家族トリップ 慣れ始めたある日、近くの川から桃が流れてきました
タイトル 百地さんちの桃事情
彩花の家族、百地さんちの紹介をしよう。
山間にある辺境の地、いや、そこまで辺境じゃないのだけど、それなりに不便で不思議な場所に百地さんたちは住んでいた。
四方を山に囲まれ、舗装のされた道路は一切ない。広く拓けた場所なだけに、山のふもとまで行くのが面倒だった。
近くに川が流れ、そこには川魚がひしめき合っている。竿を入れれば入れ食い状態なその川は、時に遊び場であり、時に遊び場であった。
そんな自然に囲まれた場所に、百地家所有の古民家は鎮座している。
広い居間は百地さんちのちょっとした自慢。そこに面した中庭には、様々な植物や樹木が植えられている。垣根はなく、広大な敷地の中、百地さんの家は常に丸見えだ。
少し歩くと畑があり、そこには野菜が豊富に栽培されている。無添加無農薬。とっても美味しいお野菜は、近所ではとっても有名だった。
そんな百地さんちの家族構成は、強面顔のお父さんの樹、優しいお母さんの佳奈枝、平凡で音痴な彩花は高校2年生、ツンデレな弟の青葉は今年高校受験の中学三年生の四人家族。
喧嘩して、仲直りして、笑いあって、慰め合って、手を取り合う非常に仲のいい家族がこの地に来たのは、今から二年前のこと。
樹の亡き両親から受け継いだ立派な日本家屋と庭ごとこの地に落ちた。
最初の一ヶ月は……、まぁそれなりに慌てふためいたけど、家族みんな無事でよかったじゃん、と誰かが言うと、三人がそうだね~と同調し、今にいたる。
辺境の地、電気も下水もガスもない不思議なその土地で、今日も百地家は元気いっぱい、笑顔いっぱいで洗濯機で洗濯し、熱々のお風呂にお気に入りの入浴剤を入れて、出来たての美味しいご飯を食べるのでした。
百地さんちは衣食住に関して文句は何一つない。
種類豊富の野菜は家の庭に腐るほど実っているし、山菜はそこらじゅうに生えている。食材に関して欲しいものは特にない。なぜならデザートだって魚介類だって肉だって、冷蔵庫にたんまり入っているから。
食材は冷蔵庫から無限に出てきた。食材を取り出して扉を閉めて、もう一度開けると同じ食材がそこに同じように収まっている。
時々無理難題(例えばフォアグラが食べたい、松坂牛が食べたいなど)を言うと、次の日になると不思議なことに、冷蔵庫にデデーンと入っていたりする。
最初は喜んだ百地さんちだが、それと引き換えに一定の食料が一定の期間消える(多分高級食材と同じ値段まで消え続けるのだ…)ことに気づいてからは、難題を言うことは少なくなった。
人参やら玉ねぎが長期間消えるのはまだいい。しかしデザート類に至っては一ヶ月、米に関しては二週間消え、その時の甘味と米を探す百地さんちは徘徊する浮浪者のようだったと、見ていた小動物たちは子馬鹿にして笑った。
電気やガスも使え、トイレも流せて、お水も蛇口から出てくる。なので、庭の水撒きは川の水を…なんてことは一切ない。
家の中は前と何も変わらない。そう、一緒に落ちてきた敷地の中の状況だけが、まるで時が止まったままのように、この地に来る前と全く一緒なのだ。
ありがたや、ありがたやと感謝していた百地さんちも、半年過ぎると当たり前のように感じ、何も言わなくなった。
その報復かは知らないが、三日間冷蔵庫の食材が減り続けるという事件があった。食べざかりの男が二人、三日で食料は底をついた。
川魚と山菜、野菜で飢えをしのぎ、冷蔵庫の大切さを身をもって体感した百地さんちは、冷蔵庫に頭を下げ感謝の言葉を吐き続けた。
扉を開け食材が戻って来た時の感動と言ったらない。
それ以来百地さんちでは冷蔵庫を『冷蔵庫さん』と呼んでいる。一日一回冷蔵庫さんを拭き、「今日もありがとう冷蔵庫さん!いつもありがとう古民家さん!」と頭を下げる。
現代人から見たら非常に馬鹿らしいが、今の百地さんちでは生死に関わる事なのだ。笑ってはいられない。
庭ごと落ちてきたのだから、車庫も付属していた。車二台と自転車二台。車はファミリーカーと軽自動車、自転車は彩花と青葉の物だ。
車で麓まで行っても道がなければ山を走れない。足で行くにはきつそうだ。自転車なんてもっての外、転んじゃう。じゃ引き返そうか、というのが百地さんちが麓に行った時の、定例の会話だった。
ガソリンも減らない、車は汚れるが、カーワックスなども減らないので洗車し放題だ。車好きの樹は怖い顔で笑っていた。
***
そんな百地家に転機が訪れたのが一年前のこと。この土地に慣れ始めた時だった。
彩花と青葉は今日も元気に喧嘩をしていた。理由は青葉の釣った魚が大きいだの量が多いだの、そんな下らないものだった。
ギャーギャーと言う彩花が急に黙りこくったのを不思議に思った青葉は、彩花が見つめる先、川の上流に視線を向けた。そして目を見開いた。
ドンブラコ、ドンブラコ。聞きなれた効果音。とっても有名な某日本昔話で良く聞いた言葉だ。
ドンブラコって思いの外ぴったりの言葉だったんだな…。ドンブラコと流れる巨大な桃を見つめながら、青葉はふと呟き、それを聞いた彩花はコクコクと頷いた。
二人はそれを見守った。見守ったと言うか見送った。丁度二人の前を通り過ぎようとした時、その桃はドゴっと鈍い音を立て、急に止まった。音と共に、二人は大きく肩を揺らす。
そうっと桃と川の接地面を見ると、なんと桃は小さな岩に引っ掛かって止まっていたのだ。あり得ない。そう思えるほどの小さな岩だった。
不自然なほどぴたりと微動だにしないその様と言ったら、まるで二人を見つめているかのようで―――拾え~、拾え~。はよ拾わんかい、アホンダラカス~。と何故か関西弁で再生された―――思念を飛ばされた気がした。
「い、嫌な予感がするよー」
彩花は桃を見つめ言った。
「や、止めろよ。縁起でもない」
後にその“嫌な予感”が的中することとなる。
佳奈枝を呼び、桃の処理を尋ねた。食べるか放っておくか。
ちょんとつつけば再びドンブラコと流れるだろうけど、なぜかそれが出来なかった。やはり無言の圧力が桃から発されているのだ。
「あらまぁ。大きな桃ね」
普通ならば「ぎゃー、でかい!こんなでかい桃有り得ない、テレビ局に投稿だ!」となるけれど(一年前の百地さんちではそうだったに違いない)、不思議な土地に住み慣れた百地さんたちは、“大きい桃”の一言で済まされる。それがたとえ一メートル近い巨大な桃でさえ、そうなのだ。
「食べきれないわね」
「やっぱり食べるのかー」
「だって冷蔵庫さんの中には桃、ないじゃない?」
「そうなんだけどさぁ」
「おい、台車」
ゴロゴロと台車を押しながら樹が姿を現した。四十歳とは思えない筋骨隆々の体と強面の顔は、近所ではちょっとした有名人だった。
怖い顔なのに趣味は庭いじり。特技はどんな植物や野菜でも必ず立派な花や実を付けさせることという、なんとも言えないギャップを持っていた。
ギャップ萌えをしないとも有名だ。しかし野菜は美味しいと有名でもある。
特技は幼少時から習っていた柔道、今でもトレーニングをするという徹底ぶりだ。しかし趣味は庭いじり。
マッチョなおじさんが花を見て笑う姿を見て、子供二人は顔を逸らす。妻だけが頬を染め、「樹さん…」と愛おしそうに名前を呼ぶのだ。
そんなギャップに萌えたただ一人が佳奈枝だったのだろう。見れたものじゃない。
そんな樹が桃を見て「うお」と驚いた声を発した。
「世界には、こんなにも巨大にできる人が居るのか……」
なぜだかライバルを目の前にしたような声音だった。
「なんで人断定なの。てか人でも自然でも、流石に無理」
「どうやって一メートルにするんだよ。なる前に木が折れるだろ。何十キロあるんだよ」
樹は「だな…」と恥ずかしそうに眼を逸らした。きっと子供達に指摘され恥ずかしかったのだ。佳奈枝がいつぞやのように頬を染め、「樹さんったら…」と呟いた。
「それにしても美味しそう。早く運んで食べましょう」
「葉、押せ。父さんが引き上げる」
「はーい」
青葉は川に入り桃を押した。不気味なほどあっけなく動き、余りの軽さに岩に引っ掛かって動かなかったのが不思議なくらいだった。
引き上げる作業も難なく終わり、四人で桃が乗った台車をゴロゴロと押しながら家に向かう。と言っても家と川は目と鼻の先だ。
「桃ジュース飲みたいね」
「あ、オレも」
「お母さんは桃のシャーベット作りたいわ~」
「父さんは…」と樹は考えたけれど、桃の料理が浮かばなかったので、取り合えずと思い「父さんも桃シャーベット」と佳奈枝の意見に賛同した。
キッチンに運ばず、桃は庭に下ろされた。
その様を見て彩花は呟く。「シュール…」巨大な桃だけが非現実的で、何だか妙にシュールだった。
「何で切る?包丁じゃ刃が中心まで行かないわよね」
「斧とかはどうかな?」
「そんな大きい斧あったかしら…」
「中華包丁は?」
「うーん」
「チェーンソーなら車庫にあるぞ」
佳奈枝は「果肉飛び散らないかしら?」と言った時だった。
桃がカタッと揺れたのだ。
「地震?」
「多分地震だ」
彩花の問いに青葉は頷いた。
「まだ揺れてるわー」
「桃だけが」
揺れの感覚は一切体に伝わらず、揺れているのは目の前にある桃一つだけ。
四人一斉に首を傾げた。
「この桃、バイブ機能付いてんじゃね?」
「ちょっ!うけるぅ~」
ブルブルと桃は震える。まるで怯えるかのように。彩花は震える桃に手を当て、「見て見て、二の腕マッサージ~」と笑って青葉に顔を向けた。
「オレもオレも!…あ、コイツ、震えなくなった!」止まった桃に青葉は悪態をつく。
「取り合えず包丁で少しずつ剥ぎ取りましょう」
佳奈枝は縁側から台所に消え、すぐに包丁を持って現れた。もう片方の手には大きなアルミ鍋の取っ手が握られている。
佳奈枝は桃にサクッと包丁を突き刺した。青葉はアルミ鍋を抱え、佳奈枝が削いだ果肉を鍋に受け取る。樹と彩花は縁側に座ってボーっとそれを眺めていた。
「あら?案外果肉少ないのね」
厚さ二十センチも満たない場所で、堅い何かに包丁が当たる。種だ。
「本当だ。まぁこれだけ有れば十分でしょ。ん、うまい」
「あっ、青葉ずるい!私も、私も…」
青葉の服を掴みがくがくと揺らす彩花に「ほら」と言って、青葉は口に桃を突っ込んだ。
「お、おいし~い。もっとちょうだい」
口を開けようとする彩花の頬を手で押さえ、グイッと背けさせると「後で!向こう行ってろ」と言った。樹は「花、おいで」と言うが、彩花は見向きもしない。父は桃に負けたらしい。
青葉の「邪魔」という一言にようやく縁側に座り、膝を抱えるとそのままごろんと転がった。気分は先ほどより低下している。
一時間ほどかけ果肉を削いだ。桃は変色が直ぐ始まるので、鍋の桃はすぐに台所へ運び、ジャム用、アイス用、生食用などと、幾つかに分けて保存した。
彩花は削いだばかりの桃を口に含みながら、残った種を見つめた。全長七十センチほど、クルミのように茶色くごつごつしていて、桃の良い香りが発せられている。
皿に移した桃にグサっとフォークを刺す。パクっと口に放り込んだ。ジュワッと甘い果汁が口に広がり、口を動かしながらじーっと種を見る。
「おい花、何してんだよ」
青葉は彩花のことを花と呼ぶ。樹も佳奈枝もそう呼ぶが、弟の青葉も姉の彩花を呼び捨てるので、彩花は面白くない。ちなみに青葉は葉だ。
「いや…。種が」
「はぁ?」
もぐもぐ、ごくん。
「種が、揺れてまして」
揺れと共に、ゴンゴンと中から音が聞こえてきた。青葉は「うーわ…」と心底嫌そうに声を発した。青葉のそんな声は初めてで、彩花は至極驚いたように目を見開いた。
佳奈枝を再び呼び、種の処理を尋ねた。捨てるか埋めるか…、それともかち割るか。
「埋めましょ」
佳奈枝はさもありなんと言い放った。
「うちの庭、リンゴも桜も柿もミカンも埋まってるのに、桃だけないでしょ」
以前から埋まっていた樹木は、ここ数年で格段に成長した。成長し過ぎて落ち葉の処理が非常に面倒だった。
「きっと立派な木になるわ。だってこんなに種が大きいんだもの」
「種から木ってなるの?」
「なるわよ。すーっごく時間かかるけどね。でもすぐ大きくなるわよ。ここはそういう場所なんだし」
「そうだね」と彩花はなぜだか納得してしまった。佳奈枝は庭の一角を指さし「あそこら辺に埋めましょう」と、埋める場所まで提案する。
「うん、じゃあさっさと埋めよう。シャベル持ってくるね」
「樹さーん!樹さーん!」
「どうした?」
「種を植えるから手伝ってくださいな」
「分かった」
「…みんな、聞こえないとは言わせないぞ」
「えっ、えー!?なんの事?種から声なんて、そんな、ねぇ?」
確かに種から、微かながらも「――なん…こ…。…て……、……から――」と聞こえてくる。しかし厚い種子に覆われ、良く聞き取れない。
種から声がするなんて、あまりにこの地に慣れ親しんだ百地さんちでも、受け入れたくないようだった。
「なんて言ってるのかしら?」
「“なんやコラ、いてこますぞ!しおから”って言ってるのかも」
「こわっ!てか塩辛は花が食いたいんだろ」
「バレたか」
酒のつまみ類が大好きな彩花であった。
「流しちゃいましょ。それ、えーい!」
「か、母さん待って!」
種を転がそうとした佳奈枝を、青葉が止めた。
「コレ割ろうよ」
「ばっ、ちょま、おま、バーロー!変なの出てきたらどうすんのよ!」
「んー。割るなら斧?斧ならここに…」
「佳奈枝さん。危ないから」
「まぁ樹さん…」
斧の受け渡しをするだけで見つめ合う夫婦に嫌気がさし、彩花は斧を取り上げると種に向かい「ふっふっふ」と笑った。
「渾身の力を込めてこの刃をくれてやるわ!」
「ね、姉ちゃん落ち着いて!」
青葉が彩花を姉呼ばわりする時は、大抵彩花を本気で止めたいときである。
動かないようにと種の四方を石で固定し、家族が見守る中、樹は斧を振り上げた。
本当は彩花がやりたいと言ってきかなかったのだが、今日の晩御飯を彩花の好物であるコロッケにすると佳奈枝が言うと、嬉々として斧を樹に渡した。
振り上げた斧は種に突き刺さった。相当固かったらしく、刃は数センチ刺さっただけでその動きを止める。もう一度振り上げようと斧を抜いたその時、ピシッと音を立て、種に亀裂が入った。
ピシピシッ。亀裂は種を二つに切り裂き、まるで意図的かのようにきれいに割れる。
――――そしてそこからゴロリと転がり現れた人間の手…。
「いやぁーー!」
「わーーーー!」
「……!!」
「…!」
「ぎゃーーーー…」辺り一帯に、百地さんちの悲鳴(主に彩花と青葉二人の声)がやまびことなって響き渡った。
百地さんち自慢の居間には一組のベッドが敷かれていた。そこに眠るのは一人の男。一言で言うならば麗人と言う言葉が一番合うだろう。
黒い髪は腰まで伸ばされていて、ロン毛嫌いな彩花でさえも「か、かっこいい…」と呟いてしまうほどのビューティフル・フェイスだった。深すぎない堀と微かに黄色みのある肌、そして日本とは少し違う服装。さながらチャイニーズのようだ、と彩花は見て思った。
そんな麗人はやつれた顔で昏々と眠っていた。とうとう父が殺人を犯したと嘆いた三人だが、種から現れた人物を見て、つい恍惚のため息をついた。
「睫毛ながっ!肌白っ!髪の毛サラサラ!メンズだよね?」
「生きてる?寝てる?死んでないよな?」
「…寝てるみたいね。それにしてもイケメンねぇ」
「と、父さん、凄くびっくりした…」
彩花は麗人を見て嬉々として喜び、青葉は麗人を見て生死の確認をし、佳奈枝は彩花の言葉に賛同をして、樹は一人己の心境を三人に吐露した。樹は見かけによらず肝が小さいらしい。
桃の種から生まれた麗人は、地面に転がったまま動かない。胸が微かに動いているから、生きて、しかも眠っていることが伺える。
このままにはできないと樹は麗人を持ち上げ、佳奈枝は布団を敷くために慌てて居間に上がった。体格の良い樹が微かに顔をしかめる。麗人は思いの外重いようだった。
彩花は佳奈枝の手伝いをし、青葉は率先して冷水とタオルの準備をした。何かとチームワークが良い百地さんちである。
干したてのふかふかの布団に樹はそっと麗人を寝かせる。そのふかふかな布団を見ているだけで眠くなる、と彩花は一人心の中で呟いた。
佳奈枝は麗人の頬を優しく拭いながら、「お昼どうしようか?」と三人に尋ねた。
「スパゲティ」
「そうめん」
「うどん」
ちなみに彩花、青葉、樹の順番である。三者三様の意見に佳奈枝は笑う。
「じゃあ間を取って、今日はお蕎麦ね」
「えー!」「間取ってねぇーし!」「うどん…」三人の非難の声が上がるが、佳奈枝は気にせず再び麗人の頬にタオルを当てた。
時刻はお昼を少し回ったころ。佳奈枝と彩花は昼食の準備に、樹は畑に水をやりに行って、青葉は麗人の世話をしていた。
と言っても青葉の場合、麗人の横で本を読んでいるだけだなのだが。
台所から「葉くん、ご飯出来たから樹さん呼んできてー」と佳奈枝が声を上げた。「んー」と、佳奈枝に聞こえるか聞こえないかの声で返事をする。
本にしおりを挟みパタンと閉じた丁度その時、彩花が茹でたての蕎麦を持って居間に現れた。
「ほら、ご飯にするから片付けて。あと早くお父さん呼んできてよ」
「わーってるよ」
「桃太郎早く起きないかなぁ」
「なんで」
立ち上がりながら青葉は彩花に尋ねた。
「だって邪魔なんだもん」
確かに、と思いながら、青葉は麗人をまたいで庭に出た。
四人揃って座卓を囲むと、各々「頂きまーす」と言って食事を始めた。
今日の昼食は蕎麦と天ぷら各種を取りそろえております、うんぬん。
天ぷらは生姜と大葉を入れた蕎麦つゆに入れると、不思議と味がさっぱりする。
油ものが苦手な青葉だが、佳奈枝の揚げ物はいくらでも食べられる。それは佳奈枝が料理上手なだけかもしれないけれど。
大量に茹でられた蕎麦も天ぷらもあっという間に消えていく。うまいうまいと皆が言う中、突如グーッと腹の音が響いた。
「ちょっと葉、まだ足りないの?」
「俺じゃねーよ!父さんでしょ?」
「父さん、吐きそうだ…」
「樹さん食べ過ぎよ。ちなみにわたしでもないわよ~」
じゃあ誰?
四人の視線はゆっくりと麗人に向かった。布団の上に未だ眠る麗人。未だ寝ているが、眼は開いていた。「ひっ…」彩花から小さな悲鳴が上がる。
「お腹…空いた…」
麗人は呟くと、再びグーッとお腹を鳴らせた。
百地さんち
*樹*
お父さん。四十数歳で体ががっちりしていて、しかも強面だから初対面の人は大抵一歩後退する。けどとても優しく親切なので、皆最後は別れを惜しむほど。
趣味は庭いじりと洗車、特技柔道。あまりしゃべらない。
*佳奈枝*
お母さん。三十歳後半の割には若く見える。多分言動のせい。
おっとりしていてのんびりやさん。けれど家族の危機となったら動きは光のごとく素早いとか。
料理がとても上手で、好き嫌いのある人でも、佳奈枝の料理なら大丈夫ということが多々ある。
樹さんとラブラブ。
*彩花*
中だるみの高校二年生。家族からは花と呼ばれている。
音痴なのがコンプレックス。母に似て料理上手だが、あまり知られていない。
学校生活よりも今の自給自足生活の方が性に合ってると感じている。
家から離れた小高い丘がお気に入り。
*青葉*
高校受験予定だった中学三年生。リアリストでツッコミ気質なツンデレ。
彩花とはよく喧嘩するが、何だかんだ言って仲が良い。
なんでもそつなくこなすタイプで、一日四時間の勉強時間を己で設けている。
*麗人*
一年前に桃から現れた麗人。名前はまだ不明。地球で言うチャイニーズのような風貌。
おまけ↓
*冷蔵庫さん*
百地さんちの運命を握る。冷蔵庫は減り知らずで、食べたい物を願って扉を開けると入っていたりする。
悪態をついたり冷蔵庫さんに害を与えると、食べ物が消えてしまったりするので要注意。
*古民家さん*
百地さんち。二年前に落ちてきた。一階建てで、広い居間と立派な庭が自慢。
だったんだけど、落ちてきてからは庭が果てしなくなった。
一緒に落ちてきた物は減り知らず。
電気も下水もガスもない場所だけど、掃除機はかけられるし、トイレも流せてガスコンロも使える、不思議な古民家さん。
*百地さんちが落ちてきた場所*
とても広い平野にポツンと古民家。周りは山。
古民家さんの近くには川が流れていて、魚はいるし水はきれいだしと言う事無し。
時々桃が流れてくるようになるけど、今の百地さんたちは知る由がない。
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とても長くなったので二つに分けます。
近いうちに更新できると思うので、気長にお待ちください。
桃太郎ってどうやって桃に入ってたんでしょう?
やっぱり種に入ってたんですかね?
でないとグチャってなりますよね、グチャって。