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日常魔王  作者: 熊ノ翁
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ウエディング・ヘル(その15)

 大聖堂の扉が開け放たれ、全身をミスリル甲冑に身を包んだシャドウエルフの上級衛兵たちが外の砂埃と共に入ってきた。


「ミディール様が殺されたぞ! であえであえ! 地上の魔族共をここから生きて帰すな!」


 騒ぎを聞きつけた兵士たちが次々と大聖堂内に足を踏み入れ、魔王達を取り囲む。


「相手は手勢を連れていない! 少数だ! 地上の魔王だろうが全兵力で囲めば恐るるに足らず! 絶対に逃すな!」


 剣や槍や杖を手ににじり寄る兵士たちは全体からするとごく一部で、まだまだ外や詰め所から多くの兵士たちが押し寄せてくることだろう。

 周囲に居並ぶ武装したシャドウエルフの兵たちを見て、ザンフラバが参謀に向かって怒鳴った。


「おい! これどうするつもりだ!? 奴らこれからガンガンやって来るぞ! 戦うにせよ逃げるにせよ、完全武装のシャドウエルフ共全員と真正面からかち合う事になるぞ!」


 強大な魔力を持ち天魔大戦を戦い抜いたダークエルフの長と言えど、敵の本拠地ど真ん中で自国の兵も連れずに生身で渡り合えというのは確かに少々、いや大分無茶な話だ。

 だが、絶体絶命の窮地にあって、胸倉を掴まれる参謀の口調はいつもと変わらぬ落ち着き払ったものだった。


「大丈夫です。ここの兵士たちは全員纏めて我が魔王軍が足止めしますので」


 参謀の言葉の意味が解らず、ザンフラバが聞き返す。


「魔王軍? 何言ってんだ。そんな足止めできるような手勢、連れてきて……」


 パチリ、と参謀が指を鳴らす。

 開け放たれている大聖堂の扉から視界を塞ぐほど大量の砂埃が入り込み、シャドウエルフ達の足や体にまとわりつく。

 のみならず、ステンドグラスが一斉に割れ砕けガラスの破片と共に外から大量の小石も入ってきて、砂埃と同じくエルフの兵たちや参列客の身体にまとわりついた。


「な、なんだこの砂!? 足が、体が! う、動けん!」


 まるで意思を持っているかのように動き回り、手に、足に、体にまとわりつく砂や小石に身動きを封じられ、シャドウエルフ達が立ち尽くした。

 外でも同じような事が起きているのか、体の自由を奪われる異常事態にシャドウエルフ達の悲鳴と怒声が割れたステンドグラスの向こう側からも聞こえてきた。


「どういう事だこれは」


 眼前で起こる不可解な光景にザンフラバが参謀に尋ねる。


「前もって、我が魔王国のサンドゴーレムとロックゴーレムを転移魔法陣より少しずつ送り込んでいたのですよ。貢物を届ける際に、砂や小石も一緒にね。ちょうどツキアカリダケの繁殖期と重なっていたこともあって、多少埃っぽくなっても誰も何も気づかなかったようですね」


 そして参謀が魔王を指差した。


「さあ、魔王様、出番です。今ここにはこの地底世界の全権力者及び血縁関係者が集まっています。全力で暴れてください。こんなキノコまみれのカビ臭い城、更地にしてやりましょう」


 ゴキゴキと拳を鳴らす魔王が雄たけびを上げた。


「おっしゃあ任せとけ! ふはははは! 魔力全開ィィ! アイアムデッドサイクロン!」


 強烈な魔力放射により周囲の視界を蜃気楼のように歪ませながら、魔王が拳で大聖堂の柱を叩き折る。巨人すら入れるほどの大聖堂を支えていた柱は、魔王の剛力によって見事にへし折れ、床に横倒しに転がった。

 太い丸太のような柱を両手で抱えた魔王が振り回す。

 竜の尻尾でも叩きつけられたかのように柱にぶつかった大聖堂内の長椅子が砕け、壁が抉れ、パイプオルガンが砕けた。

 身動きの取れないシャドウエルフ達もまた魔王の振り回す柱の暴虐に巻き込まれ、次々に叩き飛ばされていく。

 魔王は振り回している柱が完全に砕けると今度は別の大聖堂を支える柱をへし折り、それも砕けるとまた別の柱を叩き追って回った。


「おのれ魔王! 汚らわしい地上の蛮族め! 覚悟!」


 シャドウエルフの兵士が、鋭く光るミスライル製の剣を腰だめに構えて魔王目掛けて突っ込んでくる。

 折れた柱を投げ捨てていた魔王の脇腹に、兵士の鋭い剣が突き込まれ……なかった。


「ッッ!?」


 銀に輝く切先は、確かに魔王の脇腹にめり込んでいる。が、それだけだった。

 触れただけで血の吹き出そうな程に鋭いミスライルの剣の切先は、しかし魔王の分厚い筋肉に阻まれ傷ひとつつける事は出来なかった。


「伝説の武器じゃなきゃ、俺の腹筋は通らねぇ」


 言うが否や、魔王はエルフの兵の持つ剣の刀身を素手で握り砕く。

 クッキーを割るかのような気軽さで砕かれた刀身を呆然と眺めるエルフ兵の腰に、魔王の太い腕が回された。


「さぁて、派手に決めるか!」


 エルフ兵を抱えた魔王が足を大きくたわめてかがみ込み、天井目掛けて跳躍する。

 凄まじい脚力により、放たれた矢の如く飛び上がった魔王は天井をぶち抜き、何層もの部屋をまとめて砕き、大聖堂の屋根まで砕いてなおも飛び上がり、そのまま建物が小さく見えるほどの高度まで跳躍してついには地底の空であるツキアカリダケの繁茂する天上の岩盤に逆向きに着地した。

 そして天上の岩盤で再び足をたわめた魔王は、先ほど飛び立った大聖堂目掛けて再度飛び立つ。


「ファイナル・コズミック・バスタァァァ!」


 脇に抱えていたエルフの兵を頭上に掲げ、その身を流星に変えて魔王が叫びながら超高度から落ちてくる。

 落下の速度と合わさった事で、その速度は初めに跳躍した時の比ではない。

 上空多角に飛び上がり小さく見えていた大聖堂がみるみる内に大きくなり、そして轟音と共に着弾。

 尖塔を砕き屋根を突き破り、何層もの部屋をぶち抜き落ちてきた魔王が大聖堂の床に激突して巨大なクレーターを作る。

 衝撃波が大聖堂中を吹き荒れ、ステンドグラスが粉々に砕け、のみならず壁や柱も放射状に吹き飛んだ。

 建物を支える大半の築材が叩き壊された大聖堂は自らを支えることが出来ず瓦解を始めた。


「はっはっはぁ! 我が魔王の肉体に、死角無し!」


 クレーターの中心で、地面に突き刺さってピクリともしないエルフ兵の傍に仁王立ちした魔王が、高らかに笑った。

 

 目の前で父が食い殺され、更に聖堂内が隕石でも落ちたかのような惨状に見舞われ、さらに衝撃波で吹っ飛ばされたミディールの息子ティティスが愕然としながら眼前の地獄のような光景を眺める。

 そこに……


「ミィィィィツケタァァァァ」


 耳元まで裂けた口でニタァ、と笑う血染めのウエディングドレスを着た一匹のゾンビが瓦礫の中から起き上がり、両手を広げて覆いかぶさった。


 魔王歴46億5655万4241年4月4日、シャドウエルフの住まうダグサ黄光国は、この日国主であるミディールと、主だった王族の大半を失い滅亡した。

最後までお読み頂き有難うございます。


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よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
エピソード25、拝読しました。 魔王様、待っていました。その勇姿。見たかった必殺技。これこそが主役の力。ティティスさん、あまりにもあっけない最後。この男の子には、何かあると思っていたんですが……合掌。
[一言] よっしゃー!って感じと同時に え、もう終わり?続きますよね?何か続かないと物足りない感じがするんですよ。 この感じを何と表していいのか。今の私には分からなかった…。
2023/07/19 13:48 退会済み
管理
[良い点] ペケ子の性格があんなカンジなのは、やっぱり魔王さんの遺伝子引いてるってことが分かりました [気になる点] ファイナル・コズミック・バスタァァァ! ファイナル・コズミック・バスタァァァ! …
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