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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無声劇

作者: 虎刈

BGMなし、効果音のみを想像しつつ読む事をお勧めいたします。

 頬にかかる雨が冷たい。

 気が付けば夜の森、それも水溜りまみれの土砂の中にいた。

 空を見上げても、月明かり一つない雨天だ。


 俺はなぜ、こんな山中にいるんだろう。

 朦朧とした頭で考えていると、次第に思い出してきた。


 そうだ。

 確か俺は、崖から足を、滑らせ、て……。


 こんなところで寝てる場合じゃない。

 早く帰らなきゃ、さゆりも心配する。


 俺は歩き出した。ぶらぶらゆれる左腕が邪魔だったが、痛くないので放っておいた。

 木の枝に一羽のカラスが止まっていた。

 カラスは夜行性だったろうかと思いつつ、俺は下山を急いだ。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 どれほど歩いたのだろう。随分歩いたつもりだが。

 依然、雨は降り続いている。


 ああ、早く家に帰らねば。

 帰って、さゆりを安心させてやりたい。それに俺も、あいつの笑顔を見たい。


 そう思ったら、少し元気が出てきた。

 大丈夫、まだ歩ける。

 疲れは、全然ない。


 ふと視線を感じて、顔を上げた。

 木の枝に、またカラスが止まっていた。

 薄気味悪いものを感じたが、特に何もしてこないので無視する事にした。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 雨が小雨になってきた。


 いかん、急がねば。


 なぜか、そう思った。

 知らず、俺の足は走り出す。

 走れば、きっと間に合う。


 ――何に?


 俺は何に追われているのだろう。

 理由すら分からず、本能的に俺は駆けている。


 俺はひたすら走り続けた。

 走っても走っても疲れないので、また走った。

 自分でもちょっと信じられなかったが、少しでも早く帰れるならいいかと思った。

 追われるように、俺は一目散に自宅を目指した。

 カラスが俺の上を旋回していたが、それどころではない。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 そしてついに、俺は懐かしの我が家の前に辿り着いた。

 夜はもうすぐ明け、雨は止もうとしている。

 間に合った。


 ――何に?


 そんな事はどうでもいい。

 ふと湧き上がった疑問を頭の片隅に押しのけ、俺は自宅のチャイムを鳴らした。

 鍵を持ってないのだから仕方ない。


 この時間帯は寝ているだろうと思ったが、ガラス越しに電気が点いた。

 よかった、さゆりは起きたようだ。

 さゆりがドア向こうに来たのが分かる。


 いきなり帰ったから、あいつは驚くだろう。

 そして安心させてやるんだ。

 ただいま、と。

 そう思い、俺はようやく帰ってこれたんだなと実感した。


 ドアが開き、さゆりが顔を出した。

 そしてさゆりは


 信じられない物を見たという顔で後ずさった。


 さゆりが動いた先には、玄関に立てておいた姿見がある。

 そこに俺の全身が映り、それを見て俺も驚愕した。


 俺はメチャクチャだった。

 表皮はとっくに剥げあちこち骨を覗かせ

 頭は潰れ鼻はもげ目は腐り落ち

 長距離を走ってきたので足の筋肉もずたずただった。


 俺は何か言おうとした。

 しかし、言えなかった。

 顔の筋肉が動かなかったからだ。

 それ以上に、もう指一本動けなかった。


 雨はもう、止んでいたのだ。


 恐怖に歪んだ表情で、俺を見るさゆり。

 やめろ、俺はお前にそんな顔をさせたいんじゃない。

 

 動けぬ俺の上に、カラスが止まった。




 そして一声、かあと鳴いた。



 

 俺の体が散っていく。桜吹雪のように散り散りと。


 終わったのか。それでいい。


 そういえば、カラスは死に惹かれると聞いた事がある。

 道理で。



モチーフはシューベルトの「魔王」。タグの魔王とはそういう意味でー。

あちらが歌曲バリバリなので、こちらは無声でチャレンジ。「声」を出すのは鴉のみというデザインでした。

設定としては、男性はふと蘇っちゃったゾンビ、雨が降ってる間だけ動けるとかそんな。

元ネタが歌曲なもんで、色々と抽象的ですね。


ご意見、ご感想などございましたらお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何で今日はホラーばかりを選んで読んでいるのだろうかと思いつつ、しっかりと楽しませていただきました。 雰囲気作りは上手いですね。ここは苦心されたのだろうと感じました。カラスをキーワードに置いて…
[良い点]  声を出すのはカラスのみ、というのは斬新ですね。  最後は、幽霊(生前と同じ姿)かなと思っていたら、リアルな姿で、それが、カラス=不吉 のように纏まっていたので良かったと思います。 [一…
2009/12/01 14:37 退会済み
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