一章(一年目四月の五)
恋愛関係の話題が終わり、話は、最近ジュリー様がオークションで落札されたチェスへ。精巧な駒が有名な物語の人物を象っている。
実は、ジュリー様には収集癖がおありらしい。「あの本」で明確にそう記されることはなかったが、それを匂わせるような部分はいくつかあった。ジュリー様の珍しい欠点…?収集癖は欠点なのか?
いや〜しかし、さっきのジュリー様には驚かされたなぁ。ちょっと拗ねたような感じで唐突な告白、みたいな発言。ドキドキした。でも、私はジュリー様が告白するとしても、「好き」とは絶対に言わないと思うんだ。そもそもジュリー様は最高に美しいお方なので必ず告白される側だし、もしジュリー様が告白するとしても、それは言外に好きだという雰囲気を形成してからだと思います。私はそれがいいです。
つまり、具体的には、今日ここに貴女を呼んだ理由、お分かりでしょう?みたいな〜!いいな〜、外堀から強大な権力を使って埋めていくジュリー様。気づいた時には逃れられない、全てが彼女の掌の内。つ〜!うーん、そんなの羨ま嬉しすぎるでしょう!
あの発言だけで無限に意識を飛ばせる。大変です。
帰り際、ジュリー様が飾られている絵の前で足を止めた。絵には、神話の英雄が描かれている。勇敢な姿が印象的だ。私たち取り巻きはジュリー様を見つめる。ジュリー様は絵に目を向ける。
「彼は、かつて愛する者を殺されて、狂い暴れたそうですわね。もし私が、そんな風に狂ったなら、皆様はどう対応してくれますの?」
あ、大事そうな質問だ。早く答えないと、でも不思議な質問で、答えにくい。ジュリー様が暴れたら、そのときイヤリングを付けていようとなかろうと、大変なことになるだろう。属性はともかく、ジュリー様の魔力量は本物だ。
「私は、ジュリー様のされることに従いますねー」
Cが真っ先に答えた。いつもは食べることばかりの取り巻きCだが、本質はジュリー様への忠誠。そのことは私たちもよく知っている。いささか外れた答えのようで、彼女らしくもある。
「私は、手段を選ばずジュリー様を止めます。不敬でしたら申し訳ありません…」
Bの答え。彼女は交友関係も広い。きっと止めることもできるだろう。犠牲はともかくとして。
なら、取り巻きAは?私はどうする?
「私は…そうならないように立ち回ります」
「皆様、私の突飛な質問に答えてくれましたわね。全て貴女達らしい答えでしたわ!リリー、貴女のは答えになってないともとれるけれど、私のことを考えているのが伝わってきたので、許して差し上げますわ」
もし狂ったら。そう尋ねられたけれど、ジュリー様が狂うなんて考えたくもない。そして、あの本ではジュリー様は狂わないし、実際ジュリー様のような心の強い方が狂うとも思えない。思いたくもない。
帰り道、馬車に揺られながら、私は答えを探し続けた。