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1 婚約者は救いようのないお馬鹿さんです

わたくし、シャーミィ・トルナードは苛立ちが限界を迎えておりました。

なぜなら視界に入れたくもない男が、さっきからベラベラ、ベラベラとうるさいんですもの。


「聞いているのか? シャーミィ! 本当にお前は愛想が無いな」


はぁとため息をついてわたくしを蔑むように見下すのは、この国の第一王子、ラクンボ・クシュフー様。金髪碧眼の美男子ですが、家臣からの評判はすこぶる悪く、傲慢な性格のため彼の周囲にはイエスマンしかおりません。


わたくしは彼と会うたびに、そのやかましい口を大針で縫い付けてやろうかと脅したくなるのですが、腐っても彼は王族。わたくしはしがない伯爵令嬢なので表立って盾突くことはできません。嫌々ながら頭を下げます表面上は。


「……申し訳ございません。わたくし、全く好意を抱いてない方には愛想を振りまくことができない性格ですの」

「なっ! 何だと!? 貴様、不敬罪でしょっ引くぞ!」

「不敬罪だなんて、そんな五十年以上も前に撤廃されたような法律を持ち出されても困りますわ。あら、わたくしったら気付かずにすみません。ラクンボ様なりのジョークでしたのね」


ほほほほほ、と優雅に笑うと、ラクンボ様はお顔を真っ赤にして怒鳴ってきました。


「俺はお前のその性格が大嫌いなんだ! ちっとも俺を立てようともせず、嫌味ばかり! いくらお前が美人だからといって、許されるものではないぞ!」


あらまぁ。これはある意味褒められたのでしょうか? だいたい、わたくしが嫌味を言うのは彼が嫌味を言ってくるからですし、彼を立てようにも立てられる実績が何もないので、どうしようもないのですが。


「もう俺は我慢の限界だ! よって、貴様との婚約は破棄する!」


え、嬉しい。と言いかけてどうにか口をつぐみました。聞かれたらうるさそうですし。

そう。実はわたくしとラクンボ様は婚約者同士という関係でした。過去形で語れるのは嬉しいのですが、わたくしたちの場合、そう簡単に婚約破棄はできないはずです。


「婚約を破棄するには、聖女の代替わりが必要となりますが? 国王の許可も必要ですよ」


しがない伯爵令嬢のわたくしですが、実はこの国の聖女をやっております。

聖女とは、女神ファドミーレ様のお力を借りて魔物からこの国を守るという役目を持った存在です。この国の慣例で、聖女は基本的に王族に嫁ぐことになっており、聖女となったわたくしとラクンボ様もその例に則って婚約しました。

……お互いに、不満だらけでしたが。


「ふん! 問題は無い! 父上に懇願し続けたからな! 毎日朝昼晩と深夜に突撃して、ようやく許可を得たのだ!」


うっわ。国王様が気の毒過ぎます……。甘やかしたツケかもしれませんが、そんな精神的に追い詰めるようなやり方をされれば、許可してしまうのかもしれませんね。


「ですが、わたくしのもとへは何も連絡がきておりませんが?」

「先ほど許可が出たばかりなのだ。父上は、分かったからもう少し待ちなさいと言ってくださった!」


えぇ~……それ、まだ許可されてないんじゃありません? 先走り過ぎでしょう。


「俺は、公爵令嬢のロデクシーナと新たに婚約を結ぶ! お前はもう、お払い箱だ!」


わーっはっはっは、と得意げに笑う姿にイラっときます。ロデクシーナ様と言えば、メーダ公爵家のご令嬢で非常にグラマーな方でしたね。なるほど、色気にやられたわけですか。


「……代替わりしても、聖女がロデクシーナ様になるとは限りませんが?」


聖女とは、基本的に女神ファドミーレ様が選定されます。代替わり自体は、当代の聖女が望めば叶えられますが、人物を特定することは不可能です。聖女となるには、女神ファドミーレ様から与えられる力に耐えられることが条件となりますので。


「ロデクシーナはな、お前なんかよりよほど魔力量が多いのだぞ? お前が聖女を退けば、次に聖女となるのはロデクシーナに間違いないのだ!」


……馬鹿め。あ、いけませんわ。言葉遣いが悪くなってしまいました。そもそも、ファドミーレ様の神力と魔力は別物です。そんな基本的なことも知らないなんて、本当にこの方は顔以外取り柄がありませんね。そのお顔もわたくしは大嫌いなのですが。


まぁでも、わたくしにとってもこれは渡りに船です。ラクンボ様の態度はクソムカつきますが、婚約を破棄できるのであれば、彼を応援して差し上げましょう。


「ラクンボ様の要望は承りました。では、わたくしは聖女の代替わりのための準備に取り掛かりますね」

「珍しく素直だな! まあいい、もたもたせずにとっとと準備するんだぞ!」


わーっはっはっは、と高笑いしながらラクンボ様は去っていきました。


……ハゲろ!!





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名前が気になり過ぎる。
ネーミングセンスに脱帽てす。
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