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嫌われ者

『転売ヤーなんて〇んだほうが良い』


そんな書き込みを見たことがある。

その転売ヤーが、荷物に押しつぶされて、亡くなったと聞いたら、

あなたはどう思うだろうか?


8月26日6時38分。

私は静かに亡くなった。


あの買い込んだ商品たちは、どうなるのだろうか?

できれば高値で売れて欲しいものだ。

間違っても、リサイクルショップに持ち込み、買い叩かれないで欲しい。

荷物に圧迫されながら、そう考えていた。


人間は未練が残ると、浮遊霊になると聞いたことがある。

私に未練はあるのだろうか……。


ある。未練はある。

ただ金。金が欲しかった。

金持ちというゴールが見たかった。


私はそのゴールをひたすらに目指した。

そして、誰にも気が付かれないまま、この世から消えようとしている。


役所に『死亡』という届出がなされ、そして戸籍から存在が消える。

それが死だ。


おそらくクリック一つで、私の人生は完結する。

何十年苦労しようが、どんなに悪さをしようが、どんなに善行を積もうが、クリック一つで完結する。


意識が薄れる。記憶が薄れる。生への執着が薄れる。

死とはこんなにも生暖かく、曖昧なものなのか。

私はなぜ金持ちというゴールを目指したのか。

金持ちになって、私は何をしたかったのだろう。

それが思い出せない。


頭の中に、過去の記憶がぐるぐると回る。

あぁこれが走馬灯か。

子供の頃、

ゲームを買ってもらえなかった思い出。

ただ家でボーっとしていた思い出。

ロクな思い出はない。

もっと、ないのか?

私の記憶は。

テストで78点を取った思い出。

バレンタインデイで、チョコレートを貰ったことがない思い出。

ヤンキーに喧嘩相手と勘違いされて、殴られた思い出。

好きな子が陽キャの同級生とデートしていたのを目撃した思い出。

今いる工場に入社した時の思い出。

せどりに出会い人生が変わると思った思い出。

初めてせどりで売れた時の思い出。

せどりで累計100万円の売上を達成した時の思い出。

ゲーム機の転売で知らない客に罵倒された思い出。


私の人生は、こんなものだったのか。

もっと何か、劇的なものはなかったのか……。


「おい、聞こえるか。おい、君」

誰かの声が聞こえる。


ここはどこだ。

辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子が浮かぶ。


「誰かいるのですか?」

私は言った。


「ここにいるよ。この光ってるのが私だよ」

光から声が聞こえる。


「あなたは誰ですか?」

私は尋ねた。


「私かい? 私は君らがいうところの神様だよ。うっかりとはいえ、ずいぶん不本意な死に方だったようだね」

と神様は言った。


そうか、死んだのか……。


「それで、ここは天国とか、そういう所ですか?」

私は尋ねた。


「そうだね。天国というか、中継地点だね。輪廻転生ってあれだよ。知ってるでしょ」

と神様は答えた。


「まぁわかりますけど、それで私は転生されるんですね」

私は尋ねた。


「そうなるね」

と神様は答えた。


「神様、私は今度の人生ではどんな結末を迎えるのでしょうか?」

私は尋ねた。


「はっ、何言ってるの君バカなの?」

と神様は言った。


「いや……、気になるじゃないですか」

私は言った。


「よく考えてみろ。

アニメやゲームのエンディングより、アニメやゲーム内であった些細な出来事のほうが記憶に残っている。

人生も同じだ。

最終結果より、途中の景色のほうが心に残る。

そんなものだよ」

と神様は言った。


「でも私の人生。最後も途中もつまらなかったんです」

私は言った。


「君ね。人生面白くするかしないかは、自分次第だよ。

なにかに囚われると、周りが見えない。

一休みして、周りの風景をよく見てみることだ。

それが楽しいかどうかは、知らないけどね。

じゃあな。あばよ」

と神様は言った。


再び意識が薄くなっていく。

あぁそうか。私は結果ばかりに囚われていて、途中の景色のことを忘れていた。

だからつまらない人生に思えたのか。


………


「お嬢様。お嬢様。大丈夫ですか。お嬢様」

誰かの声が聞こえる。


ふと気が付くと、身なりの整った老婆が、私をじっと見つめている。

「あなたはどちら様ですか」

私は尋ねた。


「お嬢様しっかりなさってください。メイド長のヘンデルです」

とヘンデルは言った。


メイド長のヘンデル?

言っている意味がわからない。

たしか輪廻転生するとは聞いていたが……。

どういうことだろう。


「アリーサお嬢様は、お風邪をひかれて高熱で倒れられたのです」

とヘンデルは言った。


アリーサお嬢様……。

私のことかな。


そうか……、

私はお嬢様に転生したんだ。


じゃあ、今回の人生は勝ち組確定か。


もう苦労しなくていいんだ。

そう思うと、長い間封印していた何かが壊れた。

目から涙があふれる。


「お嬢様、どうされました?お加減が悪いのですか」

とヘンデルは戸惑っている。


どうしたんだろう。

なんだろう。

この気持ちは……。

やっと報われた。

その安心感が何かを壊した。


「ねぇ。ヘンデル。私はどんな子なの?」

と私は尋ねた。


「お嬢様。本当に大丈夫ですか?」

とヘンデルは心配そうな顔をしている。


どう答えれば怪しまれずに済むだろうか。


「多分、熱の影響ね。記憶が曖昧なの」

と私は答えた。


「それならよろしいですが、アリーサお嬢様は、ローズワール家の次女。御年8歳になられます」

とヘンデルは言った。


次女ということは、家督とは関係のない身分かな。


「お兄様は?」

と私は尋ねた。


「お兄様は騎士団に入団されて5年が経ちます」

とヘンデルは答えた。


騎士団に入団しているということは、まだ家督を継いでいないということかな。


「お父様は?」

と私は尋ねた。


「当主様は、先日の件で伏せっておられます」

とヘンデルは言いにくそうに言った。


先日の件、伏せっている。


「記憶が混乱しているの。先日の件って何かしら」

と私は尋ねた。


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