魔王様の異世界征服計画!(その1)
「魔王様、ご報告です」
魔王城謁見の間。
荘厳な作りの玉座に座る魔王に向けて、牛の頭蓋骨さながらの頭部を持つ参謀が告げた。
「何だ参謀。申してみよ」
堂々たる体躯の魔王が、玉座に腰掛けたまま先をうながす。
「姫君に先ほど婚約の申し入れがありまして」
タキシードに身を包む参謀が一礼して、魔王に向かい報告を上げた。
「……は? 今なんて?」
魔王が玉座に肘をかけ、髭を生やしたアゴを拳に乗せて聞き返した。
「はい。魔王様のお世継ぎであそばされます姫君、ペケ子様にこの度縁談の申し入れが……」
「縁談ってお前、ペケ子まだ生後3日目とかじゃね? マジで言ってんのソレ」
冗談でも言っているのかと、眉をひそめて魔王が問いただす。
「大マジでございます。魔王連合国の同盟国である豚鬼王トントゥーロ様の使者が、王家の豚足印で呪封された手紙を持ってまいりました」
真顔(といってもいつもの牛の頭蓋骨顔なのだが)で参謀が懐から一枚の親書を取り出し、魔王に見せる。
確かに、豚のひづめ型をあしらったオーク族の王家の印が、その手紙には押されていた。
「あー、あれか。そうか、そういう事か」
しばしどういう事なのかを考えていた魔王だったが、納得いったとばかりにポンと手を打つ。
「相手も世継ぎが産まれたってわけだな。タイミング近いこともあっての提案ってわけか。それはめでたい! 縁談をどうするかはともかく祝いの品の一つでもしてやらんとな! あれ、でも豚鬼王って確か……」
ふと、一つの疑問が魔王の頭をよぎった。
「はい。御年4万飛んで40歳。魔王様と同じバキバキの童貞でございます」
魔王の疑問に参謀が答える。
「だよな。じゃあ何か? その中年童貞豚野郎が生後三日のウチの娘にガチ縁談申し込んでるってわけか? 魔王の俺でもドン引きだぞソレ」
「年の差婚、ここに極めりですな」
「極めてたまるか! 破り捨ててしまえ、ンな呪いの手紙!」
ガン、と玉座の手すりに拳を叩きつけて、魔王が言い放った。
「では魔王様、ご返信の方はいかがなさいます?」
手紙を仕舞い青白い炎を双眸に灯して尋ねる参謀に、魔王が頭をガリガリと掻きながら答えた。
「ああー?『キモデブ豚ハゲ変態ロリペド童貞野郎がキモい夢見てキモい寝言吐いてんじゃねーぞ! キッモ! 二度と話しかけんな童貞!』とでも送っとけ!」
「童貞魔王より、と。はい、かしこまりました魔王様」
取り出したメモ帳に返信内容を書き綴りながら、参謀が答えた。
「ちょっと待てコラ。最後余計なもん付け足すな」
メモをしまい込む参謀に魔王がツッコミを入れる。
改めて参謀が玉座の魔王へと目を向け、冷静な意見を述べる。
「しかしですね魔王様。これ、同盟国との戦争になりません? 魔王連合国内にもオーク族は大勢住んでますし、そんなお気持ち全開で喧嘩売るような真似をなされたら、国内からも反発が……」
「ハ、上等だ。全員ぶちのめして誰が魔族を束ねる王か思い出させてやる。ダテに魔界最強と謳われた親父のおしめ替えてきてねえぞ俺は!」
凄む魔王に、参謀が双眸の青白い炎を揺らめかせて答えた。
「それ、あんまし自慢になりませんよね」
「うっさいわ! とにかくそれで送っとけ! 戦うってんならいつでも戦ってやる! ここらでお遊びはいい加減にしろってところを見せてやるぜ!」
今にもやられそうなセリフを吐く魔王に、参謀がやれやれとばかりに頭を下げた。
「……かしこまりました。これが童貞同士の同族嫌悪という物ですか。争いは同じレベルの者同士でしか発生しない、という人間族の格言が身に沁みますね」
「あ!? 何か言ったか!?」
「いえいえ何も。ところで魔王様、戦争の話で思い出したのですが」
参謀が、白手袋をはめた手の指を一本上げる。
「おお、何だ?」
聞き返す魔王に、参謀が背筋を伸ばしたまま答えた。
「異世界とここを繋ぐゲートの整理をしていましたところ、魔王様が10万年ほど前に攻め込むつもりで繋いでおいた、とある人間界へのゲートを見つけたのですが、いかがいたしますか? 一応下調べもしておきましたが」
「あー、そういやあったな! そんなもん!」
当時の事を思い出し、魔王がその時に見た異界の様子について語る。
「確か、魔法も使えない愚かでひ弱な人間どもが、石オノぶん回していい気になってた世界だったな。ふっふっふ! どれ、この俺が最先端の魔法テクノロジーで真の恐怖というものを教えてやるか」
ニヤリ、とクールなつもりで下品な笑みを浮かべる魔王に、横から参謀が口を挟む。
「魔王様、魔法と言いましても結界張るか筋力強化して素手でぶん殴るかしか出来ないじゃないですか」
図星を突かれた魔王が、参謀を指差してわめいた。
「う、うっさいわ! お前とか四天王とかメイド長とか、色々と使えるだろ! いーんだよ俺は! これ一本でやってきたんだから! ちゃんと父ちゃんの開いた『魔界一武闘会』でも優勝したろ!? あれマジで手加減抜きのガチンコトーナメントだったんだからな! 俺、魔王の息子なのに魔王になれない所だったんだからな!」
「ああ。あの魔王様が決勝戦でメイド長にボッコボコにされて、どうにかこうにかラッキーパンチ当てて勝った、見るも無惨な泥試合トーナメントですね」
「お、お前なぁ。もっとこう『魔王国の歴史に残る大激戦を制した』とか、言い方あるだろ」
忌々しげに舌打ちする魔王だったが、どうにか威厳を取り戻そうと腕を組み、したり顔で胸をそらす。
「ふふん、戦いとは王が前線で自ら戦うモノではないという帝王論は、参謀には分からぬか。無理もない。魔王は俺だし! 俺、お前よか偉いし!」
「はいはい。偉い偉い。で、例の異世界の方はどうされます?」
そんな魔王を参謀はマトモに取り合わずに話を進める。
「もちろん乗り込んで人間どもをギッタンギッタンにしてやる! 魔法も使えぬ下等な人間など、一ひねりだ! 勇者もいなかったしな! うわははは!」
楽勝、とばかりにひとしきり笑い声をあげた魔王が、参謀に尋ねた。
「して、参謀よ。その異世界はどのような状況なのだ? せめて建物くらいは自分たちで建てられるようにはなっているんだろうなぁ」
以前に魔王が見た時は、異世界に住む人類は洞穴を住居に使っておりマトモな建造物は存在していなかった。
その事を思い出しながら、魔王は語りを続ける。
「征服した後で我々が奴らの家を作ってやらねばならんような真似は避けたいからな。我々は征服しに行くのであって救いの手を差し伸べに行くわけでは無い。まあ、穴の中に引っ込んで暮らした経験しか無いような下等な人間どもが、この荘厳な魔王城を見たらあまりの格の違いにおったまげるに違いないだろうがな! はーっはっはっはっは!」
異界の人間族を見下し、魔王が再び大笑する。
「ああ、その心配は無用です。彼ら、この魔王城の数倍の高さはある建造物を剣山の如く町中に立てまくっております故。高々50メートルちょいの高さしか無い我が魔王城など、珍しくもなんともございません」
「……え? どゆこと?」
予想外の参謀の言葉に、魔王が目をパチクリさせる。
そんな魔王に、もう一度参謀が詳しく説明をした。
「彼ら異世界の人類は石と鉄を加工する技術を学んだようでして、高さ200メートル以上の建物をそこら中に立てております。一番高い建造物でしたら800メートルを超えており、我が魔王城の実に16倍の高さを誇るようですね」
「ヤバ。何それ。ふ、ふふん! まあ、バカと何とかは高い所が好きと言うからな! 所詮は魔法も使えぬ下等な民よ! そんな高い建物、登るの大変だろうが! バーカバーカ!」
子供じみた悪口を口にする魔王に向かい、参謀が冷静に説明を補足する。
「いえ、彼らは魔法こそ使えませんが、どうも物の工作に長けているようでして。上下に高速移動する部屋を作り、階段で登ることなく各階層を行き来しているようでございます」
「こ、小賢しい! ま、どんだけ手先が器用だろうと、所詮は歴史の浅い連中よ! どうせ大した人数居るわけでも無かろう! 我が魔王国連合軍の誇る7万もの兵力の前には、どんな建造物を作る者たちであろうと敵ではないわ!」
これまで幾多の戦いを潜り抜けてきた魔王国連合軍の勇姿を思い描き、魔王が力強く言い放った。
参謀が強気な魔王に口を挟む。
「あ、魔王様魔王様。彼ら、大分数を増やしまして。10万年前の当時は彼らの全総数合わせても2万人を切るような有様だったのですが……」
「おお。ほっといても絶滅しそうだな。それがどれだけ増えたんだ?」
「現時点で約80億人ほどでございます」
「……あれ? これ人種族の話だよな。アリとかイナゴの話してるんじゃねえよな? は、はちじゅーおく?」
あまりのぶっ飛んだ数字に、魔王が思わず聞き返した。
参謀が、いつもと変わらぬ口調で冷静に魔王の疑問に答えなおす。
「はい、確かに人種族の話でございます。異世界の人類は、現在総数約80億人ほどとなります」
「増えすぎだろそれ! どんだけファ〇クしまくってんだよ! サルでももう少し慎み深いぞ! 汝、姦淫するなかれ!」
「おっと。これは童貞の魔王様には刺激の強すぎる情報でしたか。大変申し訳ございません」
魔王のナイーブな童貞心を傷つけてしまった参謀が、深々と頭を下げた。
魔王様の異世界征服計画!(その1)……END
【次回予告】
次回日常魔王『魔王様の異世界制服計画!(その2 結)』は、2023年3月19日更新予定です!
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