が発覚した。
「没収だな」
とお父様は呟いた。
その後、高利貸しは財産を没収され、領地から追い出された。
うちにクレームを入れた業者は、借金が帳消しになり、首の皮がつながった。
お父様は、執事に命じて、高利貸しが他にもいないかの調査を行った。
結果、18の業者が見つかり、どれも脱税をしていたため、財産は没収され、領地から追い出された。
お父様は
「思った以上に根深かった」
と肩を落とされた。
聞いたところによると、業者たちは北方の寒い地方に渡ったそうだ。
追放された人々の中には、小さい子供もいた。
高利貸しを行ってはいるが、孤児院を運営している者もいた。
お父様は正しい行動をされたはずなのに、なにかスッキリしないものを感じた。
「お父様。お顔の色が優れないわ」
と私は言った。
「最近、眠れなくてね」
とお父様は答えた。
「追放した件ですわよね」
と私は尋ねた。
「そうなんだ。正しい事をしたはずだが、なんとも」
とお父様は言った。
「孤児院はどうするおつもり?」
と私は尋ねた。
「当面、資金はあるらしいのだが」
とお父様は答えた。
「当家で引き取っては?」
と私は言った。
「孤児を育てるほどの余裕はないな」
とお父様は答えた。
「いいえ。そうじゃないの。雇うのよ」
と私は言った。
「雇う? 孤児をかい」
とお父様は不思議そうな顔をした。
「そう。
孤児院を出ても、職が安定しませんし、放置すれば盗みなどに行きやすいです。ですから雇うのよ」
と私は答えた。
「しかし、何をやらせる?」
とお父様は言った。
「そうね。はじめはトイレの始末とか、単純な作業でいいわ。
給料もなくてもいい。
ただ食事と寝る場所を与えればいい。
そして将来的には、兵士にしてもいい。
街で働いてもいい。
ずっといてもいい」
と私は答えた。
「そうだな。妥当な案かもしれないな」
とお父様は言った。
「最高の案ではないと思うの。でもたぶんマシではあると思うわ。
だってお腹が空くのは辛いし、眠るところがないのは嫌だもの」
と私は答えた。
「そうだね」
とお父様は目を細め、私の頭を撫でてくれた。
そこからお父様は、孤児院に打診され、孤児院の一部の子供たちを雇い入れることにした。
使用人からは、仕事を奪われるのではないかという不満が少し出たが、執事の一言で収まった。
「お嬢様が、さぼっている者を見逃すと思うか?
最近の我々の仕事はどうだ。
以前より忙しいではないか。
孤児院の子供たちが来たところでなんだ。
もっと忙しくなるかもしれないのだぞ」
それを聞いた使用人たちは、皆笑っていた。
……
私は執事とヘンデルとで、子供たちにさせる仕事を話し合った。
「それで、雇ったはいいが、何をやらせるかですね」
と執事は渋い顔をしている。
そりゃそうだ。
今の段階でも、仕事はちゃんと回っている。
人手不足ではないからだ。
「一つ聞きたいのだけど、子供たちの事を思えば、何をやらせるのが賢いと思う?」
と私は尋ねた。
「合理的に考えると、一つの職能を叩きこむのがいいのですが……」
と執事は考え込む。
「しかし、それですと、その仕事がなくなった時、途方に暮れてしまいます」
とヘンデルは答えた。




