一章(一年目四月の一)
若干の百合回
ジュリー様はあの平民が気に入らないらしい。
最近(現在入学直後)は、私は「あの物語」のように平民あがりの主人公をいじめるのに加担している。いや、正直主人公目線になると辛いんだろうなー、って思う。思うんだけれども、最終的にこれが役に立つらしい。本の通りだと、ね。
主人公視点で最初に降りかかる大きな出来事、災難は、パーティーで顔に熱湯がかけられそうになるところだと思う。かけられそうになる、っていうのは、主人公が得意とする防御魔法で防ぐからなのだが…
「平民は冷や水でも浴びていなさい!」
トイレに入っている主人公に、トイレの上から水を浴びせるジュリー様。トイレの中で無詠唱の防御魔法が発動する気配がしたが、その直後に冷たそうな声がしたのを聞く限り、
主人公の防御魔法はまだ固体しか防げないのだろう。液体の水がすり抜けることを学んで、主人公は防御魔法をたぶん改善するのだろう。それで、普通は発動できないような速度で魔法を咄嗟に使い、顔の火傷を防げるって訳。
これさ、ジュリー様お助けキャラだと思うんだよね。主人公に前もって敵の脅威と取るべき対策を教えてくれるお助けキャラの鑑。しかもさ…
これはここだけの話なんだけど、今は、ジュリー様は主人公のことが好きなのかも。ジュリー様主人公のこと好き説。ハッ?そんなまっさかぁと思うじゃん?でもさ、私はジュリー様視点でたくさん小説読み込んでるわけ、その結論がこれ。ジュリー様は何だか生まれて初めての感覚にモヤモヤしてたって描写、初見じゃ見逃しちゃうよね。好きな相手にちょっかい出しちゃうやつ。うっ、主人公が羨まし…いや、なんでもない。
まあでも、ジュリー様がいっけん嫌な奴なのは変わらないわけで、私がなんでジュリー様を好きなのかというと、ありきたりだって言われるかもしれないけど、
「彼女に水をかけたのは私ですわ。私が独りでやったのです。だから、私のかわいい友人には罰を与えないでくれませんこと?」
これなんですよね。主人公が王子に泣きついて私たちが罪を問われた時の。ああ、私もう感極まって泣きそう。主人公視点では、ただ嫌なやつらが全員謹慎になるのを妨害した悪役令嬢なんだけど、私視点に、リリー視点にして見てみて!キュンとくる。あれ、でも小説でこんな早くにジュリー様謹慎してたっけ?おかしい、なんか違う気がするし私も学院休もう。そうしよう。
翌日、私はサボってぶらぶらしているところをジュリー様に見つかってしまった。
「私は確かにリリーを罰から除いたはずですのに、どうして休んでいますの?」
「寝坊しました」
「私の善意を受け取らなかったんですの?リリー、貴女にそんな権利は無いわ。今日は許しますが、次はありませんことよ」
「ジュリー様、申し訳ありません…ですが、ジュリー様のいない学校なんて…あ、いえ」
「何かありまして?」
「いえ、ナンデモナイデス」
「ま、まあ、しょうがないわね」
私はジュリー様が色々な意味で好きだが、それを明確な言葉にして伝えることはしない。今回も寝坊と言い訳した。嘘をついてしまった。その理由は、ずっとジュリー様の取り巻きでいたいから。ジュリー様には、ずっと私の上に立っていてもらわないとね。小説通りに物語を進めて、美味しいところを見たいっていうのもある。それに、
ジュリー様が、私の言いかけたセリフを聞いてどこか嬉しそうにしてるのを見ることができて、私は今最高級に幸せですから。