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リアルな少女戦隊物 シリアス

もし現代で戦闘ヒロインが居たらこんなんだよなーと思って書きました。


タイトル未定

皆が私を見つめていた。

何かを期待する目で。媚びる目で。身がすくむほどの冷たい視線で。

ナイフのように鋭い視線が、体に突き刺さる。


『フラワーローズ。お前はどうして人間に加担する?』


今にも消えゆくアクーナが、私に問いかけた。


「私が人間だからよ」


そう、私は人間なの。私が生まれ育った世界を、地球を守るために此処に居る。

宇宙から来て地球を滅ぼそうとするアクーナを倒すために選ばれたたった一人の戦士なの。

アクーナは笑う。自嘲的な、嘲笑しているような笑い方で。

私は幾多もの視線を無視し、アクーナを見つめた。


『お前も分かっているはず。人間の汚さを、人間の愚かさを…』

「…」

『消えるべきは人間なのだ。…ローズ…』


風に吹かれる砂のように、アクーナは消散していった。

冬を目前にした冷たい風が私に吹きつく。

寒い。凍えてしまいそう。凍え死んでしまいそうな、この世界。

私の背後で誰かが囁いた。


「またこんなに建物を破壊して…」

「いい年して恥ずかしくないのかしら?」

「おい、見ろよ!フラワーローズだ!写メ、写メ!」


やめて…。やめて…。


「無駄に壊して」

「税金で賄われてるって知らないのかしら?」

「おれローズのパンツ写メったし!」

「お前最悪~!後で送れよ!ぎゃははっ」


よろりと一歩ふらついた。

ああ、お願い。止めて。止めてお願いだから私を黒く染めないで誰か助けてだれか。

両掌で顔を覆う。視界が暗闇に包まれた。


「ぷぷぅ…。起きるぷぷ、葵」


ゆっくりと目を開けると、そこにはプーナが居た。

炎のように赤い色をした体毛に、黄色の不思議な模様が描かれている体はふわふわと柔らかく丸っこい。

そして天使のような羽が生えた不思議な生き物は、アクーナと同じく地球外生命体のプーナだ。

私のパートナーである彼は、どこか悲しそうな目で私を見つめた。

周りを見渡すと今居る場所が自室だと気づく。

先ほどまで町に居たはずなのだ。そう、アクーナと戦っていたのだ…。


「プーナ…」

「大丈夫ぷぷか?」

「うん…。大丈夫」


痛かった。悲しかった。辛かった。動けなかった。

体が、心が、精神が、魂が泣いていた。

もう嫌だ、もう嫌だと泣いていた。


「プーナが運んでくれたの?ありがとう」

「…ぷ」


どこか引きつった笑みでプーナは笑う。

笑いたいのに笑顔が直ぐに消えてしまい、大きな瞳が微かに潤む。

私は何も言わずにプーナの頭を一撫でしベッドから起き上がった。

体に鈍痛が走り、私は「…っつ」を声にならない声を上げる。

腕には青いあざが生々しく残り、体に巻かれた包帯には薄っすらと血がにじんでいた。


「傷は大分塞がってるぷぷ。でも動き過ぎたら、また開いちゃうぷ~」

「それは怖いね。気を付けるよ」


パジャマを脱いで制服に着替えた。

髪を緩く三つ編みにして鏡の前に立つと、そこには青白い顔をした、今にでも倒れてしまいそうな女子高生がそこに居た。


――――消えるべきは人間なのだ――――。

アクーナの声が、離れない。


血を流す私を見て、皆は指を差して罵倒し嘲笑する。

お前が壊した建物の下敷きになって、弟は怪我をした!

良い年した女が、コスプレみたいな恰好して、恥ずかしくないの?

まさか自作自演なじゃないよね?だとしたらマジ害悪。

てかコイツが居なかったら、アクーナも来ないんじゃね?

私に気を使う言葉など、一つもない。


私が居なかったら平和になるの?

だったらプーナがくれたコンパクトだって、喜んで返上するわ。

でも出来るわけがなかった。

私は選ばれたたった一人の戦士なのだ。

神に?いいや、違う。

悪魔に、選ばれてしまったのだ――――。


フラワーローズ。それは私のトランス後の名前だ。

薔薇のように気高く美しく。

トランス後に変わる深紅の髪と、薔薇のツタのような鞭を使う事からそう付けられた。


銀河系の中でも豊かな植物が生い茂る地球に、アクーナと言う地球外生命体が攻め込んできた。

それはもう三年前になる。

当初は阿鼻叫喚し、まさに地獄絵図。

外国から戦力として軍が駆り出されたが、人間が作り出した兵器は、アクーナに小さな傷さえ付けることが出来なかった。

そこで現れたのがプーナだった。

プーナは太陽の化身で、己の子供である地球を守ろうとやって来たのだ。

プーナは己と波長が合う人間を捜し、アクーナと唯一戦える人間として私を選んだ。


当時15歳だった私は使命に燃えた。

アクーナと戦えるのが自分しかいないことと、勝利後に日本国民が皆両手を上げて喜んでくれたから。

フラワーローズ、フラワーローズ!

賞賛と共に呼ばれる自分の名前が心地よかった。

それが変わりはじめたのは一年を過ぎた辺りだった。


その日も何も変わらない。

日本に現れたアクーナと戦い、勝利した時のことだった。

「いつまで続くんだろう…」観衆の誰かが呟いた。

当たり前の言葉だった。終わりが見えないアクーナとの戦いに、誰もが疲れていたのだ。

その言葉をきっかけに、まるで伝染するように言葉が吐き出される。

「またかよ」「あ、俺怪我してる!」「てか壊し過ぎ」「街中ですることじゃないでしょ」

観衆の視線が私に集まった。それはいつもと違う、寒々しくて、突き刺すような視線だった。

観衆は見えない未来の不安と憤りから、怒りの矛先を私に変えた。

身近で同じ種族の、人間である私に。


家の階段を降り、一階のリビングへ入る。

そこには母が居り、丁度食卓に朝食を運んでいる途中だった。


「おはよう葵ちゃん」

「うん、おはようママ」

「今日は葵ちゃんが好きな、チョコクロワッサンよ」

「…わぁ」


あまりに幸せな会話に、「おいしそう」という言葉は涙にかすれて消えてしまった。

母は涙声を聞き、微かに肩を揺らすが何もなかったかのように「温かいうちに食べちゃいなさい」と言って、キッチンに消えた。

椅子を引き、湯気が上る朝食の前に腰を下ろした。

数分もしない内に弟と父がリビングに入ってきて、食卓の椅子に座った。

反抗期なのか弟は何も言わず、元から寡黙な父は無言だった。

二人に挨拶をしようと口を開くが、弟の顔を見て私は目を見開いた。


「朔。その顔…」


口元にはガーゼが貼られていた。

付近の肌は赤く腫れている。朔は私から視線を逸らすと眉根を寄せ舌打ちをした。


「うるせーよ」

「…」


何も言えなくなり、朝食を口に運んだ。

大好きなご飯の味が分からなくなったのは、いつからだったか。


玄関の扉を開け学校へ向かおうとした私に、背後から声がかけられた。

振り向くとエプロンで手を拭きながら立つ母が居た。

私は首を傾げる。


「どうしたの?」


言い淀む母は視線を泳がしてから、真っ直ぐな目で私を見た。


「行ってらっしゃい。気を、付けてね」


母は何も知らない。

今では蔑ろにされるフラワーローズが私だと、娘だと知らない。

けれど時折全て知ってるんじゃないかと思う時がある。

例えば今のようにわざわざ呼びとめ、背中を押してくれる時。


「うん…」


「行ってきます」が言えなかった。

生きて家に帰れるかなんて、約束できない。

「頑張って来る」が言えなかった。

もう充分頑張ってるのに、誰も褒めてくれない私は、今にでも膝から崩れ落ちてしまいそう。

「ありがとう」が言えなかった。

そんな言葉を言ったら、涙が零れ落ちてしまう。


小さな返事を返し、私は扉を閉じた。

青い空が憎々しいほど広がっていた。


「姉貴」


家から離れた時、朔が後ろから駆け寄る。

息を乱した姿はもう一人の男性だ。泣き虫朔ちゃんはもう居ない。

背は私の背を軽々と越し、声も低く喉仏が出ている。

昔は私をお姉ちゃんと言って後を付いて歩いたのに、今では私を姉貴と呼び、私が後を付くように歩く。

年月とは恐ろしいものだ。


今朝の不機嫌な朔が脳裏に浮かび、機嫌を伺う様に「何?」と聞いた。

頬には勿論、ガーゼが貼られたままだった。

「俺…」言葉がつまる。

今日は家族が変だった。どこかソワソワしていて、落ち着かない空気。

父も寡黙さが更に寡黙さが増し、沈黙していた。


「姉ちゃん、頑張ってると思う」


久しぶりに聞いた“姉ちゃん”。

そして、私に言った“頑張ってる”。

何に対いて?学校に対して?勉強の事?

確かに勉強は苦手だ。赤点を取らないよう頑張っている。


「皆は分かってない。姉ちゃんがどんなに苦労して、泣いてるか」


そこまで苦労はしていない。

テスト一週間前に気合を入れるくらいだから、泣くなんて…。


「姉ちゃんも分かってない。俺たちが、どれ程姉ちゃんからの言葉を待ってるか」


勉強が苦手ですって?申告するほどでもないわ?


「血を流して帰って来る姉ちゃんを見て、母さんはいつも泣く」


その言葉が決定打だった。

頭の中で下らない返事をして、真実をはぐらかしていたが、それはもう敵わない。


「父さんは母さんの横で、唇を噛んで眠る姉ちゃんを見守って…」


包帯を巻いてくれたのは誰だ?

プーナ?あり得ない。あの小さな体は見た目通り非力で。

朝起きて「運んでくれてありがとう」?

違う。運んだのは父と朔だ。そして包帯を母が変えた。

気付かなかった。気づいていたはずなのに、見て見ぬふりをしていた。

アクーナと戦った後、必ず私の大好きなチョコクロワッサンだった。

朝はご飯とみそ汁だと豪語する父と朔も、チョコクロワッサンの時だけは何も言わずに口に運ぶ。

私はさも当たり前かのように、その光景を見ていたのだ。


「俺は、何も出来なくて」

「そんなこと、ない」

「姉ちゃんの泣き声を聞くたび、死にたくなる」

「そんなこと言わないで!」


私は何のために戦っている?

私を罵倒する国民のために戦っているのだろうか?

私の唯一の仲間であるプーナのため?

いや、違う。

私の唯一の家族を守るため、戦っているのだ。


「言う。ちゃんと、言うから…」


三年前から私がフラワーローズとして戦っていること。

始まりから今に至るまで、全てを包み隠さず言うと朔に約束すると、朔は昔に戻ったかのような笑顔を私に向けた。


俺も言う。

この傷、姉ちゃんを馬鹿にしてたやつを殴ったら、殴られたんだ。

頬のガーゼを撫でながら、朔は嬉しそうに言った。

でも、最後は勝ったよ。

叱るべきなのだろうけど、それ以上に嬉しくて、私は涙を拭って朔と一緒に学校に向かって歩き出した。


トランス後は髪の長さと髪の色、そして顔半分にマスクを付けているからか、私の正体を知る者はいない。

それが尚の事、正体を暴こうと躍起になる人間を作り出すのだ。

トランスする瞬間と解く瞬間、どんな時でも気が抜けない。

本当の私まで浸食されでもしたら、と思うと身が震えた。


教室はいつもと滞りなく皆が楽しそうに話していた。

ドラマの話、漫画の話、宿題の話、男女の話。

そして当たり前のように混ざる、フラワーローズの話。

仲のいい智ちゃんが「おはよう」と私に挨拶をしてきた。


「おはよう」

「ねぇ葵。宿題やった?ちょっと答え合わせしない?」

「うん、良いよー」


智ちゃんは「やった」と言って、鞄からプリントを取りだした。

その横をクラスでも騒がしい部類の男子が通り過ぎる。


「これマジもん?」

「マジだって!兄ちゃんが撮ったんだぜ」

「スゲー。ローズのパンツはアンダースパッツか」

「現実なんてこんなもんだよな~」


携帯を見ながら通り過ぎる。

不愉快で、顔をしかめた。


「下らない」


智ちゃんは言う。


「ローズのことなんて、どうでも良いじゃない」


何かに頭を殴られた気がした。

智ちゃんはパッと視線を上げる。

そしてにっこりと笑い、さも当然かのように「ねぇ?」と言った。


「…うん」


フラワーローズ。薔薇のように気高く美しく。

駄目だよ、プーナ。花はいつか散るもの。

もう私の中の薔薇は、枯れてしまった。

枯れてしまった花は、二度と同じように咲けない。


姿を変えたコンパクトは、懐中時計として身につけている。

胸ポケットに入れたそれは微かに震え、私にアクーナの出現を教えた。

恐怖で身がすくんだ。上手く呼吸が出来ず、脂汗が吹き出た。

やだ、行きたくない。怖い。もう嫌だよ!

教師が唱える教科書の内容は、まるで呪詛のようだった。

世界がグルグルと回る。

――――ああ、飲み込まれて…、しまう。


「先生!」


呪詛が止む。


「向日さんが、具合悪いみたい」


震える手で肩を抱いていた私はのそりと顔を上げ、声の主を探した。


「んー?そうなのかぁ、向日」

「…はい」

「保健室行くかぁ?」


気だるそうに先生は私に問いかけた。

頷き肯定を示す私に、先生は「森!」と声を上げた。

森。それは私の背後に座る、男子生徒の名前だ。

「何ですか」と森くんは返事をする。

それは先ほど先生に進言していた声と同じものだった。


「向日を保健室に連れてってやれ」

「はーい。行こう、向日」


立ち上がる私の肩を、大きな手が支えた。

暖かくて優しくて、具合が悪い事を理由に、私は泣いた。


保健室に入るも保険医は不在で、森くんは私をベッドに運び寝るよう促した。

上履きを脱ぎベッドに入る。

直ぐに教室に戻るかと思っていたが、森くんは椅子を枕元に引き寄せるとそのまま腰を下ろした。


「帰らないの?」

「五分くらい良いだろ」

「そう…」


その五分くらい屋上付近の階段で過ごしても、そう変わらないだろうに。

彼は律義にも私の傍に寄り添っていた。

コンパクトは未だに震えている。すでに五分は経過していた。

どれ程の損害と負傷者が出ているのか、考えるだけで恐ろしい。

プーナが心に何やら語りかけるが、私はそれを一切シャットアウトしていた。

のんびりと白い雲が流れていく。


「…お前、どうしたんだよ」


窓から視線を外し、森くんの顔を見た。

無表情で、何が言いたいのか分からない。


「どうしたって?」

「分かんないの?」


私は首を傾げた。


「いつも、泣きそうな顔してる」


そう言われたのは初めてで、少し驚いてしまって顔を背けた。

笑顔を心がけていたが、どうも駄目だったらしい。


「そんな事無いけど」


眠気をアピールするかのように布団を手繰り寄せた。

涙が重力に比例して枕を濡らす。


「俺は太陽」


貴方の名前は森太陽。それくらい知ってる。


「お前は向日葵」


むかいあおい。漢字ではひまわり。

心の薔薇は枯れ、元気いっぱいだった向日葵は背中を丸め萎れてしまった。

まさに名は真を現す。皮肉なものだ。


「向日葵なら太陽を見てろ。したら、すぐ元気になる」


涙を拭い森くんを見た。

彼は頬を赤く染め、小さく「く、くっせー。なんつって…」と言って席を立つと、「お大事に」と言って保健室を出て行った。

向日葵は太陽を常に見ている。輝きを変えぬ唯一の光を。


「葵!アクーナが…」

「うん…」


コンパクトから飛び出したプーナは私に飛びついた。

プーナを支えた手は、もう震えていない。

あと少しだけ信じてみよう。

永遠に変わらぬ光を持つ、彼を想って。

私の闇を拭いさってくれる、家族を信じて。


私は保健室を飛び出した。

どんな言葉を掛けられようが、私は私を待ってくれる人だけを思って戦おうと、心に決めた。






向日葵 むかいあおい

18歳の受験生。15歳の時プーナと出会い、それ以来地球上たった一人の戦士。


フラワーローズ

深紅の髪を風になびかせ、鋭い鞭を振るう姿は正に一輪の薔薇。

目元にマスクをしているため、素顔はバレていない。

コスチュームはお任せしますが、出来たらミニスカート希望。

アクーナと戦えるたった一人の戦士。


アクーナ

地球外生命体。緑あふれる地球を乗っ取ろうとやって来た。

貴重な緑をぞんざいに扱う人間たちを見て、滅ぼそうと企む。

花の中で最も美しい薔薇のようなフラワーローズを気に掛ける。


プーナ

太陽の化身。心配性。

ローズの扱いを間近で見て、人間の存在に疑問を抱きはじめる。


森太陽 もりたいよう

穏やかな葵に惚れている。

フラワーローズって何で嫌われてるの?と疑問を抱く一人。

明るくムードメーカー。


葵の家族

ママ

心配性の泣き虫。なんで自分の娘が、と傷付き帰って来る娘を見て常に涙。

パパ

寡黙だが穏やか。ローズを悪く言うテレビを見て、実は二台ほどテレビを壊した。

弟の朔 さく

実は県内では有名な不良。ローズの良いところを吹き込み、着々とローズ肯定派を増やしている。アンチローズは抹殺。


ウル○○マンとかって、壊れた建物誰が直すんですかね?

見ていないのでよく分かりませんが、精いっぱい考えた結果こうなりました。

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