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2話 灰羽虎太郎

「高校生活なんて一瞬に過ぎるよ」と誰かが言っていたように、あれから瞬く間に時間は過ぎて、高校1年生を過ごしたクラスメイトが集まる最後の日、新しいクラス発表の日になった。うちのクラスは他のクラスと比べて仲が良かったように思う。何かのイベントの後には必ず打ち上げが村上によって開かれた。

「俺まじでみんなと別れるの悲しいわ」

今も教団に立って泣きながら話してる。最初に感じた通りやっぱりお調子者だった。私と果穂、周りの皆もそれを笑いながら聞いている。

「おい!凛太郎!お前なんで泣いてねーんだよ!」

ビシッと村上が指さした場所には男の子と女の子が集まる中心に凛太郎くんが居た。だる絡みの標的にされた凛太郎くんはほぼ呆れ顔で、でも楽しそうに俺だって悲しいよ、なんて話していた。

ついでに言うと、初めに果穂に話しかけた勇気ある男の子、本田くんは果穂に告白して見事に玉砕した。未練がましく教室の隅の方の席で果穂を見つめながら、周りにいる友達にからかわれていた。

「はーい、お前ら仲が良いのは分かったから全員席着け〜」

教室の前の扉を開けて担任が中に入ってくる。手元には紙の束を持っており、いよいよクラス発表の紙が配られるのだと鼓動が速くなる。全員が席に着いたのを確認して担任が口を開く。

「えー、今から新クラスが書かれた紙を配る、どうせ言っても無駄なのは分かってるがあんまり騒ぐなよー」

そう言い放って、窓際の1列目から順番に紙を配っていく担任。端からざわざわと声が大きくなり、私にも紙が回って来た。後ろに残りを渡してから紙に目をすべらせ私の名前を探す。3組だ。誰がいるのか確認しようと視線を上下させると灰羽の文字が目に入った。

(うそ、凛太郎くんとまた同じクラスになれた!?)

さっきまで緊張して速くなっていた心臓の鼓動は、別の意味でさらに鼓動を加速させた。もうお察しのように、私はまんまと凛太郎くんに恋に落ちたのだった。特に大きなきっかけは無かったように思う。いつの間にかそういう意味で気になる男の子になり、いつの間にか好きになっていた。

(………あれ、灰羽虎太郎?)

喜んだのも束の間、よく見ると灰羽凛太郎ではなく灰羽虎太郎と書いてあることに気づく。

灰羽虎太郎、先輩にも同学年にも人気の灰羽凛太郎の双子の弟だ。最初こそ、どちらも顔が良くイケメン双子と話題になったが、灰羽虎太郎は凛太郎くんのように自分を見に来た先輩や同学年の女の子に愛想を振りまくどころか「邪魔、何?」なんてピシャリと言い放ったらしい。そこからは愛想がない、怖い、生意気などなど言われ今ではすっかり灰羽双子の怖い方と呼ばれている。だけど不思議と男の子から灰羽虎太郎の噂は聞かないから恐らく女の子にだけ怖がられてるのだろう。

「はぁ、果穂クラス離れちゃったね」

「私より灰羽くんと離れた方がショックなんじゃないの〜?」

3組に蓮見果穂の名前はなく、がっかりしてそう言えば果穂は心底楽しそうに私の頭を撫でながら軽口を言う。

凛太郎くんと同じかと思えば灰羽虎太郎の方で、虎太郎さんには失礼ながらも、上げて落とされたような気分になり、しかも果穂とも離れてしまい気分は最悪だ。机にぐでーっと頬をつけて新クラス発表の紙を見つめていると前から村上が歩いてくる。

「おいおい何しょげてんだよ、俺と一緒じゃん、もっと喜べよ〜、な?」

肩を掴まれグイッと起こされる。本当に強引な男だ。ムスッとした表情を隠そうともせずに村上の方を見て口を開く。

「別に村上はお呼びじゃないんだってば」

「ひっでぇなー、果穂も何とか言ってくれよ」

私の肩を掴んでいた村上に今はガッシリと肩を組まれている。けらけら笑いながら村上は果穂に視線を送りそう言うと、果穂は頬杖を付いて別に事実でしょ、なんて爽やかな笑顔で答えるから私はつい吹き出した。

「それではみなさん、新しいクラスに移動してください」

校内放送が入り、私は村上に肩を組まれながら果穂とまた放課後にね、と挨拶をして新クラスに向かう。新しいクラスに入る前に村上を引き剥がしてから教室に入り、席が書かれてある紙が貼り出されてある黒板に向かう。村上は早々に名前を見つけたらしく自分の席に歩いて行った。なぜか自分の名前が見付からない。絶対にあるのに全く見つからないこのたまにある謎の現象に果たして名前はあるのだろうか。紙とにらめっこしていると上から影が落ちて来て、ビックリして上を見上げる。

「何してんの」

灰羽虎太郎だ。ぶっきらぼうにそう言った顔は凛太郎くんに似ていたが、眉間には皺が寄っていて、口角は真っ直ぐ。髪は凛太郎くんと比べると少しツンツンしていて、なんだっけ、こんな髪型もテレビで見たな、何か難しい名前の髪型だった気がする、スパイラルコンマバングみたいなやつだ。纏う雰囲気が柔らかい犬みたいな凛太郎くんと比べると灰羽虎太郎さんは懐かない猫みたいだ。身長も多分凛太郎くんより数センチ高い気がする。余計に威圧感があり、やはり怖い方と言われるのが頷ける。

「ごめん、邪魔だったよね、自分の名前見つかんなくて」

「名前は?」

「え、あ、丸井菫」

とりあえず場所を退こうと横に避けようとしたのに、虎太郎さんは私の名前をわざわざ探してくれるらしい。優しいところあるんだな、なんてぽけーっと見つめてると虎太郎さんと目が合う。

「ココ、俺の隣」

「ほんとだ、何かごめんね、ありがと」

私の謝罪と感謝の言葉に虎太郎さんは別に、と頷いて、背を向け自分の席に向かう。その後ろを着いて行き、私も席に座ろうと目を向けると後ろの席に村上が座っていた。

「ちょっと、私の後ろだったんなら俺の前だよーって教えてくれたら良かったのに」

ガッと席を引いて後ろにいる村上に声をかけて席に座る。笑いながら手を合わせてごめんごめん、なんて調子良く言う村上をジト目で見ながら話していると、視線を感じてその方向に目を向けると虎太郎さんが私を見つめていた。村上も私に釣られて虎太郎さんの方を見る。

「…えっと、どしたの?」

「付き合ってんの?」

「「はあ!?」」

とんでもない虎太郎さんの問いかけに思わず村上と声が被る。その様子に虎太郎さんは目を開いてびっくりしてる様子だった。前のめりになりながら村上が必死にナイナイ、なんて手を振るから私も必死に頷いた。

「へえ、そうなんだ」

信じたのか信じてないのかよく読めない表情の虎太郎さんはもう机に伏せて目をつぶっていた。

よく分からない人だな、なんて思いながら私も机に伏せて目をつぶった。

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