二章(一・六月・八 青年との会話)
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今後も
気づくと、温かいベッドに優しく寝かされていました。
私の周りをぶんぶん飛び回っていた術式は、ジュリー様の手で弾け飛び、もうありません。
その後、私は数日休んで体調を回復したあと、実習などを楽しむことができました。色々ありましたが、開き直って楽しみました。
セーリオが私のお見舞いにまで来てくださったのには驚かされました。なんと性格の良い御方なのでしょうか!私は(ジュリー様の意図を無視せぬよう)遠回しに謝罪をしましたが、彼は「そんな出来事は知りません」と…。
表面上は堂々の紳士たるセーリオですが、今回の件について、心の裡ではどうお思いなのでしょうか?迂遠さを保ちながら私は伺いました、「先日、私の思考を惑わせたものがあったのですが、そのような噂を存じ上げませんか?」
答え。
「時折、嫉妬深い主人に仕える『猟犬』が、僕の視界の隅を掠めることがあります。巷で飛び交う噂のように、魔法を使う猟犬ですね。きっと貴女も、それに手を噛まれたのでしょう。それは…忌々しいですが、ありえないことではありませんよ」
彼が私の事情に理解を示したので、私は安心した。折角会話できたのだから、良い印象を受けて欲しかったのだ。しかし、猟犬か。彼の周りも大変そうだ…。私の周りの人間関係は、頻繁に変化する。ジュリー様が私に対してより支配的になったように。ああ、これは本当に喜ぶべきではないのですが…!
それはともかく。それと同じように、この騎士を志す同級生と私の関係も、此度の件で新しく発生した。それが程々のもので、これからもずっと続くなら喜ばしい。ただ、私は「あの本」の内容にあったような、セーリオと誰かが話しているのを見たいのであり、私自身が同じ舞台に上がるのは気が引ける。それ故のほどほど。
「本来、猟犬は私のような土臭い者にしか飛びかからないのですが、貴女はどうしたのでしょうね」
ぎくり。私は唾を吞んだ。セーリオの変装が見たくて後をつけていたからとはいえない。
「さ、さあ…」
とまあ、こんなことがあったのだ。最後に彼は、
「貴女に対して、話す前は無機質な印象があったのですが、それが少し変わりました」
と言っていた。私について知られるのは、どうも恥ずかしい。
実習は終わった。私にある、考えるべきことが多い。あの本の中から読み取るべきことが読み取れていなかった。私はまた魔法にかけられていた。そして、未公開魔法は実際に存在した。もっとも、それを操れる猟犬は一握りだろう。そうであって欲しい。今後の活動では、他の魔法も考慮すべきだと思う。まあ後ろ二つは、常にジュリー様と行動していれば問題ない気もする。規格外の魔力量をお持ちなのです。
そういえば、行きの鉄道で第一王子が仰った「ジュリー様に迫る危険」って何だったのかなぁ。魔狼のことであって欲しい、私がジュリー様に攻撃魔法を放とうとしたことではないはず。そうでないと、ジュリー様にあまりにも申し訳ない。あの時は、本当に存在理由が崩壊しそうだった。そんなことを考えていた私は、私を心配そうに見つめる周りの空気に気がつけなかった。帰りの鉄道の話だ。
「リリー…?」
ジュリー様の声に顔を上げる。この時ジュリー様はたしかにとても心配そうなお顔をされていた。私は、初めて見る表情に驚いたが、それはほんの僅かな時間で、すぐに傲慢そうなお顔をされていた。そして、それが魅力的!
「リリー、今後は貴女を扱き使いますわよ。今のうちに覚悟を決めておきなさい?」
「は、はい」
最終的には。ジュリー様と私の繋がりが強化されたと、私はそう思っていた。そして、それは実際にそうだった。




