魔王様の少子化対策(その5 結)
「えー、ホブゴブリンの皆さんには再び集まってもらったわけですが」
牛の頭蓋骨さながらな頭部をした参謀が、眼窩の青い炎を揺らめかせながら議事堂内を見渡す。
右にオスのホブゴブリン議員たちが、左にメスのホブゴブリン議員達が居並ぶ議事堂内は、怒りと緊張に包まれていた。
無理もない。
前回の会議では大ゴブリン帝国に住むメスのホブゴブリン達は全ての権利をはく奪され、家畜同然の身分に叩き落とされたのだ。
議員席も、女性議員側の席は空席が目立っていた。
隣で頬杖をついて寝こけている魔王を尻目に、参謀が指を鳴らす。
前回と同じく幻覚の術が参加者のホブゴブリン達にかけられ、それぞれ議員たちの眼前に立体映像で各種データが表示される。
犯罪発生率、出生率、主要作物の策付け面積に各種鉱石の採掘量といった情報がグラフで提示されるが、たった数ヶ月しか経ていないにも関わらず、どの数値も結果は酷い有様だった。
特に犯罪発生率は最悪で、もはや無法地帯と言っても良いほどの有様だ。
ついでに表示されている、ホブゴブリンの従属種族であるゴブリンの人口データもまた酷い物で、両種族共に仲良く自滅の道を全速力で走り抜けているのが見て取れた。
元々ゴブリンは体が小さく、よほど集団が大きく無ければいくら畑を耕そうが田植えをしようと他の種族に荒らされ横取りされてしまう。
だからこそ一回り体格も大きく力もあり、多少の魔法なら使う事も出来るホブゴブリン達中級魔族に従属して田畑を守ってもらう必要があるのだ。
ホブゴブリンの庇護に無いゴブリン達は、野山で他の野生動物たちと同じく死肉を漁るか落ちてる木の実を食べて飢えをしのぐより他はない。
何せ、場合によっては野犬の群れにすら追い立てられるほどの力しかないのがゴブリンなのだ。
主であるホブゴブリン達がこの体たらくでは、彼らがどれだけ農業に精を出そうが野良のオークやウェアウルフ、ウェアラビット達に荒らされて持っていかれるだけである。
「皆さん、グラフをご覧の通り、税収云々以前に町の治安はめちゃくちゃです。強姦率は上がっても出生率は一切上昇せず、しかもオス同士で所有するメスの取り合いからの殺傷事件が多発しまくりで、およそ知的生命体の統治だとは思えない有り様なのですが」
『少子化の原因は女どもが傲慢になったからだ』
そんなホブゴブリンのオス達の意見を受け入れ、大ゴブリン帝国ではホブゴブリンのメスは全ての権利をはく奪され、完全にオスに隷属するという社会構造になった。
これでオス達が家畜としてメスを管理することで出生率が改善されるかと思いきや、家畜となったメスを巡って結局オス同士の諍いが激化し、国全体で治安が一気に悪くなった。
また、メスを生んだところで権利の無い家畜や奴隷にしかならないという事で、各家庭で赤ん坊のメスは捨てられオスのホブゴブリンばかりが育てられるようになった。
当然男女比率も偏りに偏り、結果人口は更に減少の一途をたどっていった。
「本当に、見るからに酷い有様ですね。隣の魔王様もあきれ果てて寝ていますよ」
参謀から急に名前を呼ばれた魔王がムクリと起き上がる。
右を見て左を見て、会議が始まっていた事を察した魔王が垂らしていたヨダレをマントで拭う。
「お、アレだな。お前らなんか上手くいってないらしいじゃん。なんでだよ。女が悪かったって言ってたろ?」
むしろ何故上手く行くと思ったのかが不思議なほどにアレな判断だったわけだが、魔王の中ではまだ疑問だったらしい。
右側に居並ぶオスのホブゴブリン議員の一人が挙手をする。
「はい、ゴブリッヒ議員。発言どうぞ」
参謀に指名され、名前を呼ばれたオスのホブゴブリン議員が立ち上がる。
「お、恐れながら参謀様、魔王様、あの後メス共は国外へ逃げるという無責任極まりない恥知らずな真似を繰り返しておりまして、人口の流出が……」
「ふざけるなぁ!」
苦しい言い訳を続けようとするゴブリッヒ議員を、対岸の議席から立ち上がったメスのホブゴブリン議員が一喝した。
「お前たちのせいで私たちがどれほど苦しんだ事か! 全ての権利をはく奪され、物として扱われる事の苦しみが分かるか? 国を捨てて逃げるのも当然だ!」
「それが無責任だと言うのだ! 与えられた社会的役目を放棄して、今度は国すら放棄して、お前たちは誇りも無ければ責任能力も無い、本当にクズのような奴らだな! 家畜同然の今の処遇がお似合いだ! 受け入れられない非国民はそのまま苦しんで死に続けろ! 我々男には、お前たち下賤な女共を殴ってしつける義務がある!」
言い合いを始める議員たちを前に、参謀がカンカンと木槌で議長席の端を打つ。
「あーはいはい。みっともないののしり合いはそこまで。ええと、ゴブリー・ホブラナス議員、でしたっけ。発言は挙手してからお願いしますね。ここは魔王様の権威の下、法と政治を重んじ語らう場です。ホブゴブリン風情が魔王様の名の下に敷かれた議会のルールを破って良いと思ってるんですか? 殺しますよ?」
「は、はい。申し訳ございません」
参謀のぽっかりと空いた眼窩で揺れる青い炎がゆらりと揺らぐのを見て、ホブラナス議員が声を震わせながらこうべを垂れた。
魔界随一の脳筋な魔王や、天魔大戦を戦い抜き先代魔王に次いで多くの勇者を屠ったメイド長、そして死亡フラグの化身なペケ子に挟まれて、そこまで強者の印象の無い参謀だが一応これでも上級魔族である。
四天王ほどとは言わずとも、並のドラゴンやヴァンパイア、エルフといった面々では太刀打ちできない程度の魔法技術と戦力を有している。
幻覚魔法をホブゴブリン達全員にかけたように、その気になれば瞬時にホブゴブリン達の体内に業火を召喚し、全員まとめて焼き尽くす位の力はあるのだ。
「それでは改めて。ホブラナス議員、発言をどうぞ」
参謀からの指名で、メスのホブゴブリンが語り始める。
ホブゴブリンのメス達はあの後「女に教育は必要ない」と学校から放り出され、働く場も満足に与えられていないようだった。
もし働き口を見つけてもそれは生きていくのも難しいほどの低賃金で、結婚して誰かの夫の所有物となっていなければまともに食べていく事出来ない。
しかも結婚をした後も物扱いは変わらず、夫は妻を殴る権利を持ち、気に入らない事があれば棒で叩くのが当たり前という有り様だった。
「これでは母国を捨てて、権利の保障されている他国へ逃げるのも無理のない話ですね。犬や猫でも叩かれるとなれば他所へ逃げます」
ホブラナス議員の話を聞き終え、参謀がため息を吐いた。
「はい、まったくです。私たちは生きていますし知性と意思のある存在です。犬や猫、家畜をしつけるような真似で縛ろうとすれば反発するのは当然ですし誇りの為にも戦います。そして……」
ホブラナス議員が強い口調で続けた。
「今回、そこオス共に国のかじ取りを任せてみてよく分かったのですが、奴らには知性も品性も慈悲の心もありません。そもそもオス共は野蛮で好戦的で犯罪発生率も高く、歴史を振り返ってみても戦争を引き起こしてきたのは大体が男たちです。その陰で女子供はいつも犠牲になってきました」
「なんだと!?」「言わせておけば!」といった抗議の声が反対側の男性議員達の席から上がる。
だが、参謀が指を鳴らすと喚いている男性議員の火柱が生まれ、抗議の声は悲鳴へと変わり、やがて消えた。
「失敬、続けて下さい」
ホブゴブリンを焼き殺しておいても何の感情の色も見えない参謀に先を促され、ホブラナス議員の声が僅かに震えた。
「つ、つまり男は生まれながらにして暴力性を秘めた潜在的犯罪者なのです。そのような輩に国の行く末や社会のかじ取りをさせた所で上手く行くはずがありません」
「では、あなたはどうすれば良いと思いますか?」
「理性的で平和な社会を築くためには、生まれながらにして潜在的な犯罪者であるオス共から権利を取り上げ法で縛るべきです。子を産み育てる思考が本能的に備わっている私たち女性は、オス共よりも慈悲深く協調性があり、実際に犯罪率も低いです。安心して子を産み、育てられる国や社会を作るのであれば、私たち女性こそがオス共をしつけ、教育していくべきでしょう」
「なるほど」
「それに、そもそも男は種馬用に少数がいれば人口維持には十分です。成熟した社会を作る上で男と女、どちらの存在が重要かは明白でしょう?」
ホブゴブリンの女議員の発言に、周囲から拍手が上がる。
頬杖をついていた魔王も後押しするかのようにぼやいた。
「まあぶっちゃけた話、男はその気になったら10人や20人孕ますくらい余裕だしなぁ」
「いくらその気になっても相手見つけられなかった魔王様がそれを言いますか」
35万年間魔王にあるまじき清い体を保っておきながら、よく言えたもんだと参謀が肩をすくめた。
「しかも勝手に孕んで童貞出産とか、繁殖方法がミジンコやアブラムシと大して変わり無いじゃないですか。そんな魔王様みたいなお手軽な生態をホブゴブリン達がしていれば、今回の少子化問題なんて起こらずに済んだんですがねぇ」
「う、うぐぐ! 相変わらずムカつく言い回ししやがるなオマエ」
何も言い返せない悔しさに、魔王が歯ぎしりをする。
いや、言い返す事も出来るのだろうが、どうせ何を言った所でボコボコに言い負かされるのは目に見えている。
やり返すなら拳に限るな。後で肩パンしてやろ。
魔王がそんな事を考えていたら、ホブゴブリンの女議員があらたまって提言をしてきた。
「魔王様、どうかオスのホブゴブリン達の権利を全て剥奪し、家畜と同じ立場にして下さい。代わりに、私たち女性にオス共が持っていた権利の全てを譲って頂きたい。オスは今後、私たち女性ホブゴブリンの隷属種として生きていくよう、魔王様より命を下して欲しいのです。今度は私たちがこのオス共を導きます」
「よーしわかった! オス共は今日から女たちの家畜な!」
魔王がホブゴブリンの女性議員の案を受けて即決する
「いやだから何で前回と同じやらかし判断しちゃうんですか魔王様」
「えー、だって女が原因だって話で男に任せたら失敗したわけだろ? じゃあもう悪いの男で確定じゃん、二択なんだし。つーか話聞くまでも無かったな。Aが違うならB、男がダメなら女、わかり切った話っしょ。終わり! 閉廷! 以上! みんな解散!」
魔王がベシベシと机を叩いて閉廷を告げる。
その様子は、完全に飽きていた。
魔王の短絡思考的には、〇✕問題で消去法的に既に分かった答えについて、いつまでもあーだこーだ言ってるのは無駄だという判断なのだろう。
「ま、魔王様。それはあまりにも……」
オスのホブゴブリン議員の一人が、魔王に進言しようとする。
が、参謀と目が合いそれ以上続けるのを止めた。
「あ、あの……お茶のお代わりをお持ちしました」
言葉を飲み込んだオスの議員に、ゴブリンがお茶を勧める。
「うるさいぞ貴様! この劣等種が! 奴隷が! 目障りだ!」
いら立ったオスのホブゴブリン議員が、お茶のお代わりを持ってきた奴隷のゴブリンを八つ当たりで蹴りとばす。
すると、横から別のゴブリンがかばうように立ちはだかった。
「つ、妻は身重なんです! 許してやってください! わ、私が、私が代わりにいくらでも殴られますから!」
ガタガタと足を震わせるゴブリンの服の裾を妻がつかむ。
「あ、あなた……いいの。ご主人様、お怒りに触れて申し訳ございません。ご機嫌を損ねたのは私。罰を与えるのはどうか私にしてください」
オスのホブゴブリン議員が忌々しそうに舌打ちをして拳を振り上げる。
それをメスのホブゴブリン議員が見て茶化す。
「あーあー、これだからオスは。その汚らしいゴブリン共は今日からお前のオトモダチなんだからね。精々仲良くやんなよ。ここの建物出たら一緒に鞭で打たれる間柄なんだからさぁ! ハハハハハ! アハハハハハ! 良い気味だ! 良い気味だ!」
怒りに駆られメスのホブゴブリンに向けて殴りかかるオスのホブゴブリン。
参謀が指を鳴らすとオスのホブゴブリンの足元に魔法陣が浮かび上がり、一陣の風が渦を巻いてホブゴブリンの体を包み込んだ。
瞬時に真空の刃がホブゴブリンの体を切り刻み、周囲に臓物がぶち撒けられる。
「あのねぇ、悪法もまた法です。この法と政治を司る議事堂で、しかも魔族を束ねる魔王様の目の前で下された勅命に逆らうとか、あなたアホですか」
参謀はそう言い放つと、尻もちをついてカタカタ震えているゴブリン達へと向き直った。
「あなた達。そこの動物の死骸を片付けておくように」
「は、はいっ!」
震える足でどうにか立ち上がり、ゴブリンの夫妻はホブゴブリンの死骸を手に持って議事堂内から去っていった。
その様子を見ていた参謀が、ホブゴブリン達に向き直る。
「さて。他にゴブリン達に片付けてもらいたい方はいらっしゃいますか?」
ホブゴブリン達は首を横に振った。
数年後。
「ううむ。このゴブリン共、中々エゲツないな。あとゴブリンの分際でヤリまくってんのなんかすっげえムカつく。ウチのゴブリン共もちょっとシバくかな」
玉座だらしなく座り、ゴブリンストライカーと書かれた漫画を読んでいる魔王の傍らに参謀が現れる。
「いや魔王様。ウチのゴブリン達はそんな他種族をひたすら強姦しまくるヤバい生態していませんので、わけのわからない嫉妬でシバくのはおやめください」
「あ、そうだ参謀。前に大ゴブリン帝国の少子化対策やったじゃん。あれって結果どうなったの?」
大ゴブリン共和国の事を思い出した魔王がどうなったのかを尋ねる。
ゴブリンを大きく取り扱った漫画を読む今の今まで、魔王は自分があの国の少子化対策に関わっていた事を、ものの見事に忘れていた。
「ちゃんと人口戻って税収回復しましたよ。今は更に増加傾向にあります」
「へー! そんじゃメスのホブゴブリン共に舵取り任せた方がよかったのか! やっぱ女は偉大だったんだなぁ」
うんうんと、感心したようにうなずく魔王だったが、参謀がそれを否定した。
「いいえ。あの国のホブゴブリンはオスもメスもクズしかおらず、もう人口や税収の回復は見込めないと判断して全員まとめて私の方で皆殺しにしました。今頃連中はみんなまとめて畑の肥やしになってゴブリン共に耕されてますよ」
予想外の物言いに、魔王が目を見開く。
「え、マ、マジで? 参謀、えっぐ! そこまでやるかぁ?」
「改善の様子が見られれば良かったんですがね。あの後、メスのホブゴブリン共はオスを大学から追い出し、本気で家畜として飼いならそうと一部のオスを除いて去勢し出したんですよ」
「あー、なんかその、歴史は繰り返すって奴だなぁ」
「極めつけは女だけの街の建設ですかね」
国を任されたホブゴブリンの女たちは、結局のところマトモな政治運営は出来なかった。
オスのホブゴブリンを被差別階級として家畜同然の奴隷扱いをするだけでなく、男子を生んだ母ホブゴブリンまで家畜同然の身分に叩き落とした。
完全に感情任せで本末転倒な、何の生産性も無い采配である。
そして、集めた奴隷たちを使い、壁で身分ごとに仕切りを作ったいわゆるゲーテッドシティを作ろうとし始めていた。
逃げられなかったオスのホブゴブリン達は足や首に鎖の枷を嵌められ、股間は引きちぎられ、ゴブリンと共に全裸で死ぬまで壁の建設に働かせられていた。
それを見た参謀は、ホブゴブリンは国営に不要と判断し国内のホブゴブリンを殺処分するに至ったという。
「うーん。参謀、酷い事するなぁ。情けってものが無いのか」
「いやいや。そもそも無茶な政策断行してあの国にトドメ刺したの魔王様じゃないですか」
「えー? 俺あいつらの提案に『ヨシッ』って言っただけだぞ。それで互いに首絞め合って自滅しちまったんだから、俺悪くないって」
無責任極まりない事を言う魔王だったが、基本的にはホブゴブリン達に自分たちの国のかじ取りを任せていて自滅したのは確かだった。
「でも、全員ぶっ殺したんなら人口戻って税収回復って無理じゃね? どゆこと?」
ふと、当然の疑問が魔王の頭をよぎる。
「現在あの国は、元奴隷階級のゴブリン達に農業を任せています」
「え、なんでまた?」
「ゴブリンに任せた理由はいくつかありますが……強者には従順で、力と魔力は弱くとも知能は言語を理解する程度には有している事。また、ホブゴブリンによって既に半分家畜化されている彼らは争いごとを好まず、同じ主を抱く同族間では協調する傾向にある事が主な任命理由でしょうか」
参謀が少し考えて付け足した。
「まあそうでないゴブリンは恐らくホブゴブリンによって間引きされていて、穏やかで卑屈なゴブリンのみが選別されて生きる事を許されていたのでしょう」
「ふーん、つまりゴブリン達の方が喧嘩せずにみんな仲良しで性格良いから選んだって事か」
魔王の物凄い端折った解釈に、参謀が口をはさむ。
「強い者に付き従い、これまでホブゴブリン達と共に人間の街を襲い、エルフやノーム達の小さな集落を荒らしまわり、略奪や虐殺といった行為に散々加担してきたゴブリン達が、性格良いとは私は思いませんが」
結局のところ、ゴブリンだって魔族であり動物であり、当たり前に邪悪である。
弱く愚かであるが故に強い者に付き従うのは別に礼儀を弁えているからでも慈悲深いわけでも無い。
単に虐げる相手がいないだけだ。
自分より力や立場の弱い者がいれば平気で襲うし、強い者の威を借りれるなら傲慢にもなる。
それがゴブリンや人間という生物だ。
「でも、そうですね。めちゃくちゃポジティブに言うならば、魔王様の言う通りかもしれません。ドラゴンやヴァンパイアロード達、そして巨人族のような個で強大な力を持つ種族ではなく、アリやハチ、オオカミや人間ども、そしてゴブリンやホブゴブリン達は群れてこそ力を発揮します。そんな種族が互いを思いやる事を忘れ、いがみ合うようになっては未来はありません。数の暴力が強みな種族が、集団の統率も出来ず頭数も揃えられないとなったなら、存在価値など無いのですから。そうなってしまったら、速やかに他の者たちにその席を譲り渡すのが愚か者や弱者の定めであり、筋というものです」
「そーなー! やっぱ思いやりって大切だよな! 最後に愛は勝つ! ま、新しく土地を治めるゴブリン達にはこれから頑張ってもらって、減った収入を元に戻してもらわないとな! 働け、働け!」
そこまで言って、魔王が首をひねる。
「ん? でも、ヤワいゴブリン達に任せた所で周囲から田畑荒らされまくって終わりなんじゃね? 現にホブゴブリンと組んで外敵から守ってくんなきゃ、あいつらマトモに田畑の管理なんて出来なかったわけだし」
「あ、なので先代魔王様にドラグ・マウンテンを潰されて放浪していた竜人族達を集めて同じ臣民として一緒に住まわせてます。彼らなら、それこそ並のドラゴンや巨人たちが攻めてきても迎え撃てますし、今回の件で恩も売れてより魔王国に忠誠を誓うでしょうし、言う事無しです。魔王様の投げっぱなし無責任政策も、今回は良い方向に働きましたね。グッジョブです」
参謀からすると、ホブゴブリンが少子化になろうが両性間でいがみ合おうが実際の所どうでも良く、困っているのは税収の低下だけだった。
税を納めるのがホブゴブリンだろうがゴブリンだろうが、それこそ人間だろうが規定の額を納めてさえいてくれれば何も問題が無い。
それは逆に、統治するのが別にホブゴブリンでなくとも構わない事を意味していた。
よって、結果の出せなかったホブゴブリン達はオスもメスも権限をはく奪され、収益を上げられる可能性のあるゴブリン達に移譲された。
更にそこに、住処を失っていた竜人族をゴブリン達の農地の護衛役としてはめ込むことで、発展の為に欠けていたパーツを埋めることが出来たのだ。
終わってみれば大ゴブリン帝国は、無能を切除し、今まで以上に魔王国側が御しやすい国となった。
三方丸く収まる文句なしのハッピーエンドである。
その三方にはホブゴブリンは入っていなかったわけだが。
「……お前さぁ、本当は最初っからホブゴブリン見限っててぶっ殺す予定だったんじゃねーの?」
「あ、バレちゃいました?」
魔王の指摘に、参謀が頭を掻いた。
魔王様の少子化対策(その5 結)……END
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