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日常魔王  作者: 熊ノ翁
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魔王様、魔イッター始めるってよ(その2)

「ええと、何々? アカウント名は『魔王様』にして、プロフィールかー。よし『全魔族の王/お前の飼い主/我に従え/こうべを垂れて這いつくばえ、平伏せよ/パンが無ければおつまみを食え』と。こんな感じでいっか。さーて次は……」


 手に持った石板に魔王が太い指をなぞらせる。

 薄い石板の表面に映し出された画面の中に次々と文字が浮かび上がり、魔イッターのプロフ画面が出来上がっていった。

 デカい背中をせせこましく縮めてス魔ホを操作する魔王に、参謀が進言する。


「魔王様。ただでさえ低い、ゾンビの心電図ばりに心停止している支持率の中、公式アカウントでそんな攻めたプロフを作られるのはいかがな物かと思われますが」


「あーん? なんだ参謀、わかってないなー。いいか? こういうのはな、最初が肝心なんだ。『お前らと俺とでは立場が違うのだ』という事をハッキリと示しておかないと、物のわからない愚民どもは調子づいて舐めてかかってくるもんなんだよ」


 チッチッチ、と人差し指を振りながら、魔王が口の端を歪める。

 得意げに講釈を垂れる魔王を見て、参謀が白手袋をはめた手を牛の頭蓋骨さながらな額にあてて首を横に振った。


「まあ確かに一理ありますが。しかしそれは相手を眼前に捉えて胸ぐらを掴む、武器で脅す、権力をチラつかせる等の威圧が出来てる状態でこそ効果が生まれるもので、このような匿名の場や新聞の紙面での論戦のような場では逆に敵愾心を煽って反発を招くだけかと」


「かまわん! もしなんか言われたら、この魔王様がビシィっと正論を言って黙らせてやる! そもそも俺は、仕事サボって魔イッターで他人に悪口言いまくってるアホ共をしつけるためにやるんだからな!」


 ニカっと、無駄に健康的な白い歯を見せて魔王が嗤う。


「それは素晴らしい。部下に仕事を押し付けてばかりで自分はロクに公務をこなそうとせず、漫画読んでポテチ食って呑んだ暮れてばかりなどこかの魔王様の事も、是非ビシィっとしつけて黙らせて頂きたいものです」


 乾いた拍手と共に皮肉を参謀が送る。

 案の定、沸点の低い魔王が目を剥いて自分勝手な反論をしてきた。


「いーんだよ俺は! エラいんだから! 魔王様だぞ!?」


「あ、一応自分がサボって飲んだ暮れてるという自覚はおありなのですね。意外でした」


「うっせ!」


 参謀の嫌味にシッシッと手を振り、話題を変える。


「んで? 俺にピザ投げつけやがったような下々の連中は、仕事サボってどんなくだらねー罵詈雑言を吐いてやがるんだ?」


「そうですね。この魔イッターというのは現在盛り上がっている話題やワードを表示する機能があるのですが……」


 参謀が魔王の手に持つス魔ホに指を伸ばして操作する。

 今流行りの話題一覧、いわゆるトレンドが画面に表示された。


#魔王死ね

#魔王殺す

#魔王はこの世界から消え失せろ

#魔王のアホを許すな

#魔王のいない平和な世界


「今話題になっているのは、このような物のようですね」


 ズラりと並んだトレンドワードを見て、魔王の額に血管が浮き出た。


「ちょっと待て。このス魔ホと魔イッターって、人間共も使ってたりするのか? なんか俺への悪口がズラっと並んでるんだけど」


 苛立たしげにトレンドワードの並んだ画面を指で叩きながら、魔王が問いかける。


「いえ。爆裂魔法を仕込んだス魔ホを人間達に売りつけて、金を巻き上げかついざとなったら爆殺できるようにするのはどうか、というビジネスプランは挙がってます。ですが、今の所はまだ検討段階で実行には移しておりません」


 シレっと悪辣な計画を参謀がさらけ出す。

 まだ人間の手には渡っていない事を確認した魔王が、引きつった顔で自分への悪口だらけな魔イッターのトレンド画面を指差した。


「え、じゃあコレって……」


「我が魔王連合国に住まう魔族たちの総意といった所でしょうか。話題独占ですね、魔王様」


「ふ、ふーん、そっかぁ。俺ってそんなに嫌われてたのかぁ」


 頬を痙攣させながらトレンドワードを開き、よせば良いのにどんなコメントが投稿されているかを確認する。

 #魔王死ね というハッシュタグを開くと、このような投稿が画面に表示された。


『玉座で漫画読んでポテチ食ってダラけてた魔王の顔面に、ピザ叩きつけたったなうwww』


 参謀が画面を覗き込む。

 魔王が顔面にピザを張り付かせてオタオタしている画像と共になされた投稿は、肯定的な反応を示す良いねマークが5万個を超えて付いていた。

 リプ欄も『お前こそが勇者だ!』『やるじゃん!』『スカっとした!』『魔王ザマぁwww』といった賛同のコメントが溢れている。

 まだ投稿されてから大した時間が経っていない事を踏まえると、驚異的な伸び率である。


「おお、いいねの数がこの短時間で5万越え。閲覧回数も10万回以上じゃないですか。物凄い注目度ですよコレは。流石は魔王様」


「あんのブタ野郎……」


 ギリギリと歯軋りをしながら、魔王が恨み言を吐く。

 投稿者は、考えるまでもなく先ほど魔王にピザを叩きつけたオークだろう。


「やはりとんかつにしますか?」


「……いや、丁度良い機会だ。まずはコイツから説教してやる。おい参謀、コイツに文句言ってやるにはどうすれば良い!」


 屠殺してとんかつにしてやろうか一瞬本気で考えた魔王だったが、魔イッターでの恨みは魔イッターで晴らすことに決めたようだ。


「直接相手のコメント欄に書き込む方法と、引用リツイートという方法がございます。しかし魔王様、国のトップが公式アカウントで一国民に文句垂れるのはやめられた方がよろしいかと。どうせウカツな事言って炎上するでしょうし」


 参謀の忠告を、もちろん魔王はシカトした。


「これ、コイツみたいに画像もはりつけられるんだな?」


「ええまぁ。ス魔ホには風景を画像として記憶させ、魔イッターに転写する機能もございます。動画に関しても、今は専用の機材が必要ですが遠からずこのス魔ホでも撮れるようには……」


 そこまで聞いた魔王は、後の参謀の言葉には耳を貸さずにポチポチとス魔ホをいじり早速相手のコメントを引用して投稿した。


『おい豚ぁ。仕事サボって陰でこそこそス魔ホいじってご満悦とは、良いご身分だな。大好きな魔イッターにテメーの切り落とした首を公開して晒してやってもいいんだぞ?』


「おら、カマしてやったぞ!」


 魔王が自信満々に、参謀にス魔ホの投稿画面を見せる。


「あー、これはマズいですね」


 青い炎のゆらめく双眸で一瞥した参謀が、炎上を確信してため息をつく。

 参謀の予想通り、魔王の投稿は見る見るうちに閲覧回数が上がっていき、多数の敵対的なコメントが寄せられた。


『魔王だ! 魔王のアホが来やがったぞ!』


『仕事サボってって、今現在公務の時間にライブで魔イッターやってるお前が何ぬかしてんだ。自分は良くて相手はダメって頭イカれてんのか? いやアホなだけか。アホ魔王だし』


『は? これ本物のアカウント? だったらアホすぎるでしょ』


『おいアホ魔王! かかって来いよ、ぶっ殺してやる! 俺と勝負しろ!』


『死ねやボケ!』


『魔王の母です。この度は陰キャ童貞ヒキニートでアホな息子がすいません』


『魔王の父です。この度は非モテ童貞ヒキニートでバカな息子がすいません』


『誰か人間の勇者呼べ。一緒にパーティー組んでこのバカ殺そう』


 殺人予告に人格否定、誹謗中傷とあらゆるネガティブなコメントが猛烈な速度で集まってくる。

 閲覧回数やコメントの多さに反して、肯定を示すいいねの反応はまるで無い。


「こ、こ、このクソ野郎共! こいつら俺の事を何だと思ってやがる! 魔王様だぞ!?」


 四方八方から届く心無いクソリプに、魔王が怒りのあまりス魔ホを握りしめる。

 万力さながらな魔王の握力の前に、ガラスの砕けるような音を立ててス魔ホは砕け散った。

 パラパラと、ス魔ホだった石板のカケラが魔王の足元に落ちる。


「ほーら言わんこっちゃない」


 やれやれと参謀は首を振った。



魔王様、魔イッター始めるってよ(その2)……END

最後までお読み頂き有難うございます。


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よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
エピソード33拝読しました。 やっぱり、魔王様……炎上しちゃったよ。 人間も魔族も変わらないですね……
[良い点] 冒頭から吹いた神回でした。 [一言] 次の炎上芸に期待。
[一言] 魔王に対する悪口雑言なハッシュタグ フィクションでは笑えます。 されど現実で似たようなことをやってるのを見ると引きますね~。
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