5話 手違い
「良いじゃん、これで行こうよ」
「えーほんとに?」
女に土下座させるって言う虎太郎くんの噂が流れてから数日が経ち、私と果穂は私の家でお泊まり会と言う名の作戦会議をしていた。作戦会議と言うのも、凛太郎くんに告白する手紙の内容を果穂に見てもらうと言うものだ。1回目に書いた手紙は知らないうちにポエミーになっていたらしく果穂は笑いすぎて死にかけていた。そして今、6回目にしてようやくGOサインが出たのだ。
「うん、これで良いと思う、ていうかどうやって渡すか決めてるの?」
「んー、ロッカーに入れようとしてたんだけど、直接渡した方が気持ち伝わるかなって今は考えてる」
でも絶対キョドっちゃうよねー、なんて凛太郎くんに渡す手紙を眺めて渡すときのことを想像する。間違いなく挙動不審になる。完成した手紙をスクバに入れて、告白決行日である明日の顔のコンディションの為に寝るのには早い時間だけど寝ることになった。
翌朝、アラームの音で目覚めて、まだ寝てる果穂に声をかけて起こす。女子高生の朝は忙しい。バタバタと慌ただしく、洗顔、朝食、歯磨き、着替え、化粧、ヘアセットをして、最後に鏡で前髪を確認してから2人で家を出る。
「やばい、心臓もう爆発寸前だよこれ」
「私も菫の緊張が移って緊張して来た」
爆発しそうなくらい騒がしい音を立てる心臓を抑えるように胸に手を当てる。昨日の夜はイマイチ告白する実感がなかったのか緊張なんてしてなかったのに。
告白する流れや、ほとんど確定で振られちゃうと思うから慰め会してね、なんて話をしているとあっという間に学校に到着していた。
「じゃあ菫頑張ってね!」
「もうやるしかないし当たって砕けてくる!」
果穂に別れを告げて教室に向かう。最後にもう1回だけ手紙の内容を確認しようとカバンの中に手を伸ばす。
「.......あれ?」
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果穂side
菫と別れて自分の教室に向かって歩いていると、階段から上がって来た人に気づかず角でぶつかってしまった。灰羽くんの双子の弟くんだ。顔は確かに似てるけど表情が違うだけでこんなに怖く見えるんだな、なんて顔をじーっと見つめていると怪訝そうな顔をされて慌てて我に返る。
「えっと、ごめんなさい、前見てなくて」
「別に、こっちこそごめん…って何か落としたけど」
そう言って何かを拾い上げた灰羽くんの弟くんの手には菫の書いたラブレターがあり、吃驚する。
「うわあ!!!」
菫が渡す前に灰羽くんに手紙のことが漏れたらやばいと焦って、奪い取るように取ってしまった。半ば奪い取った手紙を何となく後ろに隠して目の前で固まっている弟くんを見上げる。
「あの、これちょっと友達の大事なもので、見られたらまずいって言うか、それで、その、奪い取るみたいになってごめんなさい、悪気はなくて…」
「友達って丸井のことだよな」
「えっ?いや、えっと」
私のスクバに間違えて入れちゃったのかな、どうやって誤魔化そう。なんてぐるぐると思考を巡らせて打開策を考えようとするも全く思いつかない。
冷や汗をかく私を一瞥して、別に誤魔化さなくて良いよ、なんて表情を変えずに言い切るので否定しても信じて貰えなさそうだと誤魔化すことを諦める。
何とも言えない気まずい空気が流れて、人が少ないうちに菫に手紙を返そうと足を踏み出すと、弟くんが口を開く。
「あー、あのさ、それラブレターだよな?その、宛名見えちゃったんだけど」
「ほんとに!?うわぁ、どうしよ、あの、内緒にしててくれない?ちゃんと菫の口から伝えて欲しくて」
「……ん、分かった」
承諾してくれた弟くんにほっとして心を撫で下ろしたのもつかの間、すっかり周りに人が増えてきてしまっていた。私が今から菫の教室に行って間違えて私のところに入れてたよ、なんて手紙を渡したら周りの人に何だ何だと注目されてしまう。背に腹はかえられない。目の前でなぜか恥ずかしそうに頬をかく弟くんの胸にドンッと手紙を押し付けて目を見つめる。
「ほんっとに巻き込んで申し訳ないんだけどこれ菫にこっそり渡してくれない!?横の席だよね!?」
「は!?いや、え?それ1番やばいだろ!?」
「君にバレちゃったのは確かにやばいけど周りの人にもバレちゃうより良いから!それじゃあよろしくね!」
押し付けるように弟くんに手紙を渡して、後は任せたという意味を込めて自分の教室に向かって走りながら親指を立てた。後ろで何か叫んでる気がしなくもないけどとりあえず無視だ。菫に、弟の方にラブレターがバレたことをLINEで報告と謝罪をしてからスマホの電源を落とした。