表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4話 作戦と誤解

放課後、いつもならすでに果穂と帰っている時間。

今、私は教室から下足ロッカー前までの道のりをずっと虎太郎くんに付き纏っている。

「虎太郎くん〜!待ってよ〜!」


遡ること約2時間前

椅子の倒れた音が響く教室で虎太郎くんは状況を飲み込めてない私に向かって再び喋りはじめた。

「題して、丸井に冷たく暴言を吐いてるところを1年の女に見せて怖がらせよう作戦」

キリッとそう言い放つ虎太郎くんの真面目な顔と裏腹に、セリフが突拍子もなく思わず吹き出してしまった。

「ふっ、あは、あはは!ごめん、あはっ、もっかい言ってくれる?」

真面目な顔をしてよく分からないセリフを言う虎太郎くんを頭の中で何度も思い出して笑いが止まらない。あまりにも笑いすぎたのか虎太郎くんが眉間に皺を寄せるから慌てて咳払いをして誤魔化す。誤魔化せたとは別に思ってないが。ようやく笑うのを辞めた私にムッとしたまま虎太郎くんは、掴んでいた私の腕を離して倒れた椅子を戻し、座ろうとしていたので私もそれに習う。

「えーっと、ごめんね、もう笑わないからもっかい言ってくれない?」

「次笑ったらまじで許さないからな」

もう一度さっきの作戦の名前を言う虎太郎くんに込み上げてくる笑いを抑えながら詳細を聞く。どうやら虎太郎くんが1年の頃に、近寄ってくる女の子たちに冷たくしていたのは顔目的で近寄ってくることや凛太郎くんに取り入るために利用しようとしてくることに飽き飽きして考えたことだったらしい。怖いと噂されてるから1年が入って来ても大丈夫だろうと思っていたのに案外そうも行かなかったらしい。また、双子の怖い方と呼ばれてるのは知っていたみたいだ。むしろ作戦通りだとドヤ顔をしている虎太郎くんについ笑ってしまいそうになり顔を背け、落ち着いてからまた顔を戻した。

「大体は分かったよ、でも何で私だったの?」

「………1番仲良い女子だから」

「えっ、虎太郎くんの1番仲良い女の子私なの?」

私なんてせいぜいクラス替え初日と今話してるくらいだ。それでも双子の怖い方と呼ばれて女の子に怖がられて近付かれない虎太郎くんからすると、私と話した数は多い方なんだろうか。何か嬉しいな、と思いながら虎太郎くんの方に目を向けると耳がほんのり赤くなっていることに気づいて胸がぎゅう、と締め付けられる感覚がした。

「なんだよ、何で何も言わねえの?」

「あ、いや!何でもないよ!ただ嬉しいなって思って」

いつもより早く鼓動する心臓の音に困惑していたら虎太郎くんに声をかけられて我に返る。何をいつどうすればいいのか虎太郎くんに聞いて、作戦は放課後、いつも凛太郎くんの連絡先を聞こうとしてくる1年生の女の子たちが来る下足ロッカー前での決行に決まった。


「虎太郎くんってばー!聞こえてるでしょー!」

そうして今に至る。自分でも何やってるんだろ、なんて我に返って恥ずかしくなるんじゃないかな、と考えていた5、6時間目だったが案外楽しく演じることが出来てる。この階段を降りて数十メートルも歩けば下足ロッカー前に着く。そろそろだな、とワクワクしながら虎太郎くんを追いかけてると浮かれていたのがいかなかったのだろうか、足を踏み外してしまった。

「えっ」

ヒュッと音にならない音が口から漏れる。目を瞑って硬い床に打ち付けられるのを覚悟していたが、感じたのはドンッと言う鈍い音と痛み、ではなく、抱きしめられているような感覚を覚えた。恐る恐る目を開けると、目の前には虎太郎くんの肩があり虎太郎くんの腕は私の頭と腰に回してあった。床に頭を打ち付ける前に虎太郎くんがギリギリで助けてくれたみたいだ。

「…………あっぶな」

頭の上から聞こえる声にハッとして、慌てて虎太郎くんの腕から抜け出し、立とうとするが足に力が入らず床に座り込む。虎太郎くんは起き上がってズボンの汚れを払っていた。

「虎太郎くんほんっとにごめんなさい!私浮かれてて!」

ゴンッと頭を床に着けて虎太郎くんに土下座する。虎太郎くんは慌てた様子でとりあえず顔上げろ、無事なら良いからと手を差し伸べてくれた。命の恩人だなぁと泣きそうになって顔を上げると視界の端に青ざめた顔の1年の女の子たちが居た。

「今、虎太郎先輩、あの人に土下座させてたよね?」

「やばすぎでしょ、噂より怖いじゃん!」

「ほんとに!…ってきゃあ!こっち向いてる!!!」

まるでお化けでも見たように私たちを見て逃げ出した1年の女の子たちにしばらく呆然としていると、虎太郎くんが咳払いをしてまた私に手を伸ばして口を開いた。

「あー、まあ、作戦成功だよな」

「………そだね、目標は達成したよね、何か思ってたのと違うけど」

虎太郎くんの手を取って立ち上がり、1年の女の子たちが走って行ってしまった廊下を見つめる。虎太郎くんがキレると女の子に土下座をさせるという噂が広がったのは翌日のことだった。とりあえず虎太郎くんは凛太郎くんには誤解を解き、私は私で果穂と村上に誤解を解き、村上のおかげでキレると女の子を土下座させるという誤解は同学年の間では解けることとなった。命の恩人なので虎太郎くんが学校に来にくくなってしまうと申し訳がないので助かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ